ジャーナル
【開催報告】2019/6/11 地域の工務店が行政を動かし 公営住宅を建てた実践事例に学ぶワーキング
地域の工務店が行政を動かした実践の秘訣をすべて公開!
施設名:西原村買取型災害公営住宅/姶良市永原定住促進住宅(熊本県西原村、鹿児島県姶良市)
6月11日(火)12日(水)熊本県・鹿児島県にて「地域の工務店が行政を動かし公営住宅を建てた実践事例に学ぶワーキング」を開催させていただきました。
全国各地から12名の方々が参加され、初日は熊本県・鹿児島県の2つのタイプの違う公営住宅を見学させていただき、2日目には実際の計画からの経緯や工事での苦労、建物性能、予算、地域工務店としてあるべき姿など多岐にわたりお話をお聞きするワーキングを開催させていただきました。
高性能で良質な公営住宅の建築を短期間で実現
まずはじめに、JR熊本駅から車で約50分東に位置する西原村山西地区にある「西原村買取型災害公営住宅」を見学させていただきました。
山西地区は小学校に隣接する村所有の土地で、元々は桑畑や一部山林でした。ここに公営住宅45棟と集会所1棟が短期間の6ヶ月の工期で完成しました。公営住宅は各65㎡から80㎡の2LDK・3LDKですが、通常の公営住宅では考えられないような仕様になっていました。サッシにはLow-Eガラス遮熱タイプ、屋根・壁の断熱にはデコス工法が充填されており、建物の基本性能(UA値0.5W/(㎡k)/断熱等級4等級/省エネ等級5等級)が高められており、エバーフィールドの久原社長は「住まい手に、快適健康な暮らしをしてもらいたいだけでなく、光熱費の低減にも貢献する事で、長く安心して暮らしてほしい」とおっしゃいました。
入居者も行政も工務店も、地域で「三方良し」の仕組み
今回の公営住宅が、地域の住宅中心の工務店が受注できたのは、いくつかの創意工夫と熱意によるものでした。一般的には公共工事またはURや大手メーカーによる買取型となる公営住宅ですが、今回は民間による買取型、さらに県が地元企業に活躍してもらうために作った仕組みである県技術協力による内容でプロポーザルが行われた事により、地域の工務店と若手建築家10名のグループが受注しています。この方式により、コストダウン、工期短縮、地元循環に貢献、追加予算の心配なし、建物の基本性能のアップが可能に。行政も県の技術支援を受けることでの安心があり、入居者だけでなく、行政、工務店、地域とさまざまなメリットを享受できます。
短期間の工期を可能とした地域や業界の連携
今回熊本県の災害公営住宅は全体で70団地1,717戸のうち、買取型が1,310戸、そのうち民間のよる買取型が854戸。さらに地元工務店による買取型災害公営住宅が420戸となっており、全体の1/4が地元工務店によるものとなっています。
また心配された6ヶ月という短工期の工事には全木協の協力を得て60名の大工を確保してもらい、一部森林の伐採や伐根から始まり建築工事と道路工事、給排水工事、電柱工事などを同時進行に行う事で、短期間で竣工しています。
今回竣工を迎えた久原社長は「1位になる必要はないが、1番になる事が大切だ」ともおっしゃいました。1番早く竣工した事で、熊本県知事がオープニングに来られたり、メディアに対するインパクトも多くあるようです。
参加者の感想から
今回西原村の担当者の山田係長にご案内していただきましたが、「当初は不安を感じていたが、久原社長の熱意や行動力、県の技術的なサポートもあり安心して進められた。今は入居者が喜んでくれているのがとてもよかった」とおっしゃいました。
今回のワーキングに参加された工務店さんからも「とても公営住宅とは思えない性能の建物」「駐車スペースを共用としてまとめた事で、緩やかな歩道がとてもよく、入居者のコミュニティになっている」「短期間の工事、大工の手配など大変だったと思うが、まとめあげたのは久原さんの熱意だと感服します」などの意見や感想がありました。
ワーキング後半は永原定住促進住宅へ
次にバスを約2時間半走らせ、鹿児島中央駅から東に車で約40分の姶良市の永原定住促進住宅を見学させていただきました。こちらは姶良市が定期借上げする6棟の公営住宅になります。永原地区に定住してもらうために地元の小学校に通学する小学生の家族を対象とした公営住宅です。見学については、6区画を建設された創建の有村社長にご案内いただきました。
有村社長は、永原定住促進住宅の計画が持ち上がった際に、「これは西原村の公営住宅の提案を持ち込みたい」と思案し、久原社長の協力を仰ぎ、実際に落札をしたとのことです。
熊本の公営住宅の取り組みが鹿児島へ。地域を越えた展開
土地は市の所有地ですが、建物は創建の所有になり、姶良市が18年間一括借上げを行い、18年後には創建から姶良市に無償譲渡となります。
鹿児島市のベッドタウンとして、旧姶良町時代の首長(町長)は、我が町の目標は「一つ上をいく住の街の暮らし」を掲げたことから、熊本県の西原村同様、建物のサッシにはLow-Eガラス遮熱タイプ、屋根・壁の断熱にはデコス工法が充填されており、建物の基本性能を高められた事により公営住宅では考えられない一つ上をいく暮らしの提供になっています。また姶良市にとっても、定期借上げ方式は、市が直接資産を持つことがなく、初期投資もない事から、最近の行政のスリム化や民営化の流れに合致しています。工事については4ヶ月の工期の中で、4棟を創建社員大工、専属手間受け大工、2棟を外注にて手間受けにて工事を行っています。
参加された工務店さんからは「姶良市との契約内容や銀行からの融資など詳細も聞けてとても参考になった」「地元によい公営住宅を建てたいという有村社長の気持ちが伝わってきた」などの感想がありました。
■協力:株式会社エバーフィールド・代表取締役久原英司氏
株式会社創建・代表取締役有村忠一氏
【西原村買取型災害公営住宅】
・棟 数:公営住宅45棟+集会所1棟
・方 式:民間による買取型公営住宅
・設計施工:株式会社エバーフィールド&kulos(地元の若手設計士グループ)
【姶良市永原定住促進住宅】
・棟 数:公営住宅6棟
・方 式:民間による定期借上公営住宅
・設計施工:株式会社創建
文責:木造施設協議会事務局