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学び高め合う、地域に根差すものづくり(5)
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学び高め合う、地域に根差すものづくり(5)

地域でつくり大切につかう、世界に通じるものづくり技術

学び高め合う、地域に根差すものづくり(5)

話し手:山辺豊彦氏(山辺構造設計事務所)

学び高め合う、地域に根差すものづくり(5)

伝統技術を工学的に見直す

山辺氏はなぜ建築の分野に進まれ、そして現在のような大工塾を含め、書籍の出版等、木造の技術者教育をされるようになったのでしょうか。その動機や思いを聞いてみました。


山辺:
“僕の出身は能登半島の田舎の出で、家をつくってくれたのはほとんど大工さんでした。ある時、2階で弟と寝ていた時に、柱にほぞで太鼓梁が刺してあったんだけれども日々雨漏りがしてたんでしょうね、腐っていて雪が積もって太鼓梁のほぞが抜けてすごい音がして音に驚き落ちたことがあったんです。真下までこなかったから無事で良かったんだけれども、その時は弟と音に驚いてばっと起きたことがありました。また、梅雨になったら建具が閉まらなくなって大工さんが来てしょっちゅう削っていた記憶があります。分かっていなかっただけで、今は大工塾を開催する価値は十分あると思います。”

伊丹市岡田家。日本最古の酒蔵の小屋組

伊丹市岡田家。日本最古の酒蔵の小屋組

鳥取県若桜町の蔵を活用した店舗天井

鳥取県若桜町の蔵を活用した店舗天井

理屈を知って伝統的な大工さんの技術を適切に使えば、地域材で大工さんがつくれる範囲は相当ある、ただ法規や技術者の理解不足によって地域材による地域の仕事が抑え込まれていると憤りをもって語ってくださいました。


山辺:
“今は実験データがあって地域材でちゃんとした大工さんがいてやれる範囲は結構あるんですよ。それを設計者や法律のところで地域材が抑え込まれてしまっている。例えばヤングをJAS製材でないといけないとなると、ある地域では50km先まで製材所がないということになります。そのことが地域材の活用を阻害することにつながっている。結果として製材屋さんがなくなっているということは事実です。鉄筋コンクリ―トには配合計画があって、そのことで経験や実績に基づいて人為的なものが加わっていることにつながります。鉄骨だって(専門的な)誰かが炭素当量などを決めているんだから。木っていうのは既に地域にある木材をきちんと調査すればたしかな素材であることが調べられるのに、なんで一律にJAS製材を使わないといけないとなるんだよ。ヤング係数Eと含水率D表示を行えば、地域材のやれる範囲はかなり広いと思います。私の経験では3号建築でラーメン構造のものを除いて、耐力壁が入っているほとんどの建物で普通の地域材でいけるはずなんですよ。そう考えると、あと何が足りないかというとやっぱり「技術者」なんだ。”

人的財産と日本のものづくり

先述のように、構造設計と意匠設計の技術者や大工さんに対して間違いない設計をできる教育を施すことで人的財産をつくり、それによって地域に根差した日本のものづくりを今こそ見直すべきだ、と山辺氏は言われました。


山辺:
“質の高い設計をできるように技術者にちゃんとした教育を行って大工さん、工務店の教育も含めて人的財産につながればかなりの範囲(少なくとも低層の建物の木造化等)の建築工事がやれると思います。そういう中で木造住宅や木造施設でいい建物ができて、地元の人に愛される。(建築に)地元の人が何らかに携われば、なお一層、大切に使うでしょ。そういうものをつくりあげていくのが日本のものづくりなんだよ。今の日本のものづくりだと思います。最近はその感覚が全体的に失われていますね。政治や社会の状況を見ていると大量生産、大量消費しているところが一見勝ち残っているようですが、そういうところにはさっさと外国に進出していってもらって、日本は日本で「木造は地域の人材でしっかりと建てていく」ということを今あらためてやらないとだめだと思うよ。”


山辺氏は「大工さんの力量を正しく発揮できる現場を用意できれば、日本のものづくりは世界に誇る木造建築をつくることができる」と語られます。


山辺:
“大工さんの力量を間違わないで適材適所で使えれば、世界に確たる技術力なので、それを残していかないと。あれだけの技術力を持っているところなんて世界にないと思います。仕口にしても組み方にしても工夫されている。ただ一つ必要とされる耐力の検証が十分されれば良いと思いますが、そこをちゃんと大工さんに伝えて共有してもらえれば良いものが建つと思います。”

大工さんの作業風景

大工さんの作業風景

おわりに

長年にわたって数多くの設計現場、大工さんの教育現場に携わってきた立場から、地域材を活用した地域に根差したものづくりを再評価すること、技術者の教育のもとに今こそ木造の技術を見直すべきであると熱く語っていただきました。また日本構造技術者協会での活動はじめ、弁護士団体や各種法規と関係するお仕事の視点で、地域材を無垢材として利用する際の法規上の制約と、現場の違い、本当に確認しなくてはならないことを指摘されました。


どれだけ簡単に扱えそうなソフトが開発されたとしても、まず考えてきちんと数字を扱い設計すること。認定や数字にとらわれず、実在する木と向き合い、実際に測って目でチェックすることが一番信用できる。この視点は建築の一連のプロセスをあらためて見直すお話となりました。 そして「地域材によって地域の施設を地域の手でつくる可能性は大きなものである、無垢材のダイナミックな架構は感激してもらえるんだ」この言葉は力強く胸に響きました。地域の人々が力を携え、ともに学び、伝統的な技術の再評価することが、技術をただ継承するのではない、未来に向けて伝統を再解釈した建築をつくる道なのかもしれません。


「難しくも面白い」地域材による地域のための施設の建築には、我々が地域に根差した建築を生み出す技術者としての覚悟を持って、学びつづける道を示していただけたインタビューでした。

取材日:2017年5月9日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩

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