施設実例

木と手仕事でつくる働く場「ゆいのもりわかば」

OMソーラー搭載の木造障害者支援施設

ゆいのもりわかば(東京都昭島市)

運営:社会福祉法人 ゆいのもり福祉協会

昭島市に新たに建てられた、障害者のための支援施設「ゆいのもりわかば」をご紹介します。延床140坪超の大きな木造建築は、利用者さんが仕事をするスペースやみんなが集う休憩室、相談室など障害者支援のための様々な用途を持っています。

ストーリー

設計は住宅建築や保育園など施設建築で何度も協働している市川設計の市川淳さん。「実際に施設を利用するみなさんと交流の機会があったことで、設計も全く違う答えが出ました」と市川さん。ゆいのもりわかば施設長の田中さんと何度も話し合い、時に利用者さんとコミュニケーションを図りながら、緻密に設計された空間が完成しました。印象的なグリーンのアクセントカラーは『森』という、ゆいのもりグループの共通ワードから。外壁や壁、ドアの塗装など全5種類のグリーンが市川さんのセンスによって巧みに配置されています。
理事長の浅川さんは相羽建設の住まい手さんでもあり、OMソーラー搭載の木造ドミノ住宅にお住まいです。「太陽熱をつかう温熱システムや木造の伝統的な工法など環境配慮した建築というところを魅力に感じました」と浅川さん。ゆいのもりわかばも『OMクワトロソーラー』という太陽熱や太陽光を活用した空調設備を2台搭載しています。モデルハウスつむじで毎月開催している「つむじ市」や公園管理事業にも共感してくださっており、地域との繋がりを大切にしている点もゆいのもりと相羽建設の共通点だとお話しくださいました。

道路の境界に塀を設けず、地域とゆるやかにつながる建築

道路の境界に塀を設けず、地域とゆるやかにつながる建築

左から理事長の浅川さん、施設長の田中さん、設計の市川さん

左から理事長の浅川さん、施設長の田中さん、設計の市川さん

2階休憩室は間接照明でカフェのような雰囲気に

2階休憩室は間接照明でカフェのような雰囲気に

温かみのある木の玄関が出迎えてくれます

温かみのある木の玄関が出迎えてくれます

障害者支援を円滑にする空間

利用者の方の生活リズムの安定や健康維持、その先の一般企業等への就職を目標とした就労支援。仕事の内容は、市役所内で運営している喫茶の接客や調理補助作業、ダイレクトメール封入などの軽作業、公園の定期清掃と多岐に渡ります。「そこに行けば誰かがいて、おしゃべりができ、仕事をして頼りにされる場所を目指しています。作業中は自分のペースを保つことも大切。1階の作業室には音や視界が気にならないよう、窓の方を向いたデスクを設計してもらいました」と田中さん。今後受ける仕事を増やせるように、丁合機を導入してスペースを拡大。資料は車で運ばれるためスムーズに積み下ろしができるよう、搬入口の大きさも工夫されています。

DMの封入をする作業室。照明計画やOMソーラーによって快適に仕事ができます

DMの封入をする作業室。照明計画やOMソーラーによって快適に仕事ができます

窓に面した机で作業に集中できます

窓に面した机で作業に集中できます

アイアンの手すりが特徴の階段

アイアンの手すりが特徴の階段

トイレはバリアフリーに対応

トイレはバリアフリーに対応

日替わりランチやお菓子をつくる厨房は、6〜7人の利用者さんと、数名のサポートの職員の方が使う想定。機器の種類や配置はなるべく既存の施設を踏襲して使い勝手はそのままに、空間を広げています。ゆいのもりわかばから配送される市役所の喫茶店のランチは、常連さんが多くほとんど予約で埋まってしまう盛況ぶり。喫茶を訪れた市川さんは、肉うどんがお気に入りなのだそうです。

製菓用の厨房

製菓用の厨房

グループホームの夕食もここで調理

グループホームの夕食もここで調理

障害のある方やそのご家族の相談にのり、利用の提案を行う相談室

障害のある方やそのご家族の相談にのり、利用の提案を行う相談室

サインは市川さんのデザイン

サインは市川さんのデザイン

止まり木のような施設

2階は住宅のような温かみを感じる空間が広がります。食事をつくって食べたり、レクリエーションにも使える休憩室。備えられたキッチンの白いタイルや黒く塗装した収納はどこかコーヒーショップのようです。勾配天井を照らす間接照明やグリーンの壁も印象的。浅川さんは「ここにペレットストーブを置いたら素敵になりそう。地域に開いたイベントも開催できたらいいですね」と今後の展望をお話しくださいました。

壁のグリーンは空間のアクセントに

壁のグリーンは空間のアクセントに

勤怠管理やお知らせを掲載するスペース

勤怠管理やお知らせを掲載するスペース

回遊できるキッチン

回遊できるキッチン

田中さんやスタッフの皆さんから「スタイリッシュで素敵なオフィス空間であると同時に、利用者の方が環境になじみやすい空間であること」という要望を受けて設計に取り組んだ市川さん。利用者に合わせた使い方ができて、居場所がたくさんある“止まり木のような施設”というテーマを掲げていたといいます。窓際ベンチや小屋裏への階段下の休憩室、あえて窓向きに設置されたデスクなど、集う空間の中にも自分のペースを保てる工夫があり、ちょっと一息休憩できるような場所が点在しているところも、この施設の特徴です。

事務室は落ち着いて仕事ができる雰囲気

事務室は落ち着いて仕事ができる雰囲気

小屋裏へつながる階段下のスペースは ソファーを置いて休憩室としても活用する予定

小屋裏へつながる階段下のスペースは ソファーを置いて休憩室としても活用する予定

通所の練習を行う方対象の各種プログラムを行うスペース 窓際ベンチの背もたれは少し角度をつけることで座りやすく

通所の練習を行う方対象の各種プログラムを行うスペース 窓際ベンチの背もたれは少し角度をつけることで座りやすく

建築で地域の事業を後押しする

建物の南側は広い道路に面しています。道路境界に塀やフェンスを設けず植栽を入れたことで、建物と地域がゆるやかにつながりました。道を通る人や車から、建物の中での活動の雰囲気を感じることができます。
工事中には、地域に開いたイベントとして上棟式を実施しました。「利用者さんに新しい経験をしてもらえる機会であり、地域の方もたくさん参加していただけてとても嬉しかったです」と田中さん。浅川さんからは「棟梁と聞いてもっと年配の大工さんをイメージしていたけど、みんな若くて驚きました。現場にいくと、みんな元気に挨拶してくれて和気あいあいと、テキパキと仕事をしていて良い建築ができるんだろうなと思っていました」と嬉しいお言葉をいただきました。

建築に携わった職人たち

建築に携わった職人たち

餅の代わりにお菓子を撒いた上棟式

餅の代わりにお菓子を撒いた上棟式

あたたかい光が入る洗面コーナー

あたたかい光が入る洗面コーナー

参加人数によって空間を柔軟に変えられる相談室

参加人数によって空間を柔軟に変えられる相談室

「この施設は家のような木の温もりを感じます。一般企業に就職してステップアップされた方にもまた遊びに来てもらえるような場所にしたいです」と田中さん。今後は私たちも同じ地域の会社として、利用者さんが自立して充実した暮らしができるサポートを、建築やメンテナンスで後押しできたらと感じました。

ウォールナットの取手が素敵なロッカーも市川さんのデザイン

ウォールナットの取手が素敵なロッカーも市川さんのデザイン

お話しを伺ったみなさん

お話しを伺ったみなさん

施設仕様

施工会社
相羽建設株式会社
竣 工
2024年2月
意匠設計
市川設計 市川淳
敷地面積
440.15㎡
建築面積
254.04㎡
延床面積
467.51㎡
建物概要
木造
WEBサイト
https://yuinomori.or.jp/
その他
照明デザイン:永島和弘
大工:本多忠勝・志村飛鳥・上小園光虹・谷口智也
監督:荻野照明
営業:遠藤誠 
写真:市川淳(一部相羽建設)
取材:伊藤夕歩・吉川碧・中村桃子(編集)
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