インタビュー
だだ商店 | 株式会社ヴィナイオータ 太田久人氏インタビュー[ 後編 ]
暮らし心地を良くする日常の中の小さなスペシャル
施設名:だだ商店・だだ食堂(茨城県つくば市)
話し手:株式会社ヴィナイオータ 太田久人
設 計:LEMMING HOUSE
施 工:株式会社 柴 木材店
「日常の中に小さなスペシャルを」をモットーにナチュラルワインを中心に造り手の顔が見えるプロダクトを紹介するだだ商店が住宅地の中にそっとオープンしました。設計を手掛けられたのは建築家中村好文氏。地域に馴染み、時間と共に育っていく数多くの建築を設計してこられた中村氏とインポーターとして「唯一無二の美しさを表現する」ナチュラルワインを紹介する太田氏、施工を手掛けた地域工務店の柴木材店柴氏のインタビュー記事になります。ものづくり、地域、日常の豊かさ、自然との向き合い方、サスティナブルであること、コロナ禍にあって改めてライフスタイルに目を向けた我々に様々なメッセージを投げかけていただいています。
日常の中に小さなスペシャルを
よく「だだ商店」の「だだ」は何なのかという質問を受けます。長男がまだ幼かった時に僕のことを「だだ」と呼び始めたので、その後太田家では僕のことを「だだ」って呼ぶようになったんです。この店で皆さんにお売りしたいと思っているワインも取り扱っている食材も食堂として提供としているお料理も太田が日常的に食べているもの、日常的に飲んでいるもの、使っているものをご紹介することをコンセプトに始めています。このお店のスローガンに掲げていることは「日常の中に小さなスペシャルを」です。僕たちはハレの日、めったにないイベントごとが特別だって極端に思いすぎているような気がするんですよね。例えば月1のすごく特別な日のために残りの29日ものすごく寂しい食事をするというのは何か違う気がします。それよりも、派手派手しいハレの日がなかったとしても日常の中にほんのちょっとした喜びとか、ちょっとしたスペシャルな、ほっこりするとか小さく感動するとかいうことを持ち込んだ人生の方がある部分、豊かな暮らしが待っているのではないでしょうか。僕自身、家で極端に贅沢なことをしているわけではなく、でも食べるものについてはある程度気を遣っているつもりですけれども、ちょっとしたことに気を向けることだけでも生活のクオリティーが上がると思っているんですよね。
それをこの空間で気づいていただけたら、より多くの人たちになるほどと思ってもらえたり、腑に落ちてもらえたりするようなことがあったらいいなという思いをお店に込めています。
食べ心地の良さ、飲み心地の良さ、居心地の良さ
ナチュラルワインの最大の特徴は飲み心地の軽さです。わかりやすく言うと霜降り肉ではなく赤身肉のような地味深さです。お食事の中に食後感の軽さ、飲み物の中にも飲み心地の軽さというのがあると思います。世の中はこってりしている事、味のインパクトが強い事をおいしいと言い過ぎているように感じます。もちろんはそれが悪いと言っているわけではないんですが、食べ心地の軽さ、飲み心地の軽さ、居心地の良さみたいなものがどれだけ人が生きるということにエネルギーを与えるかがある気がするんですよね。食べ心地の軽さということに関しては、例えばA5ランクのステーキを500グラム食べた次の日はもしかしたら胃が重いと感じるかもしれないですよね。それは果たしておいしいなのでしょうか。食べたものをその一瞬はおいしいと思ったとしても次の日にほんの少し生きづらくなったなら、それは果たして本質的なおいしさにつながるのかと疑問に思ったんですよね。生きるために食べるはずなので、食べているもので次の日に生きづらくなるというのは何かが違う、本末転倒だと思うんですよね。おいしさの世界でそんなに重要視されていない食べ心地の軽さというのは消化吸収しやすいことやいろんなことがあって、そういうことの大切さを教えるのではなく皆さんに気づいていただけたらいいなと思うんですよね。それは空間としての居心地の良さとも絶対セットでなければいけないです食べ心地の良さ、飲み心地の良さ、居心地の良さという「心地の良さ」がどれだけ人が暮らす、生きていく上で重要なポイントなのかということを全方位的に表現したいのです。
僕は良い意味で公私混同している人間ですので、僕たちにとっては飲み食いの場というのはある意味、芸の肥やし、仕事の学びの場でもあるわけです。加えて、食べるというのは人として命をつなぐために絶対にやらなくてはいけないことじゃないですか。その義務に楽しみを見出せて、仕事になっているというのはあまりないことですよね。だからこそ僕たちが表現できることは何かある気がします。ぶどうだけで作る農産加工品であるワインはそのシンプルさゆえに、色彩や音楽や芸術やいろんな形で表現する色彩が豊かな飲み物です。ワインに対して感動のようなもの、なるほどというエモーションみたいなものを一つ一つのプロダクトに広げていったらこうなるよねって展開できたらすごくいいし、ひいては食べ心地、飲み心地、居心地の良さも求めるようになったらいいなと思うんですよね。
居心地の良さと暖房方式
食堂部分は床暖房と薪ストーブだけでエアコンの暖房は一切ないんです。それは僕自身が考える居心地の良さです。イタリアに住んでいて日本に戻ってきて、レストランに食べに行った時になぜか冬、レストランでワインを飲むとめちゃくちゃ酔っ払うことに気づいたんですよ。空気を出すタイプのエアコンは上のほうに暖気が溜まるじゃないですか。そうするとアルコールが頭に回るような感覚で、飲むスピードが速くなることに気づいてそれが僕っては居心地が悪いことだったんです。イタリアではオイルヒーターで輻射の暖房ですよね。空気温度を上げるのではなく輻射熱によって人が寒くない環にとっては居心地が悪いことだったんです。イタリアではオイルヒーターで輻射の暖房ですよね。空気温度を上げるのではなく輻射熱によって人が寒くない環境をつくる、空気をやたらかき回さない境をつくる、空気をやたらかき回さないということです。僕の考えた居心地の良さ、ワインをより楽に楽しめる環境、食事するのに理想的な環境として輻射を重視した環境としました。
鉄筋コンクリート造の中にも自然な質感を
地下のワインセラーで心掛けたのは1階の木造の建物から降りてきて鉄筋コンクリートのパートに入ったときに極端に無機質にならないようにということと、上の建物にある温かみ、味みたいなものをセラーの中でもどういう風に表現できるかを考えました。棚は木で作り、床は瓦骨材を混ぜたモルタルを塗って磨きをかけた状態にしました。均質な灰色というよりは自然な質感に近づけることと、湿度があまりアップダウンのない状態にするために吸湿性のある瓦骨材を選んでいます。湿度調整する力が木のマテリアルとしての美徳の1つですが、それを地下のセラーでも同じようにイメージして床をこういった仕立てにしてもらいました。
年ごとの多様な美しさを表現するワイン
お客様に入っていただけるワインセラーでここだけでワインの種類数では3000~4000種類位、本数では10,000本位になります。この店舗の在庫としては50,000本ぐらいあります。ラベルに書かれている情報は3つで土地の情報、ぶどうの品種、ヴィンテージ(年)です。ワインがそれぞれの個性をどこまで液体の中で表現しているかというのを僕自身はすごく大事にしているので、雨が多かった年は薄くてしかるべき、むしろ雨が多かった年なのにものすごくボリューミーなワインだとしたら僕はワインが表現すべき美しさを表現していない気がするんですね。おいしさや良さというのは濃いことが最上位にあるのではなく、ただ単に多様性の中に個性がある、美しさがあるんだということを知っていただきたいのです。その意味でこの店の最大の特徴は同じ銘柄のワインを複数ヴィンテージご用意しています。とある銘柄でしたら20ヴィンテージくらいは在庫があります。
ヴィナイオータの主な仕事はワインの輸入と卸をする仕事ですので、お酒屋さんをやるという事はある意味、お客様の業種に乗り込んでいくことになってしまいます。インポーターがただ単に利益を丸どりするためにお酒屋さんをオープンしたということだとしたら、インポーターとしてのモラルに反しています。それでもなぜこのようなショップを開けたかというと、業界のルール違反を超えたメッセージを一般の方たちだけでなくお酒屋さんやレストランのお客様、そういう方たちにも僕たちの商売の中での持続可能性を考えたときにはこういう商売の仕方が1つのモデルケースになればいいなと思ったのです。
持続可能な商売とものづくり
ボトルを手に取れるところはお客様が自由に選んでお買い求めいただけますが、こちらの鉄格子の向こう側はうがった言い方にはなりますが売るか売らないかは僕たちに決めさせていただきますというワインが詰まったスペースになります。
この鉄格子を設けた1番の理由はなんとなくここは違うんだなということをお客さんに前段階にインフォメーションをもたらすため、結界を張るためです。
僕自身が目標にしていることは人間が営んできた歴史や文化の意味合いでもすごく重要なワインが2年3年で飲み尽くされるのではなく後世に受け継いでいってもらいたいということです。ヴィンテージのワインを20年間後も販売するためにはどうしたら良いかというと徐々に販売の量を減らすしかないですよね。鉄格子の中に入っているワインの販売方法はまだ具体化していませんが、上の食堂で夜レストラン営業がちゃんとスタートさせられたときには皆さんが手に取れる場所のワインに加えてこちらのワインもリストに載せるのか、何本かだけ時々リリースするかということを考えています。
僕がフィロソフィーの上でも愛して止まないナチュラルワインはワインのメインストリームからは亜流にあると思うんですね。ですが今や亜流のワインに対してもオークションサトなどで高値がつくような時代がなってしまいました。鉄格子の向こうには並べた瞬間になくなってしまうワインはたくさんあってすぐに転売されてしイトなどで高値がつくような時代がなってしまいました。鉄格子の向こうには並べた瞬間になくなってしまうワインはたくさんあってすぐに転売されてしまうようなことも起きます。僕としてはそまうようなことも起きます。僕としてはそういうことは問題だと思っています。このワインを造った生産者さん達がちゃんとした利益を取れるならば、とある1本のワインの値段が結果として高いのであればリスペクトを払えるんですけれども、その後のただ売っている人、転売している人が中間で利益を取る社会は僕は何か歪んでいる気がします。そしてやたら薄利多売しなくては存在できないような商売の仕方も間違っていると思います。
僕たちがこの店でやりたいことは我々が手渡す人が最終消費者であることが確認できる方法です。それぞれのプロの人たち、より生産に近い人たちが正当な利益を得る社会であってほしいと思います。経済的なものだけがその人の喜びや満足につながると思うわけではないですが、その仕事に喜びを感じながらやっているけれども生活するのがカツカツだと問題がありますよね。情熱がなかったら続けていけないような仕事をしている人たちがちゃんと食べられる位のお金が貫流するシステムがなくてはいけないんだろうなと思います。皆が均等にリスクを配分するべきですし、皆が均等に利益を配分できるような商売やものづくりがなければ、持続可能ではありえないです。建物を造るマテリアルに関しても使ってしまったらウン万年かかっても戻らないもの、例えば石油化学エネルギーに依存したものではなく、もう少し回るサイクルが短いものでものづくりができたならそれに越したことがないと考えています。
町の商店を文化として復活
今や、地方や郊外に大型ショッピングモールができて何でも揃うのでそこに人が動くようなことが起きていますが、僕自身はプロダクトの向こう側に人がいることがわかる、ありとあらゆるプロダクトを大切に扱いたいです。匿名の誰々がつくったものというよりはある部分、来歴を追えるものを僕はすごく大切に思っています。つまり、安ければ良いということではなく、この人のこういうものが自分は好きだから手に入れたいと思う方たちが少しずつ増えていかないと、というか今以上に減ってしまうと世の中がどんどん殺風景になっていってしまう気がするんですよね。
このだだ商店は住宅地の中でぽつんとあります。もし駅から歩いてくる奇特な方がいらしたとしたら30分ぐらいはかかりますし、最寄りのバス停がないような場所で店をやるということ自体、このご時世を考えたらドン・キホーテ的なことです。でも僕はそのドン・キホーテ的行為に意味があると思っています。町の商店みたいなものを文化として復活させるということがすごく大事なことだと考えているのでその一端を担うことができれば光栄ですね。
取材・編集:木造施設協議会
写真:奥山 晴日(一部人物と詳細撮影は木造施設協議会)