インタビュー

WoodInterview
(2)建築が生んだ変化
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(2)建築が生んだ変化

(2)建築が生んだ変化

施設名:北沢建築木材加工場(長野県上伊那郡箕輪町)
話し手:北沢建築 北澤宗則氏 / 建築家 三澤文子氏
設 計:Ms建築設計事務所 三澤文子x北沢建築設計部 ・ 東京大学准教授 稲山正弘 +東京大学稲山研究室
施 工:株式会社北沢建築

(2)建築が生んだ変化

木造の加工場ができたことによる社内意識の変化、社外への波及効果についてお話いただきました。加工場は沖縄県以外の46都道府県の行政、企業、設計者、学生の視察があったそうです。
またレクサスHS250hの撮影に使われたこととしても木の「ものづくり」が日本のものづくりを象徴するものとして評価されたといえます。http://lexus.jp/models/hs/gallery/
「住宅系」の工務店からひとつの木造建築により施設までできる工務店としての認知により、むしろ住宅の仕事もしやすくなり、地域内外からの仕事の紹介が増え、仕事の変化が起きたといいます。

社内の意識の変化、社外への波及効果

―社内の意識やお客さんに対する営業的な部分での変化について教えてください。


北澤:
以前からある加工場は鉄骨造スレートで、後にどんどん増築したようなよくある工場なんです。そこでもお客さんが来て大工が刻んでいるのを見るとすごく喜んで、一生懸命やっていてもらってありがたいと言っていただいていました。
ただ、見せる側からするとこんな陳腐な場所で大切なお客さんの材料を加工するのを見せるのは申し訳ない、せっかく見てもらうなら小綺麗なところならいいなとずっと思っていました。
ただ、大工さん達が戦っているのは目の前の材料なので、加工する環境について大工さん達は意識していなかったと思うんです。姿勢にしても道具の扱い方にしてもそうです。

加工場ができて1番変わったのはお客さんが来て見てもらうということで、大工さん自身がある意味作った舞台なので、結構自信はあるもんですから、その姿勢に出ています。
道具の片付け方についても見られているという意識に少し変わったかなと思います。
そして何よりお客さんを連れて行きやすくなりました。
打ち合わせの後、「梁の加工が終わって柱に入っているところです」といって隣の加工場で簡単に見てもらえるようになりました。よくお客さんが見に来るようになってこちらは期待していなかった大工さんのコミュニケーション能力が上がるということがありました。

我々の会社は営業がいないので大工ひとりひとりが営業マンだと昔から言ってるんです。とはいえ、お客さんと対話して、大工さんも作るとは言うものの、現場で接することが主でした。
加工場ができて現場だけでなく加工の段階でお客さんと接することが多くなってきたことは、大工さんにとっては大きな変化だと思いますよね。
最前線でお客さんの材料を加工しているという意識ができて職人のレベルから脱したなと感じています。若い子は特にそうです。

だから工場見学というものに一歩、近づけたかなと思います。
工場見学を受け入れている会社さんはしっかりしているイメージがありますよね。
今までの工務店の設計担当が頑張って図面を書いてお客さんを説得して、現場が始まって基礎ができて、ある日プレカット工場から部材が運ばれてきて、ぱっと建ってという流れだとブラックボックスがあるんですよね。それがどこでだれが加工したのかが見えてきてブラックボックスがなくなった。
組み上がる前の下準備を見てもらうことは、これが組みあがったらどうなるんだろうという一番ワクワク感がある部分だと思うんです。お客さんがもうすぐですね!と楽しみになってもらえます。

加工風景

加工風景

ものづくりで伝える

ー加工場ができてからの受注に対する影響を教えていただけますか?

      
北澤:
加工場ができる前は言葉で伝えてきたものが、大工さんが普段の技術の延長でつくった建物でお客さんを受け入れられるようになりました。
お客さんを説得するまでが大変なんですが、こういう思いで、こういう感じでやってるんだ、ということをあまり語らなくても伝わるようになりました。営業的に言うとクロージングが早くなりました。
つまり初めて会ってから、お願いしますと言ってもらえるまでの期間がかなり短くなりました。
田舎だと競合するところが少ないので、お客さんが来られた日にお願いしますと言っていただけることも多くなりましたね。
昔から社員大工が職人の技で手で刻んでつくっていることが強みなので、ホームページ上で伝えるよりは実際来て様子を見てもらうのが安心で一番良いと思っていました。
それがうまく建物として表現できるようになったのが良かった、1番良かったと思います。


三澤:
仕事の成果として(お客さんに伝えやすくなった、喜んでもらえたというのが)1番嬉しい、建築の1番の目的ですよね。
逆に自分が設計したものができたら全然仕事が来なくてと言われたら辛いですよね。何をやってるのかわからなくなっちゃいますよね(笑)。

作業風景を見渡せる

作業風景を見渡せる

モデルハウスで考えたこと

―モデルハウス兼事務所(欅ガルテン)はどのように考えてつくりましたか?


北澤:
三澤さんが設計したフォルクスが良いと思って私たちも共感してやっていた部分でしたが、このモデルハウスの前に私たちの施工住宅を何件か三澤さんにも見ていただいていました。
モデルハウスは本当の生活空間っぽくはしてもらいたくなくて、かなり非現実的な住宅でいいですという話をしました。
要所要所に普段やっている棚などを散りばめてもらうような感覚でつくってもらいました。モデルハウスにも賞味期限がやっぱりあるのでね。
(欅ガルテン)はできてから7年経っているんですけれど、普通のモデルハウスだと7年経ったら賞味期限が切れてしまいます。
生活スタイルの提案が変わってしまって次のサイクルに入るので売却するということになり、それは営業的にはOKなのかもしれないけれども建築をつくる側からの話では良い話ではないのでそうはさせたくなかったんです。

この土地に馴染んで長く建つイメージをしてうまくまとめてもらいました。
経営理念などをかっこよくホームページなどで伝える人も多いですが、僕はここに来てもらって見て感じてもらうのが一番わかりやすいかなあと思っていてそれがうまく表現してもらえました。

きっともっと仕事が出来るようにならなくといけないんですけれども、正直、伝えやすくなりました。言葉があまりいらなくなって、建築で言葉以上にうまく伝わるようになりました。

欅ガルテン外観

欅ガルテン外観

取材日:2017年10月11日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩

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