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第3回公民連携リレーセミナー2022
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第3回公民連携リレーセミナー2022

行政と民間が同じ課題に向き合い、ワンチームで進めるまちづくり

第3回公民連携リレーセミナー2022

話し手:登壇:川口義洋氏 杉山健一氏 矢部智仁氏 進行:相羽健太郎 藤村真喜

第3回公民連携リレーセミナー2022

3回にわたり開催した公民連携リレーセミナーの最終回です。
2022年6月24日、岡山県津山市 川口義洋さん、東京都東村山市 杉山健一さん、合同会社RRP・東洋大学大学院客員教授 矢部智仁さんにご登壇いただき、公民連携に取り組まれている地方の行政の方達が、何を考えてどのように公民連携を実践されているのかお話いただきました。

東京都東村山市が公民連携に取り組む背景とは?

杉山氏
東村山市では経営資源の減少が顕著となり、この20年ほどで市の職員数は2割近く減っています。一方で、高度経済成長期に建てられた公共施設が一斉に更新時期を迎えますが、老朽化対策だけでなく人口減少も見据えて建物が負債化することにも対応していく必要があります。
そんな中、同時にまちづくりも継続して進めていかなければなりません。少ない職員数で、少ないお金の中で、どのように進めていくのかが、この先も付き合い続けていく課題だと感じています。

まちづくりにおいては、最近だとソサエティ5.0やスマートシティなど、公共サービスにおいてもデジタルの力が大きくなってきています。それらの進化は、従来の直線的な進化ではなく、エクスポネンシャル(指数関数的)な進化が必要です。直線的な進化のままでは住民サービスが劣ってしまいますが、行政だけでは成り行かない世界になってきています。

そこで必要となるのが、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)でした。公民連携の重要なポイントは、主従関係でなく同じ課題に向き合い解決を目指し、官民のチームで地域の課題に向き合うことだと思っています。

これらのポイントと、これまでの実践で得られた経験を踏まえ、東村山市では民間事業者との公民連携によるまちづくりに関する基本方針を定めました。
「公共的課題を解決し、持続可能で良質な市民サービスを提供することを目指し、従来の発想にとらわれず、あらゆる分野において公民連携を積極的に進める」

東京都東村山市 杉山健一さん

東京都東村山市 杉山健一さん

公民連携の定義

公民連携の定義

東京都東村山市で行った公民連携の実施例

包括施設管理委託 第1期 デジタル化準備
施設ごと・所管課ごとに個別に契約を行っていた維持管理業務で、施設の老朽化による不具合の増加・複雑化が問題になりました。そこで、市が監督事業者と包括的な契約へ移行し、予算の範囲で更なる付加価値提案を得られる仕組みへ転換しています。

付加価値提案の例として、施設内の巡回点検があります。これまでに対応できていなかった、気付けていなかったスキマに、現場の職員が巡回することで対応できるようになりました。

・エレベーター内壁紙のカビ除去
・雨樋の目詰まり
・木製柵の破損修繕 など

包括施設管理委託 第2期 デジタル化の進展
市で施設内の職員が利用するスペースを修繕しようとしていたところ、ウェアラブルデバイスで職員のリラックス度合いを測定する実証実験の提案をいただきました。その測定結果を元に職員の生産性向上につながる提案をいただき、業務内容のデジタル化を進めています。施設情報や不具合箇所をデータで一元管理することで、迅速に対応でき、かつ連絡やコミュニケーションが取りやすい状況となっています。データを見える化することで指摘箇所の把握ができ、予算管理の計画もスムーズになります。

また、建物の劣化状況をドローンで調査いただき、その建物情報を3Dモデル化しておくことで現場での撮影が不要になったり、施設の活用水準向上も期待できます。

公民連携により、従来のアナログ対応ではこの数年間では見込めなかったであろう課題解決につながりました。アナログの状態から第1期デジタル化準備を含め、第2期デジタル化の進展を元にスマートシティへの発展を見据えることができています。

小中規模公園等の包括的民間委託
このプロジェクトは相羽建設さんからの提案です。地域の住宅メーカーや工務店にとって近隣にきれいな公園があることは大きなメリットであり、協働で価値を高めていこうという取り組みです。管理の手が届きにくい市内すべての公園を包括的にまとめて管理することで、公園を起点としたエリアマネジメントや飲食店等の施設設置など、より良い公園づくりを目指しています。

東京都東村山市の今後のビジョンとは?

今後も官民のチームで同じ課題に向き合い事業効果を高めていくために、地元の企業さんを中心に行政と民間が対話できる場づくりとして、公民連携地域プラットフォームを作っています。

プラットフォームを土台とし、民間事業者さんからの提案を受け付ける仕組み「民間事業者提案制度」を始めました。従来は市が決定して発注していた事業を、提案してくださった事業者さんと一緒に事業を進め、市民の皆さんへのサービスにつなげています。
令和元年には27本の提案を採択し、内10件が地域事業者さんからの提案でした。公民連携は大手企業との取り組みだけではなく、地元の企業さんならではの提案があります。

地域で様々な連携をしながら未来予想図を描き、地域の未来のために東村山市では行政だけでなく、地域、社会全体で公民連携の取り組みを進めて行きたいと思っています。

岡山県津山市が公民連携に取り組む背景とは?

川口氏
先ほど杉山さんが仰っていたように、従来は行政が決定して民間に発注することが当たり前でしたが、これは高度経済成長期のロールモデルだったのではと思っています。この当時、家族全員がTVで野球観戦するような時代でしたが、現在は野球を見るにも様々なサービスやデバイスがあり、趣味・趣向の多様化と享受サービスの自由度がある時代となっています。これは公共サービスにも通ずる部分があり、以前は行政が市民に均等なサービスを一律に分配しても恐らく幸福度は高かったと思いますが、こういったことが喜ばれる時代ではなくなってきました。

公共施設の課題として、570件のほぼ全ての公共施設が赤字運営を行っていることが上げられます。税金を使用しなければ維持管理ができない状態にありますが、実際の使用者は市民のごく僅かです。公共サービスとは市民みんなのためにあるべきなのに、これで良いのでしょうか。収益を得る感覚が欠けているため、建物を整備することが目的となってしまい投資とリターンの明確化ができていないことに問題があるように思います。

行政はターゲティング・プライシングが苦手ですが、これらを得意とするのが民間事業者です。いかに行政コストを上げずにサービスの質を上げるのかを考えた時に、公共サービスを提供するのは必ずしも行政主導でなくても良いのではという点に帰着しました。行政だけで解決できない課題や多様なサービスを民間と一緒にチームを組んで進めたらもっと面白くなるのではという期待に、公民連携が求められている理由があると思います。
そこで、公共施設を最適化するためにFM(ファシリティ・マネジメント:企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動)活動を、行政だけでは解決できない仕組みを公民連携で取り組み、両軸で回していくことを津山市流の公共施設マネジメントとしています。

津山市では公共空間の新たな価値創出を求め、コンセッションに取り組みました。コンセッションとは2011年PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ:民間資金等活用事業)法改正により新たに導入された制度です。施設の所有権は行政に残し、運営権を民間に移す制度です。これにより運営者である民間事業者が自由に運営・修繕を行うことができるようになります。民間事業者が収益を最大化する運営を行うことにより、従来は市が運営費を補填していたところから市に運営対価が入るようになり、将来の財政負担の最小化につながります。

岡山県津山市 川口義洋さん

岡山県津山市 川口義洋さん

岡山県津山市で行った公民連携の実施例

旧苅田家付属町屋群整備事業
津山市には歴史的な家屋が残っており、その中に重伝建と呼ばれる古い街並みがあります。その中に市が持っている古民家があり、それを一棟貸しのホテルにリノベーションする事業がありました。
2015年から地方創生事業として計画がスタートし設計段階まで進みましたが、2018年に実施された市長選により白紙状態で計画が止まります。

後に担当課から本事業の前進について相談を受けコンセッションを導入、2020年7月17日に「城下小宿糀や」がオープンしました。運営者の意向に沿って内装を自由にアレンジして貰うことを望んでいたため、当初予定されていた設計から大きく変化しています。行政では検討できていなかったターゲティング・プライシングを、運営者は明確にできていたからこその内装に変わりました。

食事は近隣の飲食店と地域内連携により提供します。行政が運営すると民民連携が難しい場面がある中、コンセッションにより地域内のつながりが深まっています。

グラスハウス利活用事業
2009年にオープンしたレジャープールですが、市内で最も大きな赤字が出てしまっていた公共施設です。この施設をまちの経営資産に変えるため、チャレンジしたプロジェクトです。温水プールとして運営していた施設ですが、エネルギー・ランニングコストが非常に大きい点が懸念だったので、プール運営を前提とせず建物だけを残す、コンセッションにRO方式(リハビリテート・オペレート:民間事業者が施設を改修し、改修後に維持管理・運営等を行う方式)を加えた方法で進めました。

公募の結果、スポーツリズムトレーニングというオリジナルメニューを持つ事業者からの提案を採択しました。スポーツリズムトレーニングとは、津山市の小学校27校すべてで導入されている体育のプログラムです。津山市発である唯一無二のコンテンツを事業化することとなり、2022年5月8日に「Globe Sports Dome」がオープンしました。ガラスドームが美しい状態で残され、屋内は様々な本格的な施設に様変わりしています。

岡山県津山市の今後のビジョンとは?

公民連携とは行政と民間がそれぞれパートナーシップを組んで事業をやっていくことですが、公民連携のあるべき姿とは、行政と民間がそれぞれ並行しながら同じビジョンに基づいて事業を行っていく関係性が望ましい形だと思っています。お互いに目指すべきビジョンが異なっていると溝のようなものが生まれてしまいます。あくまで発注者と受注者という垣根を超えて、ワンチームという形で取り組んでいきたいと思います。

最終的には、地域資源を回すことで地域内循環として経済が回るような、公民連携としてエリア資産の価値を向上する概念を目指しています。その中で行政としてできることは、ビジョンを定め、フィールドを決め、規制や運用を緩やかにして行くことだと思っています。

税金を補填することで運用していたマイナス資産をまちの経営資産に変えて行くことで、公共施設を幸せな建築として変えて行きたいと思い、日々活動を行っています。

トークセッション

最後に、合同会社RRP・東洋大学大学院客員教授 矢部智仁さんにファシリテーターを担当いただき、トークセッションを行っていただきました。

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矢部氏
公務員にとって公民連携の必要性、必然性をどのようにお考えでしょうか。

杉山氏
公共の福祉みたいなことに尽きると思っています。
福祉は民間ビジネスの中では重要視されないことが多いですが、住民生活にとっては重要なことで、それに携わってきてからは住民の暮らしをより良くすることに重きを置いています。そのためには、行政だけでは足りなくなってきていて、行政と民間、それぞれの良さを出し合うことで社会全体が良くなることを実感しています。

山口氏
杉山さんが仰るように、行政だけでは恐らく限界になってきています。なぜかと言うと、行政は昔に比べて予算が取れなくなり、人口減少や価値観の多様性なども上げられます。そこで民間と協働する必要性が出てくると思います。
ただ、個人的に思うことは、コスト削減のために公共施設を減少させることが多いネガティブな印象がある中で、公民連携であればやりたいという事業者に公共空間を提供することができるので、ポジティブに向かって行けるんです。お互いがやっていて楽しいと思えているから、次につながっているのだと思います。

矢部氏
先ほど、予算が取れなかったり人的資源も少ないというお話がありましたが、予算も人も足りていた場合は公民連携を選択されないのでしょうか。

杉山氏
もう不可逆だと思います。川口さんと同じで、行政と民間で一緒にやることの楽しさを知ってしまうと止められないところがあります。行政が様々な所を益々良くして行くためには、より知識が必要になり、外の人とつながらないとできないということが前提になって来ているのだと思います。

川口氏
私も同じです。公務員は制限が多く、コンプライアンスや法規制の模範、公平で公正でなければなりません。公共サービスに置き換えると、仮にお金があったとしても公務員の立場的に色のない公共施設を提供することになり、それだと誰にも刺さらず世の中に付いて行けなくなります。そんな中、外の人とつながることで、公共サービスのこれからの在り方が見えてくるのではと思います。

合同会社RRP・東洋大学大学院客員教授 矢部智仁さん

合同会社RRP・東洋大学大学院客員教授 矢部智仁さん

矢部氏
公共施設でお金を稼ぐというお話もありましたが、お二人の後に続く公民連携に取り組む方々へのアドバイスとして、公務員として「稼ぐ」ことに対する感覚を教えていただけますか。

川口氏
確かに公務員が稼ぐことに対してはタブー視されがちで、数年前には「そもそも稼げないから公共施設なんだ」と言う言葉もありました。もちろん全ての公共サービスに「稼ぐ」概念がある必要はありませんが、お金を消費する場所は楽しみがあるからであって、楽しいところには人も集まり市民の満足度も上がって行きます。そして、稼いだお金を分配する場所が公共空間の中にあることで、まちの魅力づくりにつながって行くと思います。

杉山氏
公務員は稼いではいけないということを免罪符にしているところがあるかなと思っています。一方で、最小の経費で最大の効果を出すためには、最小の経費に「稼ぐ」ことが含まれていて良いように感じます。稼がないまでも、プラスマイナス0にしようという感覚はあって良いのではという話をしたりしています。

矢部氏
言葉というものは受け手に判断を委ねてしまうところがあるので、「稼ぐ」と言うと不当な利益を得るようなニュアンスで捉えられることもあれば、必要な経費を必要な分用意すると捉えられることもあって、幅がありますよね。
ですがお二人のお話を聞くと、「稼ぐ」と言っても余分な利益を作るのではなく、必要なものは必要な分だけ生み出して行くというイメージですね。

川口氏
公民連携は公共空間で行う事業なのでパブリックである必要はありますが、ただ超短期で利益を上げて行くのではなく10年20年かけて地域の価値を生み、少しずつでも利益が回るような活動として持続可能になることが理想です。

矢部氏
最後に、場所の価値を創造することに今後続く方へのメッセージをお願いします。

杉山氏
行政の立場でも民間事業者の立場でも、小さいことからまずはコミュニケーションを取ってみましょう。そこから何かを一緒になって考えて行く中で、楽しみながら少しずつ仕事に転換して行けたら良いのかなと思います。

川口氏
テクニカルな部分としては学び続けることが必要だと思いますが、そのためには自分自身に対して投資していくことが重要です。現実的に難しい場合も、例えば小さなマルシェを開催してみると良いと思います。企画者として運営側の目線に立ってみると、そこにまちの参加者が集まってきます。その空気感に触れてみることで、行政と民間が近づくことができるように感じます。

矢部氏
お二人のお話の共通項は、人との距離感の重要性を感じました。従来の官民の関係だと見えない壁のようなものがありましたが、オープンでフェアであれば壁を感じずに付き合って行けるように思いました。

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ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

木造施設協議会について