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大人も子供も自分らしくいられる空間と時間
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大人も子供も自分らしくいられる空間と時間

大人も子供も自分らしくいられる空間と時間

施設名:Risso kid'sきらり岡本保育園(東京都世田谷区)
話し手:坂本喜一郎園長
設 計:袴田喜夫建築設計室
施 工:相羽建設

大人も子供も自分らしくいられる空間と時間

きらり岡本保育園坂本園長は「いきいき」と「くつろぎ」を自分のペースで行き来することで子どもはもっと元気に、そして心が落ち着く、その環境づくりが大切だと話されています。今回、坂本先生から子どもの空間、そして見落としがちな、ともに生活している大人の空間をつくることの大切さをなぜ木造を選択したのか、環境を支える温度環境、保育理念、建築家との対話といった様々な観点でお話いただきました。

保育園で大切にしている理念

うちの保育園の理念は1人の夢がみんなの夢になり、1人の幸せがみんなの幸せになるということです。人は1人で生きているわけではないので、自分の夢は叶えるにしても応援してる人がいて初めて夢は叶うわけで、という事は、つまり自分の夢は大切にしながらも仲間の協力とか仲間の思いも共有しながら最終的に夢を叶えた時にみんなが笑顔になっているっていうコミュニティー、文化社会ができたらいいなという思いがあります。みんなの夢になる、みんなの幸せになるということをこだわっています。

隣地の公園の高低差を生かしゆるやかに一つの景観をつくっている庭

隣地の公園の高低差を生かしゆるやかに一つの景観をつくっている庭

木造にこだわった理由

私が1番この業界で仕事をしてきてすごく大切だと思うのが、自分のいる空間が自分らしくいられる空間なのか、自然体でいられるのかということです。木造建築というのは人工的ではない、そもそも自然的なものの融合体なので自然にいられる空間が必然的に生まれてくるという意味で木造が素敵だなと思います。また、自然な匂いがすることですね。人間は感覚、五感で生きているので自然的な匂いがするだけで幸せな気分、穏やかな気分になったりもします。また、色が自然の風合いなのですごく自然に感覚的に入ってくるというようなものがあったり、音が必要以上に反響しなかったりというような、本当に自然な感覚でそこにいられるという良さがあるかなと思います。この園舎を見ていただくと分かると思うんですけれど、すごく複雑に入り組んでいるんです。こうった細工や遊び心ってなかなか鉄骨とかRCでは難しいんじゃないかなと僕は思っていて、大工さんがその時その時にいろんなアイデアを持って作っていくんだと思うんですけれども、設計図通りにできるというのも重要だと思うんですが改良を加えていくということができるという、アレンジができる構造というのが木造にはあるのではないかと思っています。代沢の保育園を建てさせていただいてからやっぱり木造が最高だよね、ということで今回も木造でダイナミックに作ってみました。

縁側のような外廊下がつながる

縁側のような外廊下がつながる

太陽熱集熱換気システム(OMソーラー)を入れた理由

OMソーラーシステムは、そもそもそこにある空気を温めて自然な風合いで届けてくれるので、人工的に作られた空気が送られてくるわけではなく、自然のぬくもりというものをすごく感じられます。また、子供ってできるだけ服を着たくなくて薄着なので、冬もOMソーラーで部屋の中が温かいことによって厚着しなくていいんですよね。だからOMソーラーの持っている温かさと穏やかな空気という物の風合いの良さによって1年中軽装でラフな格好で活発に生活できる良さがあると思っています。

太陽で温められた空気をダクトを通って床下に。プロペラで空気の動きがわかる。

太陽で温められた空気をダクトを通って床下に。プロペラで空気の動きがわかる。

袴田さんとの出会いと改めてこの建築を作られた経緯

自分が園長になってやりたい保育をやりたい、加えて自分の持っている理念や大切にしたいエッセンスを1から取り入れた園舎を建てたいという夢がありました。いろんな園を見学したんですけれども、すごく1つずば抜けた保育園があってその保育園の凄さはいつまでもいたいということでした。私はよそ者で在籍していないのにふらっと来た人間がその園舎にいつまででもいられるっていう、その快適なこの感じ、感覚というのはなかなか普通は無いんです。それを体感したときに保育園は1日1日が長いわけだから、長い間いて苦しくなるのではなくて、1分1秒でも長くここにいられたら嬉しいな、幸せだなと思えるような空間を作らないと最終的な居心地が良くなくなってしまうのかなと感じました。そういった視点で園をいろいろと見学していたら、私の地元の先輩の園がまさにそういう園の1つだったんです。
この保育園だったら子供がいつまでもいたいと思ったり、先生も自然に働けて苦しくなかったりする感じがあって、こういう建築ができる人がいるんだと思ってすぐ設計者を聞いたんです。袴田(喜夫)さんが設計されたということがわかって私はもう袴田さんに絶対頼もうと、そこで即決して紹介してもらいました。

理想の保育園を建築家と一緒につくる

それで図面を引いてもらうことになりましたが、袴田さんに私が最初に言ったのは失礼なことを言ったなぁと思ったんですけれども、「袴田さんが作りたい保育園じゃなくて僕が作りたい保育園を作るわけだから僕の言った通りに図面をひいてくれ」と年上の人に言ったんです。結構よくある保育園や幼稚園で、すごく言い方が悪いんですけれども設計士さんの作品になったりするんですよ。設計士が素敵だと思うように図面をひいていて、「こんな素敵な保育園になりますけど」というようなものではなくて、私が理想とするこういう保育園を作りたいんだけれどもそのためにはどのように図面をひけばいいのか、どんな図面をひくべきなのかというのが設計士の仕事だと思っているのであえて言いました。

相当失礼なこと言いましたが、それでも袴田さんは僕の本気をわかってくれて、「ではこだわり抜いて唯一無二の保育園を作りましょうよ」となりました。前回一緒につくった代沢の保育園のときには、僕が思う「こういう空間が欲しいんだよね、くつろぎの空間がこういうのだったらいいんだよね」ということを言わなくても袴田さん達から提案してくる。「坂本先生はこういう空間が欲しいんでしょ、だから図面ひいておいたけど」といった様子で、保育の思いから始まって求めているものを共有できるチームになりました。ある意味、岡本の保育園は僕の中では集大成の園になるので今までの良かった部分と課題を全部まとめて悔いのない最高の園舎を作ろうということで一緒にこれを完成させたということになります。

理想の園舎とは具体的にどのような部分か

自分が人間らしく自分らしく生きられてなおかつ1分1秒でも長くいられる、生活ができてしまうというような保育園空間に仕上げたいという最大のポイントだと思います。

私たちのキャッチフレーズは「とことん」なのでなんとなくっていうのでは無いんですよ。子供のやりたいことをとにかくとことん応援します。やるならとにかくとことん、自分の好きなことを見つけて頑張るというよりは楽しむ。楽しんで全力で過ごしなさいよ、という思いがあります。庭もそうですし室内もそうなんですけれども、より子供たちがやりたいことが出来るような空間にデザインして変えていく、工夫していくということが日々先生たちがやっている仕事の主じゃないかと思います。ただ安全に生活できるのではなくて、子供がとことん楽しむために必要なものをどう用意したらいいのかとか、空間を使いやすくしてあげたほうがいいのかとかそういうことを先生たちは楽しみながらやっているというのがうちの特徴ですね。

明るいアトリエ。大きな制作物も吊ることができるバーやたくさんの材料をおける棚が設えられている。

明るいアトリエ。大きな制作物も吊ることができるバーやたくさんの材料をおける棚が設えられている。

お気に入りの場所をみつける

迷路みたいな園舎なので子供たちがすごく面白い動きをしていて、自分の気にいっている場所や居心地の良い場所を自由に見つけられるんですね。監視がうまくできるようにしている園舎というのは確かに広くて見渡しが良いのですが、空間が選べず限定されてしまう。うちは入り組んでいて様々な場所があるので子供たちが自分の好きな空間や気にいっている場所をみつけて、ご飯1つ食べることをとっても僕はここで食べたいみたいなこだわりを持って空間を選べる良さがあるのがすごく良いことかなと思います。

隠れ家のような小さな空間

隠れ家のような小さな空間

大人が幸せに生活している空間と時間

この園の特徴的なもののひとつに2階に職員専用のスペースを設けているというところは大きいポイントです。実はとても重要なことは先生たちが先生らしく自分らしくいられる時間と空間を確実に保障するということだと考えています。

これは持論ですが、保育園は子供が対象なのでまず子供が幸せでなければいけないと思いがちですが実は違って、大人が幸せに生活しているから子供が幸せになれるんですよ。どんなに子供が幸せに暮らしたいと思っていても、先生にゆとりがなかったり、思いが強すぎたりしたら、子供の気持ちをくみ取れないじゃないですか。

ほとんどの時間を子供と飛び回って楽しいのだけれども、少し自分らしさを取り戻したい瞬間、休憩時間が必要で、そういう時に2階に上がって職員ブースに入れば全く別の空間があって気持ちをリセットでき、良い意味で子供が入ってこない。逆に言えば子供にとっても先生が入ってこない場所がある。

先生たちの空間を最大限贅沢に作るというのがこの園舎の特徴です。

掘りこんだ床でくつを脱いでくつろげる職員用休憩室

掘りこんだ床でくつを脱いでくつろげる職員用休憩室

これからの保育、保育園の目標や理想について教えてください

目標と理想は一個しかなくて「日本一ワクワクできる保育園になる」というこれだけです。日本一大人も子供も先生も、できれば地域の人も巻き込んでわくわくできる園にする。そこにとことんこだわります。ですから、唯一考えていることは、キラリに行くと元気になるよね、ワクワクするよね、また行ってみたいよねというような思いを持ってもらえるよう、とにかく日本一になるっていうそれだけです。ありがとうございました。

縁側で話す坂本喜一郎園長

縁側で話す坂本喜一郎園長

木造施設協議会について