ジャーナル
【開催報告】2018/2/14 地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin 栃木
話し手:村上博文氏+中山大輔氏
2018年2月14日(水)栃木県下野市トータスフォレストにて「地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナー」を開催いたしました。晴天で窓と集熱で「お日様のめぐみ」を体験できる暖かい施設で、多岐にわたる業種の方にご参加いただきました。今回は保育学の視点から、環境が子供の発達に与える影響だけでなく、保育者と子供の人として関わり方に対する影響についてのお話の後、設計者の中山大輔氏から木造施設の設計手法のご講演をいただきました。OMソーラーからは太陽熱集熱と温熱環境、健康への効果についての報告、事業者のトータスホーム佐藤昌親氏からこの施設に対する利用者、事業者の声をご紹介いただきました。
子供と保育者が共に生き生きする環境とは
常葉大学保育学部村上博文氏からは「保育施設における環境の再考と課題」についてお話を伺いました。
五感に訴える園庭づくり、園舎づくりの事例紹介から光遊び、隠れ家など国内外の事例紹介から、環境をつくるときに色をどのように考えるか、遊び方を工夫したコーナー遊び、展示の仕方、一見混沌としていも子ども達が今興味をもっているものが一目でわかる保育室の紹介など課題とそれに対してどのように考えて環境をつくるのか、またインテリアとして保育者が工夫できる空間づくりについてお話をいただきました。
また保育環境は「こどものため」だけでなく「保育者のため」にも考えないといけないというお話は印象的でした。働く環境として保育者が楽しく子供と接することができる環境であれば子供もまた楽しく過ごせる、そのためにコーナー遊びをうまく取り入れることによって怒る、注意することが多い状況から「見守り」遊びによる保育者の負担軽減(動線モニタリングによる)と子供の泣き声の低減の事例など、建築側にとっても学びがたくさんありました。
住宅の延長として木造施設を設計する
つづいて設計者の中山大輔氏からは、木造施設を住宅の延長で設計する手法についてお話いただきました。大学教育では木造の設計について教わる機会はなかったが、どのような思いで木造施設を設計しているのかという導入から、どこまでを「木造」なのか、RC造と組み合わせた「木質」なのか防耐火の法規を踏まえての切り分けについての中山氏の考え、具体的な木造施設の事例をもとに語っていただきました。
地元の製材所や木造に慣れた地域工務店との連携、耐久性が低いと言われる木造への誤解をどのように解くのか、そのためにどのように考えて設計しているのか、といった木造を設計したことがある設計者、施工者がぶちあたるであろう課題について切り込んだお話でした。
太陽熱を生かした幼児と高齢者に適した環境
OMソーラーの報告では太陽熱を集熱するシステムの紹介から、暖房、換気、健康への効果、災害時の避難所としての機能発揮について報告がありました。当日は晴天であったことから参加者が建築と一体となったシステムの効果を体感することができました。
事業者のトータスホーム佐藤昌親氏からは利用者、スタッフの声をご紹介いただきました。
トータスフォレストは歩行訓練に特化した老人デイサービスと企業主導型保育事業を組み合わせた共生型社会福祉施設です。
デイサービスを利用する高齢者、放課後保育を利用する幼児の声として「施設っぽくない」明るい建築が好評で、幼児が生活する低い高さをエアコンで温める難しさに対してのOMソーラーの効果、昼光利用と太陽熱による照明、暖房コストダウンについて事業者の視点からお話いただきました。また先駆的な事業体であるため、建物見学では事業やケアの道具や方法もご説明いただき参加者は熱心に聞かれていました。
最後のフリートーキングでは参加していただいていた同志社大学赤ちゃん学研究センターの志村洋子氏にお話いただき、赤ちゃんの発達が触覚からでき凹凸や反りのある素材や仕上げの大切さ、にぎやかなところだけでなく静粛な場所もつくらないというお話をいただきました。
また木製の手すりを作っておられる「すがたかたち」さんからは感性価値について村上氏へ問いかけから、「1/Fゆらぎ」のお話になり、居心地のよさをどのように評価するのか建築、環境から思想にまでつながる幅広い議論がされました。
建築をつくるうえで、様々な業界の視点を取り入れながら何を根拠にどう考え、どう評価してつくるのか、建築する上での知の共有を協議会では行っています。
今回は幼児、福祉の施設において保育学から環境についてお話いただきました。多面的な視点を得ることにより日常の仕事を客観視、相対化、アイデアの元になる可能性を多いに感じる会でした。
参加された皆様は、建築業界の設計、施工、建材メーカーだけでなく幼稚園園長、経営コンサルタントなど様々な業種の方でしたが、みなそれぞれの立場から生身の木、太陽、光といった自然エネルギーとの付き合い方、触り心地、環境、働く意欲・・・伝えにくい、ある意味不安定なものに対して真摯に向き合っておられ、木造施設を選択された社会の需要にあった新しい事業体の施設において学びと意見交換するという有意義な会となりました。