インタビュー
木のぬくもりに包まれる保育園
施設名:まつぼっくり保育園(東京都羽村市)
話し手:園長 橋本美佐子先生
設 計:袴田喜夫建築設計室
施 工:相羽建設株式会社
2013年春に、築45年の園舎を建て替えたまつぼっくり保育園。建て替えにあたり園長の橋本美佐子先生が望んだのは、家庭的な雰囲気で子供達が心地よく過ごせる空間にすることでした。その思いを実現するために選んだのは、国産材をふんだんに使った木造の園舎。木造園舎への思いや建てた後の感想などを、橋本先生に伺いました。
木造園舎を選んだ理由
橋本先生が木造園舎を選ぶ上で大きなきっかけになったのが、設計士の袴田喜夫さんとの出会いでした。「設計士さんが集まる研修会で袴田さんと知り合い、その時にOMソーラーシステムの話になりました。OMは自然な暖かさで環境にも良いと伺い、興味を持ったんです」。 その後、園舎の建て替えを袴田さんに相談し、「0〜5歳の子ども80人が通うので、家庭的な空間にしたい」というコンセプトを話すと、木造を提案されたそうです。「それまでは木造園舎という概念はなかったのですが、耐久性や耐震面でもRC造に引けはとらないとお墨付きを頂いたので、木造で建てる決心をしました」。
段差や柱があるランチルーム
まつぼっくり保育園は、乳児と幼児の保育室が中庭を挟んで向き合うようなプランになっています。「乳児と幼児がお互いに存在を感じられるようにしていただきました。中庭を挟んで子ども達が行き来することで、乳児は大きい子達に憧れて成長し、大きい子は小さい子への思いやりが育まれます」。
段差や柱があるランチルーム
子どもたちが給食を食べるランチルームは、木の架構が現しとなった大空間。橋本先生は「出来上がる過程で、部屋に柱があったり、段差があるのを見て斬新な発想にワクワクしました」と言います。当初は職員の方からは賛否両論あったそうですが、橋本先生は「自分たちで使っていくうちに空間の良さをわかってくれるかな」と考えたそうです。 施工を担当したのは、木造施設を建てた経験が豊富な相羽建設。子どもたちは建設中に時々現場を訪れ、完成を心待ちにしていたそうです。「子どもたちは、大工さんに声をかけてもらったり、仲良くしてもらって嬉しそうでした」。 実際に新しい園舎での保育が始まると、まずは子どもたちが最初に木造園舎を受け入れました。「転んだり、柱にぶつかるんじゃないかといった大人の心配をよそに、子ども達はすぐに段差や柱を楽しんでいました。角柱を登り棒代わりにしたりする子もいるほどでした」。 いきいきと楽しそうな子どもたちを見るうちに、保育士も段差や柱のある園舎を受け入れるようになりました。橋本先生は「足腰を鍛える為にも、多少の段差は必要なのかなと思います」と話します。
子どもの好奇心を引き出す工夫
子どもたちはランチルームに向かうときに、平均台や輪っかなどが置かれたエントランスホールを通ります。台に乗ったり片足でステップしたりと、子どもたちは楽しみながら身体を動かします。
このエントランスホールには、薪ストーブも設置されており、冬は毎日火を熾し園舎を暖めます。「暖房としてはもちろんのこと、タオルを乾かしたり、ジャムを煮たりと大活躍なんです」。ほっとする暖かさは、保護者からも好評なのだとか。
室内だけでなく、屋外での行事もたくさん。まつぼっくり保育園には、たけのこ堀りや野菜の収穫、お芋掘りなど四季折々の自然の恵みを楽しむ行事があります。園の近くに畑があり、1年を通じてさまざまな野菜を育てています。
自主性を育む食育
まつぼっくり保育園の給食は、栄養士が毎日献立を考え、給食室で調理員が手づくりしています。食器はあえて落としたら割れる陶器のお皿を使い、物を大切にする心を養います。
さらに、ランチタイムには、ユニークな工夫があります。3〜5歳児たちの給食はバイキング形式なのです。自分たちでごはんやおかずをよそうことで、自分の食べられる量を知り、残さずに食べられるようになります。
光がたっぷりと入るランチルームで自らよそったごはんをおいしそうに食べる子どもたち。木造の園舎で、子どもたちはたくましく成長しています。
文:PEAKS上野裕子
写真:相羽建設(株)広報部
取材日:2016年12月16日