
インタビュー
【取材報告】愛知県豊川市・イトコーの取り組み「教室の空気はビタミン材運動」

話し手:株式会社イトコー 会長 伊藤正幸氏

木造施設協議会の正会員工務店である「イトコー(愛知県豊橋市・OMソーラー加盟工務店)」では、地元の学校で生徒さんと一緒に教室の一部に木材を張るという「教室の空気はビタミン材運動」に長年取り組んでいます。
木造施設協議会の事務局長である柿崎が、同社代表の伊藤会長にインタビューをしてきましたのでご覧ください。
「教室の空気はビタミン材運動」とは
地域の間伐材からつくられた杉板を教室の壁に張ることで、子供たちに木の香り、木のぬくもりを知ってもらいたいという想いから始まった「穂の国の森から始まる家づくりの会」の運動の一つが「教室の空気はビタミン材運動」です。

株式会社イトコー 会長:伊藤正幸氏
「教室の空気はビタミン材運動」が発足した経緯
「穂の国の森から始まる家づくりの会」の活動のスタートは、地域との関わりを考えていく上で、1999年の山の見学会からスタートしています。
家づくりにおいて、使用される木材が育った土地の自然や気候、風土に触れて、五感で感じてもらう事で、木のやさしさや山のこと、林業のことも知ってもらいます。
また同じ時期に全国規模の活動をスタートした「近くの山の木で家をつくる運動」(緑の列島ネットワーク)の拠点としてエコショップも開設し、地域への積極的な発信を行っています。
その後、山の見学会だけでなく、実際に中学校を訪ねて生徒の皆さんに対して、木のすばらしさ、地域の山の大切さについて講演をした時、多くの生徒さんが元気ないなーと感じました。「本物の木の香りが子ども達を元気にしてくれるのでは??」と思い、その豊橋市内の中学校の校長先生に「教室の後ろの壁に杉板が張らせてください」と相談し、「せっかくなので全部の教室に黒板の横の掲示版に張りましょう」と提案したところ快諾を受け、中学校のボランティア部と先生とイトコーの大工の協働作業で張る事ができました。
その後、「教室の空気はビタミン材運動」が正式にスタートしました。

杉板を張るタイミング
一般的に夏休みや日曜などの授業のない日程と思われますが、実際には学校の授業が半日(午前授業)のような日程の午後の時間を使っています。その方が生徒も先生も負担が少なく、確実に集まってもらえます。
養生をして、寸法を確認し、杉板をカットし、釘で打ち付けていきますが、イトコーの大工や電気工事業者などの協力会のサポートのもと、作業は生徒や先生に行ってもらいますので、約2時間位かかります。
木材や釘などの材料や張る手間などの費用負担
間伐材は「穂の国から始まる家づくりの会」で用意して、実際に掲示板サイズの寸法にカットしたり、前準備を当会で行い、真鍮釘で板を張ったりは、生徒や先生にやってもらっています。
しかし不慣れな先生もいますので、イトコーの大工や電気工事業者など協力会のスタッフにも参加してもらっています。
運動が広がっていくきっかけやバックアップ
実際に張っていただいた中学校の校長先生が、地元新聞にコラムを書いていただき反響を呼びました。
また校長先生が異動・退職などで学校を去られる際に、次の新任の校長先生へ「教室の空気はビタミン材運動」を申し送りしてくれるケースが出てきたり、校長先生同士の横の繋がりで広がりを見せています。
苦労した点
私たちは木のぬくもりが人間に対して癒し・やすらぎ・リラックスなどの効果をもたらす事を、仕事の中でも経験しています。ある時、中学校3年生の教室に「教室の空気はビタミン材運動」を提案しました。
その理由は上記のような効果を、受験で頑張っている生徒の後押しになればとの想いでした。
しかし先生からの反応は「大切な受験の3年生の教室には、良くも悪くも環境の変化を与えたくない」というお断りでした。
また他の先生からは「金づちでケガをしたら大変」との声や校長先生からは「先生の負担を増やす事になるので遠慮したい」との声もあり、こちらの想いと、学校の現場の声のすれ違いもありました。

2002年の活動スタートから実施した学校数
「教室の空気はビタミン材運動」が2002年からスタートし、全部で豊川市・豊橋市・蒲郡市・新城市などで38校の小学校・中学校・高校の学校で、延べ5千人と活動を一緒に実践させていただきました。
1年目には既存の掲示板の上に杉板を張る「教室の空気はビタミン材運動」を、そして同じ教室にて2年目には、次の新しい生徒を迎えて「循環する教室の空気はビタミン材運動」で新しい杉板に張り替えを実践しています。
小学校や中学校での運動の実践から見えてきた、次のステップ
「教室の空気はビタミン材運動」は20年以上継続した運動です。
今までにロータリーの機関誌に4ページの特集を掲載してもらったり、地元新聞に掲載されたりしました。
しかし小学校・中学校などの教育施設から民間への流れは、まだまだ少ないと感じています。
今までに民間会社の社長室の壁にも、杉板を複数社で張らせてもらいました。
今後は「教室の空気はビタミン材運動」の一貫として、木が持っている人間に対する効果を、もっともっと診療所や福祉施設、民間企業などにも伝え、活動を実践していきたいと考えています。
またこの活動に参加した当時は小学生・中学生だった子ども達が、20年・30年後に大人になって家を新築する時に「教室の空気はビタミン材運動」を思い出して、「穂の国の森の木」で家を建ててくれることを心から願っています。
