施設実例

地元の木材による大きな「学び家」

自然に根差し命を育む農業高校

愛農学園農業高等学校木造校舎(三重県伊賀市)

運営:愛農学園農業高等学校

今回のプロジェクトは有機農業を教育の軸とする愛農高校が行ってきた一連の「学校づくり」の2期工事にあたります。1期工事は2010年、隣接する築46年の3階建RC校舎を2階建てに減築して耐震改修、温熱改修、太陽熱利用して再生しました。そして今回2期工事で1期に減築した面積相当分を、図書室と教室を中心とした木造校舎として増築しました。構造設計は稲山正弘氏、家具は小泉誠氏で設計の初期段階から協働してきました。地元の製材による大屋根と人に寄り添ったスケールの家具により読む、勉強する、相談する、話す、制作する、くつろぐ、様々な行為を内包し居場所をつくっています。「学校づくり」を長年されてきた先生方、保護者、卒業生の思いを受けて全寮制で農業や畜産を学ぶ学生たちにとってほっとする住まいの延長にあるような建築を目指しました。のびやかに広がる大屋根の下で学生がたまり、くつろぐスペースが多く設けられています。地元の木の命が、建築の中で再び異なる形でその命を得て学び舎となり、日々、命と向き合う学生たちを穏やかに育んでいくことを願っています。

のびやかな樹状構造による図書室

できる限り「木」という素材のもつ魅力と物性を最大限に活かした木造架構を提案しました。また、一般流通製材と継手仕口による木組みを主体とした木造建築を目指しました。具体的な方策として、柱や梁などの構造部材の材料については、三重県産のスギ製材を用いています。 大空間となる図書室部分の屋根荷重を支える架構方式は、Jパネルによる十字型の幹から角材の柱が枝分かれして小屋梁を支える「樹状方杖構造」とすることにより、大断面集成材を用いず、中小断面のスギ製材だけで構成できるようにしました。

樹状構造システムによる大スパン架構(c) Koizumi Studio

樹状構造システムによる大スパン架構

大屋根の下に人に寄り添うハコの家具

既存校舎の方位が南北軸から20度ほどずれているため西日の影響が大きいことから、日射のコントロールと既存校舎との外観の統一性の両面から解消するために、既存校舎の軸と柱列を結ぶほぼ南北軸の2軸を建築に持ち込みました。またそれにより、図書室で行われる読書、勉強、くつろぎ、ミーティングなど様々な活動の場がゆるやかに繋がる柔軟な形態となりました。特徴的な樹状の木構造の大屋根の下で、人のスケールに寄り添った設えが建築と人とを繋ぎ、様々な人の静と動の動きが自然と展開しています。

大空間に居場所となるような読書ブース(c) Koizumi Studio

大空間に居場所となるような読書ブース

支点桁構法によるリズミカルな架構

教室部分の屋根架構方式は、910mmピッチの登り梁を左右で半ピッチずつずらして中央の交差部で桁行方向に2本の支点桁を挟んでボルト締めする「支点桁構造」とすることにより、一般流通製材だけで7mスパンの教室空間を支えられるようにしました。

住宅用サッシを使いながら枠が気にならないディテール

住宅用サッシを使いながら枠が気にならないディテール

自然のエネルギーを利用する工夫

環境配慮として、断熱性能の高い箱に冬は太陽熱を取り込み、夏は日射を適宜遮蔽し、自然光や風を取り込みました。できるだけ化石燃料に頼らない自然エネルギーを活用した快適で健康な空間としています。太陽熱集熱換気システムは、冬は屋根で集熱した暖かい空気を床下空間から室内に取り込み、夏は夜間の冷えた外気を室内に取り込み熱気を排出します。窓を閉めていても外気の取り込みができるため、集熱と換気が同時にでき、空気の清浄度を保ちながら暖房エネルギーを削減し、省エネルギーです。また室温よりも床温が高く保たれ、輻射により快適性が高い環境を作っています。

西側外観(c) Masahiko Yoneda

西側外観

施設仕様

施工会社
福田豊工務店
竣 工
2013年8月
意匠設計
野沢正光建築工房
構造設計
ホルツストラ
家具設計
Koizumi studio
敷地面積
45,200㎡
建築面積
493.39㎡
延床面積
454.08㎡
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