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【開催報告】木造施設協議会 2023年 年次総会+木造園舎・製材所 視察ツアー(2)|2023/7/21-22
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【開催報告】木造施設協議会 2023年 年次総会+木造園舎・製材所 視察ツアー(2)|2023/7/21-22

「住宅感のある空間、丁寧なモノづくりスピリットがこどもたちの心に響くような、木造園舎」を伺って

【開催報告】木造施設協議会 2023年 年次総会+木造園舎・製材所 視察ツアー(2)|2023/7/21-22

施設名:こども園 宍粟わかば(兵庫県宍粟市)
話し手:Ms建築設計事務所 代表/一級建築士・住宅医 三澤文子氏、Ms建築設計事務所 チーフデザイナー/一級建築士・住宅医 上野 耕市氏

【開催報告】木造施設協議会 2023年 年次総会+木造園舎・製材所 視察ツアー(2)|2023/7/21-22

年次総会・視察ツアー報告の第2部として、協議会顧問のお一人である三澤文子氏による特別講演と、三澤氏が設計、山弘が施工をした木造保育施設「こども園『宍粟わかば』」へ伺った様子をまとめました。

木造施設協議会では、以前より保育施設の木造化に関するセミナーを多数開催して参りました。
宍粟わかばの園長である中川氏もそのセミナーに参加されたことをきっかけに、こどもが心地よく過ごすことができる園舎を建てたいと願い、今回完成に至りました。
協議会の活動が木造施設の普及へ繋がっていることを実感し、非常に嬉しく思います。

第2部では三澤氏の特別講演と実際に園舎を訪ねた様子を交えて、「こども園『宍粟わかば』」についてご紹介いたします!

保育室(1歳児室)、床材は桧の木撮影:畑拓

保育室(1歳児室)、床材は桧の木

広縁、調理室前撮影:畑拓

広縁、調理室前

園舎に沿って配置される、ゆったりとした広縁撮影:畑拓

園舎に沿って配置される、ゆったりとした広縁

毎日思いっきり遊べる園庭(運動会は他施設の体育館で)撮影:畑拓

毎日思いっきり遊べる園庭(運動会は他施設の体育館で)

特別講演|Ms建築設計事務所 三澤文子氏

「こども園 宍粟わかば」について講演される三澤文子氏

「こども園 宍粟わかば」について講演される三澤文子氏

特別講演として、Ms建築設計事務所 代表取締役の三澤文子氏に登壇いただき、2023年4月 兵庫県宍粟市に開園した「こども園『宍粟わかば』」をつくることになったきっかけから、建物に込められた想いや工夫された点をご紹介いただきました。

2日目は実際に園舎を視察させていただき、間近で建物を見ながら講演で伺ったお話の詳細をお聞きしました。
「こども園『宍粟わかば』」に対する三澤氏自身のコンセプトは、
「住宅感のある空間、丁寧なモノづくりスピリットがこどもたちの心に響くような、木造園舎」
とあり、物々しい会議室のような施設ではなく、暖かいお家で過ごしているような落ち着ける空間を目指していたと語ってくださいました。

こども園 宍粟わかばのコンセプト

「こども園『宍粟わかば』」のアプローチ撮影:畑拓

「こども園『宍粟わかば』」のアプローチ

宍粟わかばの園長、中川晋平氏

宍粟わかばの園長、中川晋平氏

「こども園『宍粟わかば』」の園長である中川氏は、木造施設協議会が2018年に大阪で開催した「木造施設と保育」に関するセミナーに参加くださり、Ms建築設計事務所の三澤氏と園舎に相応しい木造建築として宍粟わかばをつくられました。

こどもと言えば「元気いっぱい」のイメージがあるが、実際は身体機能と精神面の未熟さ、即ち集中力がなくこだわりが強いため、落ち着きがないことを理解する必要があります。
そこで今回園舎を建てるにあたってコンセプトとして求められたことは、落ち着ける空間・五感を刺激する空間だと中川氏は仰います。

住宅を感じる、園舎入り口撮影:畑拓

住宅を感じる、園舎入り口

日常生活を行う場として、大きいお家のような園舎を建てたいと中川氏は依頼されたそう。
元々西洋の園舎は住宅を意識した観点で建てられてきたようですが、日本では無機質な建物が多い印象があり、これからの新しい園舎では住宅を意識したつくりにしたいという想いが強かったそうです。

宍粟わかばの敷地環境が一番すばらしい

「こども園 宍粟わかば」の敷地条件

「こども園 宍粟わかば」の敷地条件

「特別、地域環境が一番すばらしい」と三澤氏が仰る通り、園舎は山・川・田・墓地の桜の木といった豊かな自然環境に囲まれています。その自然との調和を大切に、東側の田んぼに開く園庭を囲んだC型の建物配置です。

登園するこどもたちと保護者の方は、園庭を抜けて各保育室へ進みます。
日本の伝統的な家屋のように濡縁があり、庇も1.5mと広く設けられていますので、雨の日は建物に沿って登園することもできます。
現在の園庭には古い園舎の遊具が置かれていますが、親子で木製遊具をつくるワークショップが予定されていて、今後園庭には手づくりの遊具が増えていくのだそう。

視察の日も、自然豊かな環境を見ることができました撮影:畑拓

視察の日も、自然豊かな環境を見ることができました

濡縁はひのきのデッキと真砂土を練り込んだモルタル撮影:畑拓

濡縁はひのきのデッキと真砂土を練り込んだモルタル

こどもだけでなく大人も落ち着く、宍粟わかばの空間づくり

気持ちの良い木目の中に、落ち着いた赤色と青色の絨毯が差し色になっています撮影:畑拓

気持ちの良い木目の中に、落ち着いた赤色と青色の絨毯が差し色になっています

夕方の園舎撮影:畑拓

夕方の園舎

室内は木造としての木の色だけでなく絨毯に赤色や青色を使う色彩計画で、こどもだけが好きな色味ではなく大人の方もほっとしていただける配色を意識されています。
忙しい時間の中で送り迎えをしたり、大切なこどもを預ける心配を持つ親御さん方にも寄り添えるインテリア空間を目指したかったと、三澤氏は仰います。

三澤氏ご自身も6年間お子さんが保育園に通っていたそうで、お迎えのときに仕事の疲れを癒したり、この後こどもと過ごす時間へ気持ちの切り替えをするタイミングだったとお話してくださいました。

巾2730mmのゆったりとした広縁は、中と外を繋ぐ温熱コントロールも担っている

巾2730mmのゆったりとした広縁は、中と外を繋ぐ温熱コントロールも担っている

園舎全体に繋がる広縁は幅を2,730mmと大きく設けることで保育スペースも兼ねており、尚且つ心地の良い風が通ります。
広縁を各保育室と外部との中間ゾーンとして設けることにより、温熱コントロールができるのではないかと設計段階で考えられたそう。
設計で意図していたよりも効果を発揮できていると、非常に暑い日が続くこの夏に実感できたと仰います。

遊戯室入口も幅広く、ゆったりとした空間になっています

遊戯室入口も幅広く、ゆったりとした空間になっています

樹状トラスと直交方杖による遊戯室の架構撮影:畑拓

樹状トラスと直交方杖による遊戯室の架構

遊戯室は樹状トラスと直交方杖による架構で、間口10.92mの大空間となっています。
近年、遊戯室はお父さんお母さんだけでなく祖父母の方々も多く来られるため、なるべく多くの方に入っていただけるように大きくゆったりとした計画となっています。

北に向かう排煙窓からは山々の緑色、南に向かう排煙窓からは空の青色、それぞれ気持ちよく望むことができます。
施設の設計では排煙窓をどう計画するか悩むことが多く、今回も例に漏れず四苦八苦されたそうですが、結果的に排煙窓のお陰で風景を取り込むことになり、ポジティブな捉え方ができたと仰います。

三澤文子氏と共に意匠設計を担当された上野耕市氏(Ms建築設計事務所)

三澤文子氏と共に意匠設計を担当された上野耕市氏(Ms建築設計事務所)

オリジナルのプール、夏季以外はウッドデッキと同じ材でつくられた蓋で閉じます撮影:畑拓

オリジナルのプール、夏季以外はウッドデッキと同じ材でつくられた蓋で閉じます

園舎の「音環境」には、まだまだ課題があります

宍粟わかばの音環境について

宍粟わかばの音環境について

保育室の天井は、小屋組みが見える広い空間だと音の反響が出てしまうという意見があり、木造施設協議会の勉強会による資料に改めて目を通され、音の反響を抑える平天井で計画されています。

天井全面に吸音材が貼られていますが、有孔ボードのような吸音パネルでは施設感が出てしまうため、木材に合う吸音材としてパーフェクトバリア吸音パネルが使われています。フェルト生地のような柔らかい雰囲気があり、木造施設にとても合っているように感じました。

「木の本棚」と呼ばれているブック型吸音材は杉の端材を利用したもので、意匠的にも成功したと感じているそうです。ブック型の端材によってできる凹凸により、音を乱反射する効果があります。

天井にアイボリー色の吸音パネルと、壁にブック型吸音材。床は一部なぐり加工がされ、足裏や手の肌触りが心地よい。撮影:畑拓

天井にアイボリー色の吸音パネルと、壁にブック型吸音材。床は一部なぐり加工がされ、足裏や手の肌触りが心地よい。

木造施設協議会で勉強会が開かれたのが2018年、その後2020年にやっと保育施設に関する音環境の推奨値が制定されました。
三澤氏はある保育施設に見学に行かれた際、音の反響に驚かれたそう。
こどもは遊んでいるとどうしても音が響いてしまうため、それに合わせて保育士さんの声も大きくなり、音環境の対策がなされていないと反響音がどんどん大きくなってしまいます。
比べて宍粟わかばでは音環境の対策をしたからこそ非常に心地の良い空間となり、保育士さんも穏やかに話をされているそう。

ただ、園舎や木造施設の音環境はとても悩ましく、まだまだ課題があり今後も改善が必要です。
宍粟わかば進行時も、模索しながら解決策を探り今の設計になったと仰います。
今回の対策でも測定結果にはまだ改善の余地があり、今後も木造施設における音響設計のスキルアップが求められます。

こどもは未来の象徴

「未来の大人の、心に留まるような、木の園舎を。」

こどもは「未来の大人」、未来の象徴であり、未来をつくっていってくれる。
一般住宅の設計はとても楽しくやりがいがあるが、幼児施設の設計はこれからも本当に進めていきたい、未来の大人が育つ空間づくりを、こどもの心に留まる木造の園舎づくりを続けていきたいと、最後に語ってくださいました。

アプローチのサインは、経変変化する真鍮をセレクト(デザイン:松井匠氏/森林文化アカデミー)撮影:畑拓

アプローチのサインは、経変変化する真鍮をセレクト(デザイン:松井匠氏/森林文化アカデミー)

宍粟わかば 撮影:畑拓
文責:木造施設協議会事務局

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