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【開催報告】2018/2/24 地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin 東京
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【開催報告】2018/2/24 地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin 東京

みんなで考える地域の保育施設の未来

【開催報告】2018/2/24 地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin 東京

施設名:まつぼっくり保育園(東京都羽村市)
話し手:袴田喜夫氏+村上博文氏
設 計:袴田喜夫建築設計室
施 工:相羽建設株式会社

【開催報告】2018/2/24 地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin 東京

2018年2月24日、東京都羽村市のまつぼっくり保育園において「地域の木材を活用した保育施設と幼児の健康を考えるセミナー」を開催させていただきました。当日は土曜日にも関わらず、保育園園長・保育運営会社・設計者など幅広くご参加をいただきました。

敷地を読み解き、広がりを感じさせる設計を

はじめに今回の会場となったまつぼくり保育園を設計された袴田喜夫氏(袴田喜夫建築設計室・主宰)から建物の敷地の読み込みから、建物の全体構成などをお話いただきました。

袴田喜夫氏(袴田喜夫建築設計室・主宰)

袴田喜夫氏(袴田喜夫建築設計室・主宰)

南北両面の道路に挟まれた三角形の狭小敷地は、園児の定員74名という人数には本来はあまり広いとは言えないそうです。そのため隣接する公園も保育の一環の場として利用し、建物構成を「ランチルーム・事務所などの管理スペース」「乳幼児保育スペース」「3歳以上の大きい幼児保育スペース」と大きく3つに分けて、中心に園庭を囲むように園舎を配置するように計画をされました。
見学に訪れて実際にそこに佇んでみると、それほど狭さを感じず、むしろ屋内と屋外が一体となって広がりを感じられる場所となっていました。
園庭をはさんで、大きい幼児も小さい乳児もお互いが見える園舎の配置関係は、年上の子ども達が年下の子の面倒を見たり、それぞれを意識しあえる、とてもよい環境となっています。

まつぼっくり保育園の園庭から園舎を眺める

まつぼっくり保育園の園庭から園舎を眺める

建物ごとに異なる暖房・冷房システムを採用

3つの建物の室内環境を整える暖房・冷房システムも、それぞれ園児の年齢・用途に合わせて、OMソーラー+エアコン、床下送風式暖冷房エアコン、エアコンと3種類と変えていました。

園児と一緒に保育士の皆さんが笑顔で過ごしていました

園児と一緒に保育士の皆さんが笑顔で過ごしていました

保育園の室内。木のぬくもりを感じることができます

保育園の室内。木のぬくもりを感じることができます

薪ストーブや段差、一見あぶないと思われる要素が幼児の自然な成長を促す

建物の中を詳しく見ていくと、幼児に対する思いや期待が随所に見られました。エントランス鎮座する薪ストーブ、そしてあえて段差を作ったランチルームです。火の暖かさだけでなく、逆に火の怖さも身近で感じ学習することもできます。また段差も幼児は徐々にその高さを遊びや学習の中で上手につき合っていくことができます。
「危険だから」という一言で様々なリスクを幼児から遠ざけることは容易ですが、逆にそれらが子どもたちの身近にあることで、学習の場として幼児はたくましく育っていくのだと感じました。

保育園のエントランスに設置された薪ストーブ。空間全体がじんわりとあたたまります。園でとれた果物をストーブで煮込んでジャムにしたりと大活躍

保育園のエントランスに設置された薪ストーブ。空間全体がじんわりとあたたまります。園でとれた果物をストーブで煮込んでジャムにしたりと大活躍

子ども達のランチルームが当日のセミナー会場に

子ども達のランチルームが当日のセミナー会場に

「地域の『子』ミュニティ」を考える

見学のあとは、村上博文氏(常葉大学保育学部講師)から「保育施設における環境の再考と課題」と題してご講演いただきました。
保育園は学びの場であり、幼児だけでなく保育士も主役であるべきである点と、また保育園は「地域の(子)ミュニティ」と位置づけ、地域全体で子育てを行っていくことが大切と話されました。

村上博文氏(常葉大学保育学部講師)の講演

村上博文氏(常葉大学保育学部講師)の講演

地域の木でつくる子どもの環境

まつぼっくり保育園の設計者である袴田喜夫氏から「木でつくる子どもの環境」と題してご講演いただきました。保育施設は地域の一番小さな公共施設と位置づけられ、地域の木材を活用することの意義、そしてその木材に幼児が触れて育っていくことが大切であるとお話されました。

20年後の社会は大きく変わっていく可能性を含んでおり、少子高齢化社会になっても木造の施設であれば様々なニーズに対応して、その地域の人々に長く必要とされる施設になりうることからこのような小さな保育園は木造で建てていくことが必要であるとお話されました。

地域の保育園の事業者さんとの信頼関係を持って木造施設の設計をされている袴田氏

地域の保育園の事業者さんとの信頼関係を持って木造施設の設計をされている袴田氏

この日は抜けるような晴天。OMソーラーが太陽の熱をたっぷりと床下に送り込み、日中の室内は汗ばむほどあたたかくなりました

この日は抜けるような晴天。OMソーラーが太陽の熱をたっぷりと床下に送り込み、日中の室内は汗ばむほどあたたかくなりました

子ども達をとりまく保育園の「空気」や「熱」

その後、OMソーラーから、保育施設の室内環境と幼児の行動や健康について報告させていただきました。温熱環境ひとつとっても、上下の温度差、保育室とトイレの温度差、朝と夕方の温度差など様々な切り口があります。また実際の施設の室内のCO2濃度の測定から見えてきたことや、歯医院内の臭気などもデータを見ながら、室内環境を整えていくことが大切であることをお話させていただきました。

木造施設協議会・事務局長の柿崎氏(OMソーラー施設事業部部長を兼務)

木造施設協議会・事務局長の柿崎氏(OMソーラー施設事業部部長を兼務)

OMソーラーの4つの機能について

OMソーラーの4つの機能について

保育施設のこれからを皆で考える

最後にフリートーキングで、参加者からも様々な意見・質問をいただきながらより良い保育施設の今後について議論いたしました。

橋本美佐子氏(まつぼっくり保育園長)からは「保護者の方々が特に保育施設の暖かさを喜んでいただいている」や袴田喜夫氏から「保育士が心身ともにリフレッシュできる場所を提供することで、より良い保育を幼児に与えられる」と保育士のケアについても話されました。今まで「保育施設」について建築学と保育学が協同で研究する機会が少なかったとお二人からお話もあり、今後ますますこのような機会を木造施設協議会では提供していこうと考えております。

フリートーキングで保育園事業者の方からの質問に答える橋本美佐子園長。保育施設を木造で建ててからの変化の話、訪れてくれた方が喜んでくれた反応や、日常的な保育の中でどんなことを考え実践されているかをお話しくださいました

フリートーキングで保育園事業者の方からの質問に答える橋本美佐子園長。保育施設を木造で建ててからの変化の話、訪れてくれた方が喜んでくれた反応や、日常的な保育の中でどんなことを考え実践されているかをお話しくださいました

「保育環境の健康の専門家と施設設計者との協働の場は現状ではまだそれほど多くはない。今後ぜひそのような機会を増やしていけるといい。できることはまだまだある」と語ってくださった村上氏

「保育環境の健康の専門家と施設設計者との協働の場は現状ではまだそれほど多くはない。今後ぜひそのような機会を増やしていけるといい。できることはまだまだある」と語ってくださった村上氏

木造施設協議会の代表理事の相羽氏。木造施設は地域の大工や職人が輝ける場所。事業者や行政、設計者、地域工務店が連携・協働の中で、多くの人に喜んでいただける木造施設が全国に増えていくといい。協議会の取り組みをぜひ応援してください、と

木造施設協議会の代表理事の相羽氏。木造施設は地域の大工や職人が輝ける場所。事業者や行政、設計者、地域工務店が連携・協働の中で、多くの人に喜んでいただける木造施設が全国に増えていくといい。協議会の取り組みをぜひ応援してください、と

会場・協力:まつぼっくり保育園(運営:社会福祉法人 松栄福祉会)

文責・写真:木造施設協議会事務局

動画:BOO 前田比都美

木造施設協議会について