インタビュー

WoodInterview
だだ商店 | 株式会社ヴィナイオータ 太田久人氏インタビュー[ 前編 ]
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インタビュー

だだ商店 | 株式会社ヴィナイオータ 太田久人氏インタビュー[ 前編 ]

もとの地形を活かし自然と共存する建築

だだ商店 | 株式会社ヴィナイオータ 太田久人氏インタビュー[ 前編 ]

施設名:だだ商店・だだ食堂(茨城県つくば市)
話し手:株式会社ヴィナイオータ 太田久人
設 計:LEMMING HOUSE
施 工:株式会社 柴 木材店

だだ商店 | 株式会社ヴィナイオータ 太田久人氏インタビュー[ 前編 ]

「日常の中に小さなスペシャルを」をモットーにナチュラルワインを中心に造り手の顔が見えるプロダクトを紹介するだだ商店が住宅地の中にそっとオープンしました。設計を手掛けられたのは建築家中村好文氏。地域に馴染み、時間と共に育っていく数多くの建築を設計してこられた中村氏とインポーターとして「唯一無二の美しさを表現する」ナチュラルワインを紹介する太田氏、施工を手掛けた地域工務店の柴木材店柴氏のインタビュー記事になります。ものづくり、地域、日常の豊かさ、自然との向き合い方、サスティナブルであること、コロナ禍にあって改めてライフスタイルに目を向けた我々に様々なメッセージを投げかけていただいています。

自然のもつ唯一無二さを表現

僕たち、ヴィナイオータはイタリアを中心にナチュラルワインと言われているものを中心に輸入し、扱っています。ナチュラルワインって何かと言うと農薬に頼らないような農業をして、自然から賜ったぶどうをその年の個性を生かすような造り方、つまり雨が多い年には薄くても良いじゃないかっていうような造り方をするものです。どんな食べ物もそうですけれども「濃い」ということがすごく重要とされていますよね。あるいは薄いものができたときに人工的に少し濃くすればいいんじゃないのっていうのがごくごく一般的なものの考え方ですけれどもそうではない。ナチュラルワインは自然の持つ唯一無二さを大事にして造られます。美しさは唯一無二か否かということを表す言葉だと僕は思っています。美しさにはいろいろな形があって、多様性があることが大事ですよね。美は何が何より美しいというものではないし、青は赤より美しい、春は夏より美しい、ふぐはイワシよりおいしいとか凄くナンセンスですよね。ふぐはふぐ、いわしはいわしっていう。このお店で僕が表現したかったことはワインの世界で大切にしている考え方と同じようなコンセプトをどれだけ建物全体、外構も含めたハードの中でも、お店でやることや品ぞろえ、提供するお料理の中にも一貫性を持って表現できるかということだったんです。中村さんの著書を読んで中村さんならきっと僕の考えていることを理解してくださるんじゃないかなぁと思ってお願いしました。

雨水を受け止めるワインコルク 様々な箇所にリユースの工夫が奥山 晴日

雨水を受け止めるワインコルク 様々な箇所にリユースの工夫が

自然と共存するように建築された建物

自然と共存するように建築された建物

緩やかな自然の地形を生かす計画

まずこの建物は会社の第二倉庫を兼ねたワインを貯蔵するセラーという意味合いがあります。第一倉庫も同様の半地下の構造になっています。もともとの緩やかな斜面を削って鉄筋コンクリートの箱を作り、削った時に出た残土を上にかけ戻しました。ちょうど天井スラブ部分には最低50cmは土が載っているような半洞窟状の構造です。半地下にした理由のひとつはワインが極端な温度変化にはストレスを感じやすいので、できるだけ緩やかに温度が変化するような環境にしたいということです。もうひとつは僕たちが扱っているワインの特性上、極端にエネルギーに頼るような機械的な温度管理をするというよりは自然の環境の中でできるだけ温度を守れるような建物にしたいということがありました。そこで半地下のセラーとセラーを基礎としたような建物を中村さんにお願いしたという経緯です。

食堂からの景色で心が安らぎます奥山 晴日

食堂からの景色で心が安らぎます

自然を破壊しない開発

この土地自体、もともとURが開発することになっていました。妻の実家がその開発区域内に畑や山林などの土地をポツポツとたくさん持っていたものですから分散していた土地を全部くっつけて僕の住まい兼会社と隣接している場所に換地をお願いしました。もうひとつURにお願いしたのはこの場所を開発しないでくださいということです。もし僕がお願いしていなかったら隣を見ての通り、田んぼとの高低差6メートル分、盛り土される予定だったのです。理由は下水管が上の道にしかないからです。下水管がもし田んぼの道の下に埋設することができたならば当然ここまで盛り土する必要はないわけです。そういう人都合の開発の仕方にはあまり賛成できませんでした。また、もし盛り土したらここにある大きな木を全部伐採しなきゃいけなかったのですね。僕はこの土地に住んで13年ぐらいになりますが、木は僕よりはるか先輩と言えるんですよね。先輩に対してどれだけリスペクトを払った開発ができるかということが僕にとってすごく大事なポイントでしので、大きな樹木を伐らずに建物はめ込んでくださいというのが中村さんにリクエストしたことのベースをなす1番難しかったポイントではないかと思います。

この薄い谷の地形になったのは当然偶然ではなく自然がもたらした必然なわけですから、僕たち人間の都合で極端に脚色することなく、破壊することなく建物をつくりたいです。あくまで僕たちは自然から間借りしている人間ですから自然全体に対して極端にご迷惑にならないような形で開発させていただくというのが本来あるべき建物のあり方じゃないかなと思っています。

近隣にもURによる開発が見受けられます

近隣にもURによる開発が見受けられます

建物からは広い空が望めます

建物からは広い空が望めます

伐採木でナチュラルな土留め

この建物には薪ストーブが二機あって、僕の自宅も薪ストーブを使っているので薪の確保がすごく大事なことなんです。伐採した木って産業廃棄物に扱われちゃうじゃないですか。でも僕たちにとってはすごく大切な薪になるので、仲良くなった造園屋さんたちにうちに置いて行ってもらっているんですね。おかげさまでこれだけ広い土地があるのでここに捨ててもらって玉切りをして薪をつくっています。ですがさすがに大きな切り株を素人が薪にするのは難しいのですが、造園をお願いしている高田造園さんが「大きな切り株は土留め代わりに使えるので残しておいてください」ということで土留としておいています。今は土留として役割を果たしていますが5年、10年かけて微生物が分解して、徐々に樹木が育って根を張ってくれることで切り株は朽ちても植物の力を借りてナチュラルな土留ができあがるという考えです。

切り株は本当に産業廃棄物なのか、それとも生をつなぐ1つのエネルギーになるのか。僕はやはり簡単に処理すべきものではないと考えますし、こういう形で使えるのはすごく素敵だなと思います。

切り株を使った土留

切り株を使った土留

薪のストック奥山 晴日

薪のストック

大地が呼吸する環境づくり

園路わきに節が抜けた竹が1メートル位刺しているのですが、雨が降ったときの1層下の地下水脈につなげるためのチャンネルでもありますし、微生物や菌糸がより深いところでが活動しやすくするための空気穴のような役割を果たしています。土の中で吸って吐いてという大地が呼吸できる空気の動きができます。より大地の中に水が染み込むような環境になる。この土地には一切人工的な暗渠にあたるようなものは入っていないんですけれども、土地に降った雨がこの大地に還っていくことを願ってこういう仕立て方を造園屋さんにお願いしています。建物の中にあるコンセプトをより完全に修飾するために外構をどう造るかも大切なことです。無農薬と言いますがまず何より大地そのものがちゃんと呼吸する環境を整えないといけない、手法論としての無農薬を実現しやすい環境をつくらないといけない。果樹を例にするとわかりやすいですけれども、かび病、うどんこ病という二大病気はどちらもカビみたいなものです。カビが生えづらい環境、つまり空気の流れがああり、水はけが良く、大地の中でも空気や水の流れがあって湿気がたまらないという状況ができたら、植物は健全に育つんじゃないですかねということが提唱されています。それを僕としてはこの土地全体でやりたいと思っています。

地面に埋まる竹から空気が深くまで届きます

地面に埋まる竹から空気が深くまで届きます

エピソードを力強く語ってくださる太田さん

エピソードを力強く語ってくださる太田さん

取材・編集:木造施設協議会
   写真:奥山 晴日(一部詳細と人物写真は木造施設協議会撮影)

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