オピニオン

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文化としての豊かさをつくる(2)
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文化としての豊かさをつくる(2)

循環型の社会をつくる

文化としての豊かさをつくる(2)

話し手:有限会社野沢正光建築工房 代表 野沢正光

文化としての豊かさをつくる(2)

素材との相性の良さ

木造施設というと、住宅とは異なるサイズの木材を用いることもよくあります。

たとえば、「いわむらかずお絵本の丘美術館」施工の際は、十数メートルの木材をつくってもらっていました。オーダー発注なので、その分お金も相応にかかることになりますよね。

そのあとに竣工した、「三加和小学校(熊本県)」では、全部製材を使って施工しました。これはひとつの冒険だったかもしれません。というのも当時、「合わせ束ね材」という新しいアイディアが開発されたんです。よく一般に流通している、120角や150角の長さ4~6メートルの製材。これは一番手頃な値段でいつでも買える、工務店のみなさんもよく使っている馴染みのある木材ですよね。「合わせ束ね材」というのは、その流通している材を接着し、交互にずらしながらつないでいく手法です。たとえば断面は120×120を2個くっつけたら120×240になり、縦に順番に4メートルをつないでいけば、ジョイントに工夫はいりますが何メートルのものでも作れる……そんな方法が認定されたんです。糊が一層しかないので、ちゃんと墨付けや刻みもできる。

今まで仕口を作って、そのめりこみによる強度を測っていたわけだから、大工が伝統的に考えてきたことや杉・檜の素材とも馴染みがいい。今後、地域工務店が木造施設を手掛けていくには、相性の良い材だと思いました。

木材を加工する大工たち

木材を加工する大工たち

三加和小中学校(体育館)

三加和小中学校(体育館)

伝統の中にある建物の適正化を計り、仕事をつくる

なにかを作るときは、日本の伝統の中にある合理を引き継ぎながら新しいものを生み出していけたら良いですよね。木造施設建築を作っていくことも大事ですが(もうひとつはそれを必要なところで必要に応じて作りながら)、既存のストックについても目を配るということです。

廃校になった学校を小さな美術館にしようと考えた時に、その適正化のためにも新しい木造の付け加えと減らすことの両方が必ず必要になると思うんです。たとえば大きな学校をそのまま残して教室を3部屋だけ使うというのは、大きな洋服の中に小さな赤ん坊が入ってるようなもので、本当はサイズを合わせたいけれど洋服が処分できずそのままになってしまっている。そんな地域の建物を適正なものにしていくために、場合によっては付け加えたり減築して美しいものに整えていく。さらに地域の建築家や工務店、行政や新しい仕事をおこしたい若い人たちが担ってくれるともっと良いですね。仕事をつくるっていうのはそういうことだと思います。かっこよく言えば循環型、自立型の地域社会。それができるのが木造の良さなのではないでしょうか。

いわむらかずお絵本の丘美術館

いわむらかずお絵本の丘美術館

地域の木造施設の窓口に

今まで地域の木造施設にいくつか携わってきましたが、ほとんどどの建物もその地域の工務店と協力してきました。地域の経済を回すためにも仕事は地域に出すべきですし、その理念は良いのですが、いろんな人と話をする中でみんなが困ってるのは「その地域の工務店が探せない」「受け入れ窓口がない」という悩みです。技術的なサポートをする人や情報センターみたいな場があれば、それによって地域の木材を使うだけでなく、地域の人材が元気になっていくと思います。

よく雑誌で施設物件を紹介してもらう際、私は必ず関係者欄に大工棟梁の名前を掲載しています。通常はその地域ですごく有能な大工であっても、雑誌に名前が載ることは少なく、裏方のようになってしまうのはもったいないと思うんです。だけど、ちゃんと名前が載っていれば、倅や孫に自慢するかもしれない。すると、倅がまた「親父ってすごいんだな」と思ってくれて、親父の仕事を継いだり、あるいは親戚に自慢するかもしれない。そんな循環が生まれて職人のなり手も増え、地域が賑わっていったら良いなと考えています。

設計者としても物件をやるときによく「今回もあの大工がいるからこの仕事を受けられる!」「あの大工がいるならこんなこともやってみたい」ということがあります。そのためには人材バンクのような仕組みがあって良いと思います。そんな役割を木造施設協議会が担っていけると良いですね。

愛農学園農業高等学校(外観)

愛農学園農業高等学校(外観)

三加和小中学校(教室)

三加和小中学校(教室)

取材日:2017年4月25日 聞き手:迎川 利夫・吉川 碧 撮影:伊藤 夕歩

木造施設協議会について