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【開催報告】『環境シミュレーションと建築デザインの横断』設計セミナー
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【開催報告】『環境シミュレーションと建築デザインの横断』設計セミナー

住まい手とのコミュニケーションをサポートする環境エンジニアリング

【開催報告】『環境シミュレーションと建築デザインの横断』設計セミナー

話し手:登壇:谷口景一朗氏|進行:相羽健太郎

【開催報告】『環境シミュレーションと建築デザインの横断』設計セミナー

2022年8月25日、スタジオノラ共同主宰/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻特任准教授、谷口景一朗さんにご登壇いただき、環境シミュレーションによって、光、風、温熱環境といった環境要素を手がかりにして建築デザインがどのように応答し、展開していくのかについてお話しいただきました。

建築設計段階における環境エンジニアリングの関わりとその手法

環境シミュレーションを介在させて設計初期段階からどれだけ効果的な検討を行えるかが重要であり、その手法は段階やプロジェクトの性質によって選択していくという関わり方とバリエーションのお話から始まりました。

様々な環境シミュレーション

様々な環境シミュレーション

なぜ環境シミュレーションを用いて温熱・風・光環境を可視化するのか?

環境シミュレーションは住空間を取り巻く目に見えない要素を可視化するものであり、それは本当に快適な空間になっているか確かめるため、またどのように住みこなせばよいのか住まい手とのコミュニケーションをサポートするためであると言います。続いて、3件の事例紹介に移ります。日照条件の恵まれない敷地の住宅、パッシブデザイン手法を取り入れた保育園(ZEB)、床下エアコンの効果を検証した住宅の3事例について紹介いただきました。
1件目の下馬の住宅は奥まった日照条件の悪い敷地で、北の天空光を活かした光環境、道路に沿った風をつかまえる通風環境を意匠設計からすべて手掛けた事例です。竣工後には住まい手が「シミュレーション通りに風が吹くね」と納得感をもって住みこなしているそうです。

通風シミュレーション

通風シミュレーション

照度シミュレーション

照度シミュレーション

多層化する居場所

多層化する居場所

風をつかまえる形態、性能、子供の生活空間に配慮した通風換気計画

2件目のたんぽぽ保育園は意匠設計者と協働した事例です。まず、いつ通風利用できるのか気象分析をした上で風をとらえ、冬の朝の日射を取り込みやすい形態を提案しました。建物の箱の性能の設計、どの窓の性能を上げると費用対効果が高いのか、床暖房の有無についての体感温度、子供の生活領域に配慮した換気計画、サッシの納まりとヒートブリッジといった様々な検討を行ったプロセスをご紹介いただきました。

設計初期段階での風をとらえる形態の提案

設計初期段階での風をとらえる形態の提案

たんぽぽ保育園内観

たんぽぽ保育園内観

たんぽぽ保育園外観

たんぽぽ保育園外観

床下エアコンの効果を最大化する基礎形状と吹き出し口の計画

3件目の古川の住宅は床下エアコンの効果をCFDによって検証しました。計算結果を踏まえて当時の現場の段階でも対応できる基礎を一部変更、吹き出し口の位置や数、配置を計画し、よりよい温熱環境になるように設計にフィードバックしました。この事例では計算結果を直接住まい手に説明することで安心と納得感を持っていただくことができたそうです。

床下の対流を改善する対策の提案

床下の対流を改善する対策の提案

住まい手の工夫は建築の工夫と同じくらい大事

建築の性能を上げることはもちろん大事だがそれと同じくらい特に住宅ではどのように住まい手が工夫して住みこなしていくのかも重要だと谷口氏は言います。
シミュレーションはカーテンやシェードの開閉による日射遮蔽、窓開けの通風といった住まい手の工夫も加味することができます。そのため、住まい手が暮らしを想像し想いを馳せるのに有効な手段であり、その段階を経てどのレベルの性能でどのくらい費用をかけるのか安心感をもって選択していくことができるということです。
シミュレーションを見せて終わりではなく、結果を踏まえて工夫を出し合えるような使い方が望ましく、省エネルギーの対応が迫られる昨今はむしろチャンスであり、自社でできる種類のシミュレーションからまずは取り組んでほしいと参加いただいた設計者や工務店に向けて締めくくられました。
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

建物性能と住まい手の環境調整行動によって変化する室温のイメージ

建物性能と住まい手の環境調整行動によって変化する室温のイメージ

周辺環境を考慮したパッシブデザイン

周辺環境を考慮したパッシブデザイン

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