インタビュー

WoodInterview
だだ商店 | 中村好文氏インタビュー
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だだ商店 | 中村好文氏インタビュー

「普通でちょうど良い」建築をつくる

だだ商店 | 中村好文氏インタビュー

施設名:だだ商店・だだ食堂(茨城県つくば市)
話し手:中村 好文 | 聞き手:藤村 真喜
設 計:LEMMING HOUSE
施 工:株式会社 柴 木材店

だだ商店 | 中村好文氏インタビュー

「日常の中に小さなスペシャルを」をモットーにナチュラルワインを中心に造り手の顔が見えるプロダクトを紹介するだだ商店が住宅地の中にそっとオープンしました。設計を手掛けられたのは建築家中村好文氏。地域に馴染み、時間と共に育っていく数多くの建築を設計してこられた中村氏とインポーターとして「唯一無二の美しさを表現する」ナチュラルワインを紹介する太田氏、施工を手掛けた地域工務店の柴木材店柴氏のインタビュー記事になります。ものづくり、地域、日常の豊かさ、自然との向き合い方、サスティナブルであること、コロナ禍にあって改めてライフスタイルに目を向けた我々に様々なメッセージを投げかけていただいています。

レミングハウス 中村好文氏

ー クライアントの太田さんとの出会いは?

中村:
赤木明登さん(漆作家)の紹介でした。太田さんは熱い人ですね。ある種の哲学者というか、ただワインを輸入して商売をしているという感じがしない人です。僕の好きなエンケルっていう言葉に太田さんは共感してくれたらしいのですが、そういう言葉に共感できる人はクライアントとしては深いところでつながっているという感じがします。同じ穴のむじなというか。太田さんは仕事のほんとにしやすい方でしたね。




ー 当初よりセラーとお店、レストランという用途や木造は決まっていたのでしょうか?

中村:

きっかけはワインセラーが欲しかったという事でした。一つ目のセラーがいっぱいになってしまったので、もう一つセラーが必要になったそうで、一番目のセラーのアイデアがうまくいっていたので、同様の方法で作りたいということでした。地中のセラーはコンクリート造ですからある種の基礎ですよね。上に木造の建物を建てるという事は最初から考えていました。僕はコンクリート造の建物もやりますが、90%位が木造で木を扱うことや木造に慣れているということがありますよね。

奥山 晴日
建築家の中村好文

建築家の中村好文

ここにある樹木や風景をできる限り生かしたい

ー 敷地を見に来て最初のイメージやコンセプトはどういったことでしょうか?

中村:

まだ周囲の宅地ができていなくて、樹木がたくさんあって本当に自然のままだったんですよ。僕はここにある大きな木が気にいっていて木はできるだけ伐らずにやりたいもんだなぁと思いましたね。長年育ってきた樹木をこちらの都合で簡単に伐るのはやっぱり避けたいんだよね。

それからここは視線の抜けが良いので田んぼの眺めを取り入れたいと思いました。大木の生い繁っているこの一帯を残せれば向こうに住宅地ができて小さな家がパラパラ建っても隠してくれる、そんなに気にならないだろうと思いました。大きな木が何本も生えているのでロケーションとしてはとても良いですよね。また、地形は傾斜地であったことも幸いしました。これが平らな土地だと面白くできなかったと思います。地下を掘っても片側からは平地で入って来られるというのは良かったと思いますね。

もともとこの地にあった樹木を残しながら、緑に埋もれるように建築が佇む奥山 晴日

もともとこの地にあった樹木を残しながら、緑に埋もれるように建築が佇む

だだ食堂の室内。窓から周辺の田んぼの景色を楽しみなら食事やワインを楽しむことができる奥山 晴日

だだ食堂の室内。窓から周辺の田んぼの景色を楽しみなら食事やワインを楽しむことができる

ー アプローチの塀のアメリカで風除けに使われていた古材はどのような経緯で採用されたのですか?

中村:

以前、今治のタオル屋さんの銀座のショールームを設計した時に、内装の仕上げ材を何にするかで、ずいぶん悩んだんです。タオルのショールームを何軒か見て回ったんですが、どの店も「うまくいっているなぁ」と思える素材はありませんでした。そんなとき、輸入建材を扱っている業者のカタログでアメリカの高地で風除けに使われていたという古材を見つけました。長年、風雪と日差しにさらされて板の表面はザラザラ、色もシルバーグレーになっていましたが、ぼくにはそれが洗い晒されたタオルのように見えて、「あ、これだ!」って思いました。その古材で床から壁にズルリと繋がっていくように仕上げ、家具もその古材で作ったのですが、それが僕としてはとても満足のいく仕上がりでした。で、この古材をもう一度どこかで使いたいなぁと思っていた矢先に今回のこの仕事の話がありました。まさに「渡りに舟」だったというわけです。




ー 古材の利用や木、素材についてどのように考えられていますか?

中村:

古材を頻繁に使うわけじゃないですが、例えば京町家を改修して宿泊施設をつくるとか、そういう時に出てきた既存の梁や柱はできるだけ残したいなぁと思ってね。あまり全部新しくしたくないんですよね。僕はやはり素材感というのは建築にとって大事じゃないかなと思うんですよね。ある種のコンセプチャルな建築では素材感を消そうという傾向がありますよね。床はモルタルで壁はペンキで良いみたいな。そういう建物を見に行くと僕はなんだか心がヒンヤリするんですよね。コンセプトが勝っていて建築の味わいが薄くなっちゃうんじゃないかなぁと思うんです。自然素材、皮や木のようにやはり時間が経って風合いが良くなっていくものが好きなんでしょうね。ここでは焼杉を外壁に使っているけれど、焼いた風合いも好きだし、日に当たるところと日陰のところと風合いが全然違ってくるようなところも好きですよね。そういう素材感を全部消してしまう建築は自分ではやりたくないなと思います。自分が良いと思う建築はそういうものじゃないですよね。

「だだ商店」のアプローチの塀に用いられた古材。一枚いちまいに表情がある奥山 晴日

「だだ商店」のアプローチの塀に用いられた古材。一枚いちまいに表情がある

普通でちょうど良い建築

ー 地域の中でどのように建物が育っていくといいと良いと思われますか?

中村:
風景の中ではできるだけ目立たない建築、建築が際立ちすぎないようにしたいということをいつも考えています。僕が大切にしているエンケルという言葉はスウェーデン語なのだけれども、「普通でちょうど良い」という意味なんですよね。僕は普通でちょうどいいものが好きなので、特別なものを特別に見えるようにはしたくない。普通のものが普通に見えるようにしたい。そして質の良いものがやりたいと。そういう意味では建築は際立ちすぎて風景の中で目立ちすぎるのは嫌だなぁと思うし、何か普通なんだけれどもよく見ると「割といいね」ぐらいでもいいなと。そうすれば風景にも馴染むし、地域の人にも自然に馴染んでいくようになっていくんじゃないかと思いますね。

だだ商店・だだ食堂のアプローチ奥山 晴日

だだ商店・だだ食堂のアプローチ

雨の日も楽しめる工夫

ー この制作の樋(とい)が素敵ですね。

中村:

最初は普通の樋だったんだけど(屋根の入隅が)谷になっているため、大量の雨水が落ちてきて、具合が悪かったのです。そういう問題が起きた時こそ腕の見せ所、頑張んなきゃなぁという気持ちになるんですよね。雨の量を算出して模型を作ってその雨を受けられるガーゴイル(樋嘴・ひはし)の形、雨が降ったら面白いね、楽しいねっていうふうにしたいなといろいろ考えました。お天気って、普通は晴天を指すじゃない。でも雨もまたお天気で僕は好きなんです。ここは軒樋がないから雨が簾のように落ちてその雨特有の風情をとても大事にしたいと思う。雨の日のドラマがある、雨もまた良いよねという演出ができたから良かったと思いますね。

特注でデザインされたガーゴイル(樋嘴・ひはし)奥山 晴日

特注でデザインされたガーゴイル(樋嘴・ひはし)

雨水が落ちる場所にはワインコルクが奥山 晴日

雨水が落ちる場所にはワインコルクが

取材・編集:木造施設協議会
   写真:奥山 晴日(一部詳細と人物撮影は木造施設協議会)

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