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山から建築へつながる地域循環を(3)
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山から建築へつながる地域循環を(3)

山に夢をもつ

山から建築へつながる地域循環を(3)

話し手:株式会社山長商店 代表取締役会長 榎本長治

山から建築へつながる地域循環を(3)

木のプロを育てる

ここまで木材に関わるお話に加えて山長商店さんの働く現場についてもお話を伺うことができました。林業の担い手が不足しているのが問題になっていますが、榎本会長のお答えは明るく前向きなものでした。伐出班では集材機械の開発やドローンといった新規技術の導入をされ、若者が入ってきていて、祖父の代から2世代にわたって勤めている兄弟もいらっしゃるそうです。


榎本:
“紀州は急傾斜で、九州のように高密な路網を入れて車両系出材機械で出材できないので、架線での出材が中心です。架線集材の合理化をやらなきゃだめだと思って3、4年前に研究会をつくって自動車エンジンとクラッチを使っていた集材機から油圧モーターでウインチを動かし、それを電気制御して無線操縦にして自動化しました。国の補助金を使って集材機を開発しました。現場では動いていますが一般的な市販は今年からです。最近ではドローンをリード線を張るのに利用しています。地元の機械屋が40㎏吊り上げられるドローンを開発したというので、将来苗木や重いものを運ぶのに使おうと思っています。そういう面白いようなことをやっていると若い人が入ってくるんです。若い連中が林業の将来に夢を持てます。それは経営者も一緒で仲間も林業の将来に対して夢を持てますよね。”


製材分野では世代交代の時期になっていて定年退職者が多く、高卒を採用し教育されているそうです。


榎本:
“木材を扱うには木の知識がいるので木のプロになってもらいたいんです。社内教育は社長が力を入れて取り組んでいます。”

ドローンの活用

ドローンの活用

林業分野を担う若者たち

林業分野を担う若者たち

やりがいある手仕事

プレカットは常駐の大工さんが2人在籍し、大きい物件を請けた時は広い場所で手刻みして仮組して作業するそうです。自動化したプレカットマシーンが主流の現在でも手仕事の重要性、やりがいを指摘されます。

墨付けする大工さん

墨付けする大工さん

榎本:
“竹原さん(竹原義二さん)の設計など難しい物件が多いいのですが、若い大工集団の棟梁が難しいものに生きがいを感じていて、若い人が集まってきているんです。どうしても中大規模だと手刻みとプレカットのジョイントになっています。フンデガーというプレカットマシーンが各地にありますがやっぱり精度が落ちるんです。機械が使えるところは機械をつかって合理化する必要がありますが、最後は手仕事がやっぱり大事です。良い建築に関われることはやりがいになります。”

材を仮組する様子

材を仮組する様子

大工と建築家の竹原氏が確認しながら組み上げていく

大工と建築家の竹原氏が確認しながら組み上げていく

材の精度をたしかめる

材の精度をたしかめる

おわりに

無垢材の利用による地域振興、設計者に対する木の教育、スケジュール感をもって設計段階からいかに連携するか、という現状と課題が分かりました。また、これから建築を建てる事業者がどのように計画、設計、建設を進めていけば、地域材による木造建築が実現するのか、プロセスの情報を得たり、ネットワークを作ったりできる環境が必要だということも見えてきて、そんなお話をしていると、榎本会長が次のように話されました。「ちょうど今、次世代公共建築研究会という国交省関連の団体で、公共建築について木造建築のガイドブックを一年かけて作成するために動いているんです。」対象としているのは中大型の公共建築で、我々が目指すものとの規模の違いはありますが、課題はシンクロするものがあり方向性を確認することができました。地域材による地域の手で地域のための建築をつくっていくために、たくさんの学びと情熱をいただくインタビューとなりました。

取材日:2017年3月24日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩

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