インタビュー

WoodInterview
(5)子どもの耳と環境
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インタビュー

(5)子どもの耳と環境

子どもの活動と建築の音環境

(5)子どもの耳と環境

話し手:埼玉大学名誉教授 志村洋子氏 / 建築家 袴田喜夫氏

(5)子どもの耳と環境

最終回、第5回では建築的に吸音した部屋としない部屋での子どもの活動に与える影響、領域が近いが分かれている専門家同士の連携の可能性についてお話しいただきました。対談後に志村先生から、ピアノの伴奏では無反応の赤ちゃんがお母さんの歌声が入るとにこっと笑う画像(生声が大切)や、オープンスクールで隣室からの音もれがいかに大きいかについて、実際の動画を見せていただきました。

吸音した部屋としない部屋では子どもの活動が変わる

―吸音する部屋としない部屋があっていいのかということについて、吸音しない部屋があってはダメだということですか?


志村:
子どもには吸音された部屋と共に、わいわい騒ぐと響きが変わる部屋もあっても良いと思います。例えば1つの保育室だけは賑やかなところがあって、ここが賑やかなのはなんでなんだろうと思いつつワイワイ遊べます。以前実施した実験で、同じサイズで同じインテリアの設えで吸音している部屋と、していない部屋に親子さんと子ども一緒に入ってもらうと、吸音している部屋だと子どもは絵本をとって親と一緒に読み始めます。しかし、吸音していない部屋に入ると同じものしか置いていないのに親を巻込んでワイワイ話したりしはじめて遊びだすんですよ。

吸音している部屋は音がシュッとするので部屋に入ると子どももホッと座って本を読み出すんですよね。不思議でした。行動が変わるんです。それを経験しているので、同じスタイルの部屋がふたつあるとしたら片方は吸音しないでおくような仕掛けがあったら面白いのではないかと。ふたつの部屋で子どもの様子が変わることがわかると、保育の方法もいろいろ考えつくと思います。


袴田:
いくつものバリエーションの部屋や天井高の部屋をつくったとして、ひとつは残響時間を0.4秒程度にするなど響かない部屋にして、全面にガラスクロスで包んだグラスウール張りで色を塗った部屋にしておいて、もうひとつは全然吸音対策がない部屋にするというのはあるんですね。


志村:
聴感印象が変わるということは大事だと思っていて、子どもたちは音の状態が違うところになかなか入る経験がないから、きっと楽しいんじゃないかなぁと思います。

音や響きをデザインする

袴田:
音の響きの違いに対して子供たちのリアクションが違うということですか?

志村:
以前訪ねたある保育園では、玄関から3階までつながった吹き抜けの階段のところがまぁすごく残響時間が長くて。その後、保育室の殆どを残響時間0.4秒に改修しましたら、玄関だけが浮き立って子どもたちがそこでは声をだして遊ぶようになったそうです。確かに体育館などで響くと面白いということがありますよね。全部吸音して欲しいと思うのですが、どこかで遊びの場として響く場があっても良いかなと思います。でも、響くことから吸音した部屋に入るとホッとできるというのは必ずあるはずなんですよね。


袴田:
音をデザインする、響きをデザインするということが必要なんですね。


志村:
すごくそう思います。
ある保育園に行って驚いたのが、坂道(傾斜)が大事だっておっしゃる先生の配慮で、階段はもちろんありますが、長い坂道が園内につくられていました。上も吸音して下もカーペットが全面にあり、吸音されていて、そこに入ると何かすごく楽しかったです。子どもは一生懸命這うし、工夫して歩くんですよ。本当に面白いです。周りはあまり見えないんだけれど、坂の両壁(壁面)の下のほうにきれいな絵だけ何か所か掛けてあるんですよ。子どもが振り返ってみるわけです。お友達の絵がずっと飾ってあっても子どもは見向きもしないじゃないですか。ですが、きれいな絵が週替わり、日替わりで掛けてあるから振り返って一瞬、あれって見るんです。そういう工夫が大事だと思います。坂道のコーナーには驚きました。

領域、立場を超えた専門家同士の連携

―木造施設協議会では施工だけでなく設計、研究と領域、立場を超えて積極的な連携を考えています。知見のある研究者と、設計者とが施設をつくるときに相談できるようなことがあれば、できる空間も変わってくると思いますがいかがでしょうか?


袴田:
保育系の学会、環境学会、建築学会やいろいろな学会で音の研究が当然されていると思います。少しずつ設計者が関与しながら勉強していると思うので学会も大事ですが、別の可能性として確かに木造施設協議会のような施工者も入って、みんなが良いものを作っていこうという気持ちも一緒になるような、あまり大きくない場で議論できるとより成果につながるかもしれないと思います。

志村:
保育関係者・研究者の「慣習にとらわれない姿勢」が最も望まれると思います。子どもの小さな薄い声帯(大人の声帯と比べた映像で確認してみるとよくわかる)で、大声を出させて平気なのかということ、とりわけ「園長先生」が日本の伝統的な「大声での返事」を求めるのかということを顧みることが大切だと考えています。


―実プロジェクトでの専門家の協働や、建築関係だけではなく一般の方にも音や子どもと向き合うという観点からわかりやすく建築の空間をどのようにつくっていくのかを伝えていきたいと思います。

貴重なお話をありがとうございました。

取材日:2018年6月7日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩
協 力:社会福祉法人 松栄福祉会 まつぼっくり保育園

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