インタビュー

WoodInterview
(3)子どもの耳と環境
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(3)子どもの耳と環境

子どもの耳にフィードバックできるかどうか、耳を大切にする音の環境

(3)子どもの耳と環境

話し手:埼玉大学名誉教授 志村洋子氏 / 建築家 袴田喜夫氏

(3)子どもの耳と環境

子どもの耳と環境を考える対談の第3回は、子どもには大人が考える「上質な音」を聴かせることが本当に良いと思いますか?……というお話。「音の片付け」「耳の休憩時間」など、とても印象的で目からうろこです。ぜひご一読ください。

良い音をキーワードにした環境

―ここまで空間やハードの話でしたが、子どもを育てる環境をつくる中で、どのような音の学びがあれば良いと思いますか?


袴田:
僕はまだ答えを持っていませんが、自宅で良い音楽を聴くように、保育園でも良い音楽を聞くという発想で園舎をつくるという考えもあって然るべきと思います。そういうことを考えて設計したことがまだないですね。
結果的に残響時間の数字を落とすことだとしても、数字より前にまず皆で共有する認識として「音楽がきちんと流れるような保育園をつくろう」というような言い方だとすごくすんなり入ってくる感じがします。
たしかに幼稚園や保育園について、良い音楽という視点がこれまで設計になかったの、子どもたちが音楽を楽しむことを僕自身の設計のキーワードに加えられたらいいなと思いました。

同じような絵の話を今思い出したのですが、絵を教えるときに大きい紙を広げて「自由に描きなさいよ、はみ出しても良いから」と教えるのが日本の教育だと思います。フランスのルーブル美術館などへ行くと子どもたちが皆、模写をしているんです。あれは何かというと絵というものが子どもたちはわかっていないから、まず良い絵を勉強しなさい、良い絵を経験させるために良い絵を模写させるということなのだそうです。自分の考えで描くというのも並行してやるのかもしれないですけれども、日本であまり模写をやらせないです。
歌うことも大切なのだけれど、良い音楽を聴く、その良い音楽が流れるような保育園にするということも、門外漢ながら大切なのかなと思いました。

ー小さい時にどれだけたくさんの色を見たかがその子が持つ色のボキャブラリーになるということを聞いたことがあります。目だけでなく耳でもあるような気がします。良い音を聴かせるという保育理念と関連した空間づくりができたら素敵ですよね。

余計な音を提示しない、少なければ少ない方が子どもにとっては快適

―保育園だけでなく、子育ての環境全般においても音の視点で見たときに大人が子どもへの接し方で望ましいことや、子どもに良いというものはありますか?


志村:
音は少なければ少ないほど良いと思います。余計なものを提示しないというのがまず大事。あまりにもこの世の中には音が溢れているからです[i]。家庭でご両親がすきなオペラのアリアの情感を味わってほしいと赤ちゃんに常に流していたり、脳のトレーニングと言うことでモーツァルトを聴かせたりしても、それが子どもにとって何になるか?です。それより、いつも聞いているお母さんお父さんの声、おばあちゃんおじいちゃんの声で、「ネンネンネン♪」と声をかけてもらえる方が赤ちゃんにとっては心休まる音楽なんです。さらに幼児期になりますと、遊ぶ時の「音楽」で、まさにアクティヴラーニングを体現しています。自分が音を出して(or 声を出して)楽しむ、これが出発点になって、周りの人から「声をかけてもらう」ことでさらにいろいろな情報を感じ取ります。

乳幼児にとって「音楽」を聞くことは、それぞれの子どもの生活に身近である場合に限って「楽しむ」ことができる「音」になりえます。だからCDのオペラアリアは子どもには何も面白くないのです。楽器が面白いのは自分が鳴らしたときに、また、触ってみたら「こんな音が出る、面白い、もう一度さわろう」と思うから楽しい。「声」についてもしかり。ゆすって声掛けしてもらう、自分も声を出して、またその声に対して声をかけてもらえる。こうしたやり取りが音楽や歌遊びの楽しさの原点になります。

保育園で何かを食べたりみんなで集まったりした時に、オルゴールをかけたりバックミュージックをかけたりしますが、毎回同じ曲では合図のようなものになっていて、「音」を楽しむ音楽にはなっていません。特に、大人ができること「音楽を聞きながら、人と話す」ことは、児童期も後半になってからようやく獲得する力と考えられています。これは「カクテルパーティ効果」と言われている聴力で、喧噪のなかで自分の名前が聞き取れたり、電車のなかでも大人同士では会話が成立したりすることと同じです。子どもは、時間が分かれば音楽を合図にしなくたって集まれるし、遊べるし、逆にクリアに人の声が聞こえるので余計な音がない方が子どもにとっては楽しい空間になると私は思います。以前、ある番組で赤ちゃんのいるお宅を訪問し、音楽でどのように遊んでいるか、その様子を拝見したことがあります。その中であるお家に行ったらマリア・カラス(著名なオペラ歌手)が「カースタディーヴァー♪」って歌っている声が響いていました。CDで。マリア・カラスだわ、すごい曲と思って「お母さんはオペラが好きなんですか」とうかがいましたら、名曲ということなので、この子に聴かせたいとおっしゃって。(子どもは)オモチャで遊ぶのに夢中な様子でしたが、遊びの途中ではお母さんに喃語(なんご)でお話ししていました。聞こえている曲が赤ちゃんが好きな曲なのかどうかはついにわかりませんでした。

お母さんの「ネンネンネン♪」やおばあちゃんの「ホイホイホイ」といった手遊びや顔の表情の違いなど、人とのやり取りを介した音楽が、子どもにとっての音楽の出発点なのだと考えていただきたいです。その為にも、必要のない音はできるだけ片付けていただければ、子どもにとって快適な聞こえの空間になると思います。

袴田:
では保育園で音楽というのはあまり必要ないのですね。

志村:
家庭でも、もちろん保育室は、音楽がうまく聴けるような空間にしてほしいと思います。音楽を流して「音が細かく全部きれいに聞こえるね」とか「こんな小さくしても聞こえるね」,「大きな音はこんなダイナミックに聞こえるね」と感じられる空間であって欲しいです。

[i] デジタル化された「大音量」については、1999年「環境騒音のガイドライン」としてWHO専門委員会から出された資料によると、「学校及び幼稚園」では「授業中の暗騒音はLAeq値が35㏈以下」に抑えることが求められている。これは園などでの睡眠時間帯にも適用されており、保育の際に聴力損失を招くような活動がないようにすることとともに、午睡時の音環境に注意を払うことは大切なことである。(内耳の音圧レベルを測る仕組みは、新生児時点でも十分機能している。ABRでの新生児スクリーニング)

音を片付ける

―残響時間の小さい音環境であれば音楽を流しても良くて、そうでなければ最小限にした方が良いということですね。


志村:
音は片付けていただいた方が良いです。現代、特に都会では「音」が聞こえない時間がほとんどないからです。家庭内でのエピソードですが、まわりの音を制して親が大声で怒鳴っても聞こえなくて、室内の音を全部消してから話しかけたら、「お母さん何?」とやっと子どもが返事したそうです。親御さんはすごくびっくりしておられました。最近分かってきたことですが、雑音の中から聞くべき音を選び出す力は、児童期から16歳位まで発達していて、われわれ大人ができる「注聴」する力(背景に聞こえる音から、注意を向けるべき音を聞きとる力)はその後、獲得されるということです。注聴ができるにはけっこう時間がかかるということですね[i]。子どもがわざと無視しているのではなく聴こえないのですね。

「音楽」に関しては、保育でもいろいろなシステムが有り、中には、ものすごい音量で子どもたちがピアニカを弾いて、そこで先生が「もっと頑張って」と声をかけながら、ピアノの鍵盤をガンガン弾いて歌わせるというようなケースもあります。ピアニカはどこでも使っていますが、音楽のメロデイが持つフレーズ感と子どもの肺活量の持続、つまり息継ぎの途切れが一致しなかったり、音量のコントロールも難しかったりするので「音楽的」には綺麗な演奏をするのが難しい楽器です。例えば、月に一回の専門の先生による音楽指導を辛いと思っている子どもも多いことでしょう。
担任の先生たちも、やりたくないのにやっている子どもたちに「もっと頑張れ、もっと頑張れ」と言わなければならず、くたびれてしまいます。大人も子どもも耳が疲れ果ててしまうんですね。


[i]我々の「聴く」と言う行為は、必要に応じて情報を取り込んだり、情報をカットしたりを繰り返すことで成り立っている。こうした仕組みは「中枢性聴覚処理」と言われており、聴力検査で実施されている「単純な音」の高低や強弱の聞き取り(オージオメーター)とは大きく異なっている。
乳幼児期の子どもの内耳の蝸牛の仕組みは完成していて、音の高低などに関する反応は6か月齢で出来ているといわれる。しかし、たくさんある音の中から一つの音を選択できない(「選択的聴取」が上手くいかない)こともわかってきており、「中枢性聴覚処理」は青年期までかかると考えられるようになっている。
子どもは大人より20~30dB大きく聞こえていると考えられるデータもある。オージオメーターでの測定はチャンスレベルになりがちなため、乳幼児期の子どもではABRやOAEを使用した聴力測定をすることが多い。例えばOAE使用した結果では、一般成人(20歳)の平均的聴力とは大きく異なっていることが示されている。

耳の休憩時間をもつ

―子どもの耳がダメにならないために、音環境で気をつけないといけないことは何でしょうか?


志村:

聴力を守る意味で最も気をつけたいのは、テレビやパソコン、ゲーム機、また子どもの身近にあるおもちゃなどから出る音が常に聞こえている音環境にしないことです。パソコンやスマホのゲーム音楽効果音、いつもつけているエアコンの音が気になるほど大きかったり、子どものためと思ってのクラッシック音楽や子ども向けの音楽をずっと流していたりすることには、注意が必要です。子どもの聞こえのしくみは大人より広い周波数帯域の音を、「小さい音量」でも聴ける力をもっています。ですので大音量にさらされると聴力損失が起き、また、大きな音を常に聞いていることも、非常に耳を酷使することにつながります。音源をOFFにして、少し「耳の休憩時間」をもち、音を減らして、遠くから聞こえてくる音や鳥の鳴き声などに耳を傾けられるよう、内耳の細胞を休ませてあげることはとても大切なことなのです。
 

絵と音楽の違い、フィードバックできるかどうかが大切

袴田:
僕は音楽が不得意なんです。その話を大人になってから幼稚園の先生に会ったときに話したら、「私の音楽教育が下手だったからかしらね」ってずいぶんがっかりされました。でも、ピアノやバイオリンを習わされたりする子どもは、大抵嫌々やっているように思います。

志村:
そうですねー。最初から音楽が好きで習い事している人ばかりではないような気がします。が、もしいても、嫌々やっている子どもでも徐々に好きになって専門家になっている人もいるように思います。

袴田:
それに対してお絵かきの教室ってあるじゃないですか。僕の偏見ではないと思うのですがみんな結構面白がっているように思います。絵の方が取り組みやすい、音楽は子どもの頃は取りくめないということがあるのでしょうか?

志村:
絵は跡に残りますよね。だから後で評価してもらえるんですね。一方で音楽はそこでやったら消えてしまうので評価の仕様がないから、「あー楽しかった」で終わっちゃうわけです。今ならビデオで撮っていれば「あの時こうだったね」って思い出してもらえますけれども。絵の場合はそこにあって、充実感がそこに見て取れる、自分でやったことの跡が見えるけれど、音楽はやったことの跡が見えないという点はすごく違うものだと思います。

 

赤ちゃんはいろいろと試行錯誤しているうちに、「楽器は舐めておいしくないけれど、鳴らすと良い音がする」ということがわかるわけですよね。あ、そういえば楽器の中でも鍵盤楽器、ピアノはやっておいた方が良いですよ。年長になるほど手の動きができなくなってくるので、小さい時からピアノを練習しておくと指の動かし方が無理なく身につきます。大人になっても有効です。歳をとって大学生になってからピアノを弾こうと思ってもなかなか習得できなくて、かなり苦しい自分との戦いをしないといけません。「小さい時に習わせてあげてください。将来の職業選択が広がります」とお話ししています。ただ、保育活動で一斉に大勢が全体で、響く部屋の中でやる必要があるだろうか、自分が発している音が周囲の音でマスキングされてフィードバックできないのにやっていいんだろうか、ということが1番気になることです。聞こえてくる音をフィードバックすることで子どもは言語獲得しています。フィードバックできなかったらしゃべれないですから。リアルタイムでフィードバックして周りからの入力とマッチするから言語獲得[i]できるようになり、間違った語順で喋る人の中ですごしてもちゃんと日本語をしゃべれるようになるじゃないですか。でも残響の多い部屋での音楽活動ではなかなか自分が鳴らした音は明瞭には聞こえませんので。

[i]教室の騒音が小学生に与える影響に関しての研究は,欧米を中心に進み、中でも、小学生と成人を対象に,SN比(シグナル[S]とノイズ[N]の音圧の比率を指す。「SN比が高い」場合はシグナルがノイズより大きいため、シグナルを聴き取りやすい)の異なる部屋において発話認知能力を調べた研究は,低年齢ほどノイズの影響を強く受け低成績であったことを示している。
【参考文献】
Wroblewski M., Lewis D., Valente D., & Stelmachowicz P. (2012)
「Effects of reverberation on speech recognition in stationary and modulated noise by schoolaged children and young adults.」
– Ear and hearing, 33-6, 731-744.

また過去の研究より特に騒音の音圧レベルの違いに関連があったのは文字の読み能力で、つまり、読むことは騒音の音圧レベルの影響の受けやすいことが分かった。また、低学年の子どもは、成人と比べ「背景雑音」と室内の「残響」の影響を受けやすいことも示された。さらに、小学生の読みの力と騒音環境を関連付けるメカニズムは「言語獲得」にあることが示唆されている。

玄関に掲示された子どもたちの絵 目に見える絵と音楽の違い

玄関に掲示された子どもたちの絵 目に見える絵と音楽の違い

聞き手 藤村真喜

聞き手 藤村真喜

取材日:2018年6月7日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩
協 力:社会福祉法人 松栄福祉会 まつぼっくり保育園

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