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学び高め合う、地域に根差すものづくり(2)
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学び高め合う、地域に根差すものづくり(2)

地域材を見極める力、生かす力

学び高め合う、地域に根差すものづくり(2)

話し手:山辺豊彦氏(山辺構造設計事務所)

学び高め合う、地域に根差すものづくり(2)

地域の木を無垢材として活用する

地域の木材を生かすと言っても、無垢製材(Ⅰ)、集成材、合板、チップやペレットといったバイオマス等、様々な方法があります。林業者の山長商店さんのお話では、地域材をどう生かすのかと山の循環について、無垢製材を利用することが山に返す力が最も大きいと言えるとお聞きしました。(参照リンク:山長商店榎本会長インタビュー)しかし施設という、まとまった規模で無垢製材 を活用する際には、JAS材のハードルがあります。公共建築物の基準で「製材等は、原則としてJASに適合するもの」と定められていますが(Ⅱ)、JAS材を使うとなると流通量が少ないためにコストがかかり、結局製材を使わないという選択をしている設計者の生の声を聞きます。このあたりについて、どのように考え、見極めて材料を選定されるべきなのかを伺いました。

山辺:
“地域の無垢材を利用すること、僕は大賛成です。特に地域材の活用となると、無垢材を使わないと意味がないんです。例えばラミナ(Ⅲ)に曳いても地域材でつくっているんだから地域材なんだという人もいますが、結論的にいうと(集成材として利用すると)ほとんど鉄骨に近いような部材になる。人工的につくりだしている部材という位置づけになるんです。木材であるとはいえ、人工的な手順が加わって工業化製品になっているわけです。本来、無垢材のメリットというのは、地域力を活用し、地域の製材所や工務店がつくることです。そういう一番良いところをあえて手放して工業化製品を入れるというのは、僕は積極的には賛同できない。”

良い材料を見極めるチェックポイント

つくり手が目の前にある木材と向き合って正しく見極めれば必ずしもJAS製材にこだわる必要はなく、逆に適切に材料を選定できると山辺氏は言います。そこで確認すべきは打音によるヤング測定と合わせて、目視による節の集中と目切れ(Ⅳ)の2つのチェックポイントです。応力が大きくかかるところには節がたくさんある材は使わない。そのような材は余力がある部分に使う、まさに「適材適所」の判断が必要です。

山辺:
“木材の構造的な性質を知るには実際に実験するのが良いんだけれど、使う材を全て試験するのは難しいので、目視等級のチェックポイントをおさえておくと良いですね。目視で一番チェックするのはスパンが飛ぶ材料の節。製材で3m以上スパンを飛ばす場合に中央下端に節が集中しているような材は使わない。節が集中している材は応力が小さいところを選んで使えばいい。建築には応力が厳しいところばっかりではなくて厳しくないところもいっぱいあるわけですよ。もうひとつ目視でチェックするのは目切れ。目切れは、乾けば乾くほど木目に沿って割れが入ってくる可能性がある。材料の節と目切れ、そのふたつだけチェックすれば、使い方は問題ないと思います。ヤングについては木材は打音で判断できる。それは最低限しておいたほうが良い。
JAS製材だけを公共建築での材木として使えるように認証するという方法は、地域の建築や林業にとって厳しい制約になっている現場を目にする。法律は材木に認証材だけしか使えないというルールを設けるのではなく、用いられる材木をきちんと調べて、使える材だとしっかりと判断・選定できる環境をつくることが大事なんだ。
例えば、木材のヤングを知りたいというなら、打音で行うか、人が乗って変形量を測れば良いと思う。あとは目視で節、目切れを見る。打音と目視を合わせて材を見ないと、安全な材料の選定はできない。”


またJAS製材の使用については法文と実体との間で次のような問題もあると話されました。

山辺:
“日本の場合、一律基準にしたがる傾向があり、「許容応力度設計ではJAS材を使うべきだ」となってきているわけですよ。だけど現実にはJAS製材なんてそんなにないですよ、平角材のJAS製材は特に少ない。構造的にはヤング係数と含水率と、欠点の有無や位置がわかればよいのだから。JAS製材相当品として、打音試験でチェックしながら使う材を決めれば充分なんです。事実そうしないと間に合わないし、「JAS製材が出回るまで待ちなさい」というのは法文と実体との間にあるギャップで、ここは多くの立場からの意見を持ち寄って、しっかりと考えていかなければならない。認定より実体が大事だと思います。”

無垢材を生かせる設計

材料を見極める目について伺いましたが、建築にはそれと同時に木材を生かせる設計力、つまり流通材を活用できる設計や軸組計画ができるスキルが必要です。八王子の大学セミナーハウス食堂棟の建設では2間の基準スパンをセットして4m材の活用ができるように設計したそうです。 軸組計画を考える際に無垢材をよく知り、木材を生かせる計画を行うこと、これが重要となってきますが、木造施設建築では構造設計者と意匠設計者をどうマッチングしていくかが一つの課題と言えます。


(つづく)

大学セミナーハウス「やまゆり」の上棟の様子。普段家づくりをしている大工たちが息をあわせて仕事を進めていく

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軸組で組み上げられた木造施設の構造の様子

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[ 注  釈 ]

Ⅰ 製材は丸太から板や角材を加工することだが、原木から製材されて挽いた肌のままの木材を製材品と呼び、ここでの「製材」は製材品のこと。
Ⅱ 「木造計画・設計基準」3.3、JAS材に適合しない製材を使用する際には資料3.3.2
Ⅲ 集成材を構成する挽板や小角材のこと。ラミナを人工乾燥させ、縦に継いで(フィンガージョイント)積層し、集成材に加工されます。
Ⅳ 湾曲した丸太等から製材した際に起きる製材方向と繊維方向の違いによって生じる年輪の状態

取材日:2017年5月9日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩

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