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第2回公民連携リレーセミナー2022①
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第2回公民連携リレーセミナー2022①

未来世代に選ばれる街を目指して

第2回公民連携リレーセミナー2022①

話し手:登壇:國廣純子氏 進行:相羽健太郎 藤村真喜

第2回公民連携リレーセミナー2022①

タウンマネージャー 國廣純子さんをお招きし2022年4月に開催した「第2回公民連携リレーセミナー2022」
國廣さんは現在青梅市、あきる野市、五日市市、池袋北口のタウンマネージャーとして地域行政と民間の繋ぎ役として市街地再生に従事されています。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本銀行調査統計局に勤務。その後東京理科大学で建築を学び、国内のみならず中国でも建築設計や都市計画に携わった経歴を持つ國廣さん。地域の持つポテンシャルをまずは地域の人に理解してもらえるよう情報を整理・分析しながら発信し、多くの人と関わり巻き込みながら未来世代に選ばれるまちづくりを目指して各地域のチームメンバーと協働
しながら地域再生事業の推進に取り組まれています。
今回は、この4月で関わって10年目になるという青梅市の中心市街地活性化のお話を中心にレポートします。

公民連携でマーケットを広げる

國廣氏
人口減少という局面を迎える社会において、行政と民間がそれぞれの立場で得意な分野を担い、より魅力ある地域を目指していくのが公民連携です。
行政・公共団体のメリットは財源の節約や民間のノウハウを使って街を活性化すること。民間としてのメリットは、公共的なサービスに参加して投資のリスクを軽減しながら事業参画ができることです。タウンマネージャーはそのサポート役として調整や事業立案・推進を行います。
個別の企業でただやりたいと思っていてもなかなか実現しないことも、事業の目的に賛同する地域内のメンバーで集まって公共的な組織をつくり、声を上げることで前に進みやすくなります。
地域では建築がダウンサイズを余儀なくされるケースも増えているなかで、木造施設の建設や木質化のリノベーションという手法はとても有益だと考えています。

魅力的な街づくりをするためには、「仕組みづくり」「イメージづくり」「エリアマネジメント」の3つが大切です。一企業が役割を担いながら地域共益事業への積極的な参加をすることこそ、地域の価値と経験値をあげ、マーケットを広げることにつながっていきます。

青梅市の事例

都心からJRで約1時間。青梅市は、かつては宿場町として栄えたまちです。山と川に囲まれ平地が少ない市街地を中心に、高度経済成長期に面的に新しい施設や住宅を建設していくことが難しく、都市機能が分散してしまっているというのが現状です。毎年5月に開催されている青梅大祭(ここ数年はコロナ禍の影響で中止に)には25万人もの来場があり、駅前の商店街には昭和レトロな雰囲気が漂う魅力的な街ですが、大手製造業事業所の撤退・駅前のスーパーマーケット撤退・大学キャンパス閉鎖・観光資源だった「梅の公園」の樹木のウイルス感染での全量伐採など衰退の逆風も吹く中で目標を持って街の活性化を進めてきました。
大きなきっかけは2013年に青梅市中心市街地活性化協議会を設立したことです。数値目標として、居住人口を大幅に減らさない誘導をすること。新規出店数を毎年伸ばしていくこと。回遊性の向上(観光に関する指標)という3つを掲げています。2015年には行政や商工会議所・地域商店街が出資をして株式会社まちつくり青梅が設立されました。

青梅市中心市街地活性化協議会 公式サイト
https://www.omecci.jp/somu/cyuktsu/index.html

平成28年度に認定された中心市街地活性化基本計画一覧
https://www.chisou.go.jp/tiiki/chukatu/h28.html

青梅市(中心市街地活性化基本計画の概要)
https://www.chisou.go.jp/tiiki/chukatu/pdf_nintei/199_ome_gaiyou.pdf

魅力的な街づくりのための協働

青梅市役所 商工観光課 中心市街地活性化担当 田中さん

青梅市役所 商工観光課 中心市街地活性化担当 田中さん

青梅商工会議所 地域振興課 中心市街地活性化担当 岩波さん

青梅商工会議所 地域振興課 中心市街地活性化担当 岩波さん

株式会社まちつくり青梅 田中さん

株式会社まちつくり青梅 田中さん

株式会社まちつくり青梅では、市街地の駐車場経営を収益事業として3名のスタッフが雇用され、公益事業としておうめマルシェやアキテンポ不動産の運営をしています。
2015年駅前のスーパーマーケットの不動産係争による撤退をきっかけに、地域の若手が地域の新たな買い物拠点となるマーケットイベントを、とおうめマルシェをはじめました。場所は中心市街地にある駐車場。場所を決める際も、複数の候補地から既存の店舗群と連携効果が高くなる場所をあらかじめ分析によって割出しました。
マルシェには商店街の各店舗も参加。イベントのためのメニューや売り出し企画を無理のない範囲で用意してもらい、一緒に盛り上げてもらいました。この取り組みはネットメディアや新聞にも幅広く取り上げられ話題になりました。

地上げで撤退したスーパーマーケット

地上げで撤退したスーパーマーケット

おうめマルシェ

おうめマルシェ

アキテンポ不動産

商店を廃業されたあと店舗が賃貸に出されない物件が市街地に30件以上となり、地域ぐるみで課題解決のために立ち上げた事業がアキテンポ不動産です。
2013年に街の中心となる3つのエリアで、商店者さんが65歳以上で後継者がいない方の統計をとりました。結果は3つを平均して約55%を超えていました。他人のお店の事情に関われない……と地域が遠慮して声をかけずにいたら、20年後には5割のお店が閉まっていく可能性があるなか、「それを市街地と言い続けられますか?」と地域の人たちに当時お伝えしたところ、皆さん愕然とされて、まちづくり会社の設立を通じた空き店舗対策を地域ぐるみで取り組むことへ意識が向かうことになりました。そこで誕生した事業がアキテンポ不動産です。

まず初めに100件ほどの空き店舗を地図に落とし、一つひとつ確認して20件ほどが物件オーナーと連絡を取ることができそうだと分かりました。オーナーと面識のある協力者(商店会長や自治会長)から最初に連絡をしてもらい、まちづくり会社の活動主旨を直接ご説明しながら賃貸として利用できることになったのが5件ほど。まずはこの5件の開業者を公募しようとアキテンポギャラリーを作り、見学会を企画して参加者をつのりました。
見学会を開いて若い人たちを連れていくと、オーナーさんもポジティブになってきて、次の見学ツアーまでに少しずつ片付けをしていてくれたこともありました。

アキテンポギャラリー

アキテンポギャラリー

アキテンポ見学会の様子

アキテンポ見学会の様子

青梅商工会議所では、もともと創業支援に力を入れていたため、中心市街地活性化の推進と並行して創業支援センター設立が進められており、アキテンポ不動産の立ち上げと時期同じくして商工会議所の会員ではない方も無料で相談できる窓口が東青梅に設置されました。以後、主催する創業塾の受講生は毎年100人にのぼる程、開業意欲の高いエリアとなっていきます。

おうめマルシェに出店していた酒屋の3代目が、マルシェでは大手メーカーのビールよりも単価が高いが地域特色のあるクラフトビールが売れると話していたため、まちつくり青梅がサブリース開発し、建築家の西沢大良さんにリノベーションデザインしていただいた空き店舗の内覧をすすめたところ、クラフトビール店の開業へつながったこともあります。

クラフトビール店 青梅麦酒(元化粧品店「いたや」を改修。当時のテントはあえて残した。)

クラフトビール店 青梅麦酒(元化粧品店「いたや」を改修。当時のテントはあえて残した。)

9年間で賃貸市場に出ていなかった40店舗を開拓し、そのうち27件が開業に至りました。最初は5件の見学会からスタートした取り組みが、商店街の方々の声がけで広がっていき、アキテンポ不動産以外の物件の動きも活発となり再生を推進する青梅の中心市街地(青梅〜東青梅)では120件が開業。既存店舗の廃業が72件となり、純増の状況まで持って行くことができました。

おうめマルシェとの連動効果

アキテンポ不動産がスタートした当初、直前にはじまったおうめマルシェの参加事業者からの開業やポップアップ営業が、まちの開業機運を高めてくれました。2つの事業がはからずも連動することとなり、その後の開業者増にもつながったと実感しています。

おうめマルシェは開業者を増やすだけでなく、参加事業者が自分の地元にノウハウを持ち帰り、仲間を誘って新たなイベントづくりをするなど、中心市街地を超えた波及効果も生み出しています。

目的達成のための下準備

コロナ禍の郊外移住や新しいライフスタイルを求める方からの需要もあり、昨年はアキテンポ不動産の問い合わせが急増しました。春先の内覧や問合せの件数だけでも例年の30倍となっており、2021年以降も開業が増えています。急激にニーズが増える前にしくみを作っておいたことが、強力な受け皿になっています。

また、まちつくり青梅がサブリース開発してモデル事業にしている青梅時間には、民泊・カフェが複合入居していますが、コロナ禍でも週末観光に加え、ワーケーション滞在やお試し移住の利用が増えており、当初はインバウンドを見込んだ事業であったものの、週末観光を移住のフックとして生かせるようなまちづくり事業をやってきたからこその、成果と捉えています。

街の外と内に伝える

街の人たちからの「この市街地ポテンシャルあるの?」という問いに答え続けた初動期の2、3年間には物件も動かず、街会社を作ることに抵抗のある声も上がる中で、地域の若手を巻き込んで映画の街ならではの上映イベントを開催したり、青梅の日本酒「澤乃井」との協働で日本酒のイベントを開催したり、話題の尽きないまちづくりを進めてきました。そういったイベントの成果から少しづつ街の人たちに協力をいただけるようになり、今では70代のシニア世代の方にSNSを教えて発信してもらったり、行きつけの飲み屋のママに「この情報広めてもらえますか」とお願いすることもあります。
さらに、タウンマネジメントや連業会議などの日々の活動を発信することで、プロジェクトができるまでのプロセスをまちの方々と共有し、運営時にはすでに多くの人に認知されている状況をつくり続けています。

これは青梅に限らず、あきる野や五日市でも実践していることですが、街に呼びたい若い人にはSNSを。デジタル機器に日常触れていない地域の方々には新聞や広報誌をと、伝えたい人によって媒体を使い分けて発信しています。

中心市街地の活性化は、民間のノウハウを活用することでより魅力ある地域を目指すことができます。そして、タウンマネージャーはあくまでもその市街地再生チームの一員です。

街づくりは地域や人それぞれの立場によって、力の入れ所が異なります。住みたい(定住対策)・訪問したい(商業対策)・働きたい(産業対策)の3要素を、どのようなバランスで組み立てていくか。国が支援する中心市街地の活性化のプログラムに当てはめながら、地域の特色に基づいてストーリーをつくります。

未来世代に継続的に一定数住み続けてもらう仕組みづくりを一番の目的と定め、このまちで住みながら開業したいと思ってもらえるイメージづくりが重要です。そうしたソフト面を打ち出しつつ、地域のニーズを読み込みながら、街の人たちにも、外の若い人たちにも当事者意識を醸成するように戦略的に働きかけていく。

タウンマネジメントとは、その街ごとに年更新のメカニズムを把握して投資事業を取捨選択し、相乗効果をあげていくためのマネジメントです。
未来世代に選ばれる街を目指して、魅力的な街づくりを続けていきます。

取材後期

今あるもの、埋もれているものを地域に合ったかたちで引き出して、街の外にも内にも伝え足を運んでもらう。その上でしっかり街に経済効果を与えること。それを継続できる仕組みや関係づくりにねばり強く取り組む國廣さんの活動は、タウンマネージャーのみならず私たち地域工務店の役割としても求められているように思います。
地域工務店でもマルシェを開催する例が多い中で、地域の人たちに楽しい場を提供するという気持ちを持って開催されていること、自分達も楽しんでやること、経済的に無理なくやれる方法を見つけることが、イベントの持続可能な仕組みづくりへとつながるのではないかと感じました。
家づくりの仕事にとどまらず、地域を魅力的にすることや、つながりづくりのための地域活動にとても興味が湧きました。そういった事業の裾野を広げるためには、コミュニティーや協働力が試されている気がします。まずは自分自身が仕事と生活の距離を縮め、共感し合えるつながりを持ち、大切にしていきたいです。
國廣さんと登壇者の皆様、貴重なお話をありがとうございました!

(文:木造施設協議会事務局|相羽建設 中村桃子)

木造施設協議会について