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学び高め合う、地域に根差すものづくり(3)
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学び高め合う、地域に根差すものづくり(3)

設計者と現場の技術者の教育

学び高め合う、地域に根差すものづくり(3)

話し手:山辺豊彦氏(山辺構造設計事務所)

学び高め合う、地域に根差すものづくり(3)

4号建築だけでなく、延べ面積500㎡以上の規模の大きな木造施設を地域工務店が未来の仕事にしていこうと私たち木造施設協議会は考えています。対象となる施設の建築は3号建築物(Ⅴ)の区分になり、構造計算では許容応力度設計が必要になります。木造の許容応力度設計に慣れた設計者は構造、意匠ともにそれほどたくさんいない、だからこそ若手の育成や勉強会といった技術者の育成の必要なんだ、と山辺氏は言われます。連帯して勉強し、スキルアップしていくことがお施主さまに対しての安心感という一つのPRにもなる、とも。

山辺:
“「もう少し勉強しなさい」と言いたいのですが、法律と実体の部分とで実体のほうの把握が追い付いていないわけだから育成のための勉強会という場が重要になっている。
意匠(設計者)と構造(設計者)と施工者と材木屋さんが共に学んで連携していかないといけない。みんな集まって勉強しないとだめ。お客さんからするとハウスメーカーと工務店の違いが判らない。アメリカなんかは工務店は地域ごとにしかない。気候の差があるから特化しているんだよ。でも、日本ではメーカーはお墨付きをもらって、器用に全国展開している。それに対して地域の設計者や工務店は孤軍奮闘している状態だよね。どうしたらよいか……となるからこそ、木造施設協議会のようなまとまりのある団体に入ってちゃんと勉強して、そういう姿を一般のお客さんに見せないといけないと思う。”

試験体の壊れ方のチェックポイントを解説する山辺氏。大工塾に参加する職人や設計士の表情は真剣だ。

試験体の壊れ方のチェックポイントを解説する山辺氏。大工塾に参加する職人や設計士の表情は真剣だ。

構造設計者の若手育成

山辺:
“構造専門の設計者が少ないということから、昨年、一昨年と2年にわたって国の先導事業として、林野庁の補助金を入れて構造設計者の育成プログラムをつくり、年間に50名、2年でトータル100名、中大規模木造の構造設計者を育成しようと各県から2名ずつ選抜して講習会を行った。その受講者が、各地区で集まって今やっている作品を発表し、意見交換しているので横のつながりが生まれているようです。初級編、中級編と分けて基礎から勉強するのも良いと思います。”


基礎から確実に学んで、最終的には図表をひけるように演習すること、実験時の写真をたくさん撮ってそれを見ながら実験結果を振り返ると勉強になると言われます。また、既に使用されている製品について実験すると、実際には認定の耐力が出ないという結果が出ることがあるそうで、数字だけに頼らず「余力」をみる設計の重要性を語られます。


山辺:
“使っている材料について真っ先に実験をしてみると想定していた倍率が出ないため、皆真っ青になることもあります。実験を通して「設計は認定の数字ぎりぎりでやってはいけないんだ、少し余力を見ておかなければいけないんだ」と思う。その実感が重要な事だと分かって来ます。”

大工塾での耐力壁の試験風景

大工塾での耐力壁の試験風景

構法を再検証し大工さんと共有する

山辺氏は大工塾(Ⅵ)で実験をもとに大工さんの伝統的な技術を再検証するということを続けてこられました。在来構法は今こそ経験と勘だけでなく、実験とテキストをつくって大工さんの技術を再検証し、正しい使い方で継承していくことが大切だと言われます。


山辺:
“在来構法の良いところと悪いところをつくり手が知るということが一番重要だと思う。 伝統的に継承されてきた在来構法では経験で判断したり大工さんの思い込みがあったりする。だから自分たちが実験的にも経験的にも積み上げたデータで在来構法を見直すべきだと思う。そういう意味で、「経験と勘でやっている」と言うようでは今はだめなんですよ。石場建(Ⅶ)しかやっていない大工さんもいて、大工さんに「検証しているか」と聞くと「親方から継いできたもんだから大丈夫だ」と、そういう人もいるんだから。実際、熊本地震でも石場建のものがかなり大きな被害を受けているケースもあるんです。ちゃんと実証したうえで、もう一回見直していかないといけないと思います。”


山辺氏は『渡り腮構法の住宅のつくり方―木の構造システムと設計方法』で渡り腮構法についてまとめられていますが、構法別に教えるのが一番効果的だと言われます。


山辺:
“大工塾では具体的な法について大工さんたちと一緒に学んでいくことから始めました。大工さん達と話をするうち、大工さんは、実験を伴っていないと絶対に納得しないことが分かりました。そこでどうしたかというと、実験してみて、その結果から「だから耐力はこれだけにするんだよ」と伝えるようにしました。議論だけではお互い不信感が生まれるけど、実験の値や壊れ方を見ればまぎれもない現実なので、お互いに信じられる。一番良いのは大工さんたちがつくってきた仕口を実験で引っ張ってみて、耐力を出すと、その結果に対しては謙虚に聞いている方が多いです。”

大工と設計者が継手の壊れ方を見て、改良点をお互いに考える。

大工と設計者が継手の壊れ方を見て、改良点をお互いに考える。

―大工さんが品質を保証する最前線-

大工塾を受講した大工さんは有名な先生が設計した建築でも、きちんと耐力がでる納まりを提案できる能力を持っているそうです。住宅の場合、現場監督も、設計者も現場にずっといられるわけではありません。管理体制を見ても、現場で直接のつくり手側に責任がある体制になっている、つまりは、現実的には大工さんが品質を保証している、だから大工さんの教育が重要だ、と山辺氏は言われます。


山辺:
“設計者はスマートに納めようということばかり考えているでしょ。でもそれじゃ耐力が出ません、という話になるじゃない。大工さんのほうがよく知っていて、品質においては大工さんが最後の砦なわけです。日本の大工さんはそういった知識を持ってなきゃいけない。構造を分かっていない設計者が4号特例のもとで無理な納め方をしている場合もありますが、そういうのを大工さんの力で防いでいる。品質保証の最前線なんですよ。”

現場と設計者が歩み寄る学び

大工さんの技術を再検証、再認識するとともに設計者側も大工さんの技術を理解して、関連した勉強をしていかないといけない。そして、お互いにスキルアップすることの重要性をしばしば言われます。


(つづく)

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[ 注  釈 ]

Ⅴ 建築基準法第6条による分類
Ⅵ 大工塾は大工技術を学ぶ場ではなくて、大工として今何を考えるべきかを、皆で学ぼうとする場です。現在の環境に積極的に目を向けて、住宅造りの持つ意味をあらためて考えることで、主体的な住宅の造り手としての大工像を探ろうとするものです。 過去10回の大工塾の塾生は200人を超えましたが、それぞれの塾生は、それぞれの地域で、木造住宅を造り続けてゆく運動を展開しています。 http://daiku-j.net/ より抜粋
Ⅶ 石の上に柱が載っているだけの礎石と建物の縁が切れている建て方のこと

取材日:2017年5月9日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩

木造施設協議会について