オピニオン

WoodOpinion
子どもの育ちを支える保育環境づくりに向けてー保育環境の環境再考と課題ー(3)
WoodOpinion

オピニオン

子どもの育ちを支える保育環境づくりに向けてー保育環境の環境再考と課題ー(3)

地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin東京 でのご講演より

子どもの育ちを支える保育環境づくりに向けてー保育環境の環境再考と課題ー(3)

話し手:常葉大学保育学部 講師 村上博文

子どもの育ちを支える保育環境づくりに向けてー保育環境の環境再考と課題ー(3)

第3回では保育環境の3層構造の説明から「隠す」「隔てる」「本物」「つづき」「約束」「明るい」「暗い」をキーワードにした具体的な保育環境の工夫についてご紹介いただきます。

保育環境のデザイン

これまで、子どもとは、保育とは、保育施設とは、少し理念的な話をしてきました。これから具体的に、保育環境のデザインについて述べていきます。まず保育環境を3層構造、次に感覚の諸相という視点から、そして最後に保育環境が子どもの行為にあたえる影響、以上の3点についてお話ししていきます。まず保育環境の3層構造とは、環境の条件、構成、そして共創です。

環境条件―音、光、スケール、職員の配置、空気質

第1層は環境条件です。保育所の環境条件は、「保育施設設置最低基準」によって国によって定められています。また幼稚園の環境条件は、「幼稚園施設整備基準」によって決められています。ちなみに保育施設最低基準が制定されたのは1948年、戦後日本が復興に向けて、まだまだ混乱していたときです。それ以来、その内容はほとんど変わっていません。
具体的に環境条件についてみていくと、子ども1人当たりの面積は決まっています。しかし世界の基準からすると、1人当たりの面積が狭いと言われています。また音環境については、スウェーデンでは基準がありますが、日本の保育施設最低基準には記載されていません。光についても同様です。光環境についていえば、日本の保育施設は蛍光灯が多いのが特徴です。それが子どもの生活環境として適切であるのかについて再考する必要があります。また日本の保育施設は海外の保育施設に比べて明るすぎると言われています。実際にどれくらいの明るさがよいのか、それもまだ十分に検討されていません。それ以外に色彩、空気など、保育環境として考えていかなくてはならないことはたくさんあります。その際に忘れてならないのは、「子どものスケール」という視点から、保育環境の基準について考えていくことです。

保育室の環境構成

これまで第1層の保育の環境条件という観点から述べてきましたが、次に、第2層の保育室の環境構成についてお話をします。これは、保育者が保育室の環境を子どもの発達や興味・関心に応じてどのようにつくるかという段階になります。それをふまえて、第3層の環境共創という段階になります。この段階は、保育者だけが保育室の環境をつくるのではなく、子どもとともに自らが生活する場所である保育室の環境をつくっていくことになります。なぜならば、先ほど鯨岡先生の言葉を紹介しましたが、保育の主役は子どもと保育者の両方であると考えるからです。実際には、まず保育者が保育室に様々なコーナーを作るなどして環境を整えますが、それはあくまでも環境づくりの始まりにすぎません。保育室は子どもたちの興味・関心に応じて、子どもたちの活動の展開に応じて変わっていきます。

「落ち着く」空間づくり

話が第3段階までいってしまいましたが、第2段階の環境構成の段階に戻ります。環境づくりにおいて大切なことについて、これから写真を見ながら説明していきます。まずは「落ち着く」という点から保育室の環境をみていきます。
保育施設というと、部屋の壁には原色に近い色を使った制作物がよく飾られています。それに対して、先ほど紹介しました仁慈保幼園の壁面にはそうした絵などが飾られていません。一般の家庭により近いといってもよいでしょう。子どもが毎日生活する空間として、どちらの壁面が落ち着くのか、保育者は考える必要があります。また仁慈保幼園の保育室には、家庭と同じように台所があります。子どもが生活する場所として、こういった環境設定も大切でしょう。

落ち着いた色合いの一般の家庭のような壁面

落ち着いた色合いの一般の家庭のような壁面

「見えない」、「隔てる」

また保育室で子どもが落ち着いて生活するには、廊下から保育室が「見えない」という点も重要です。園によっては、廊下から保育室が丸見えの状態にある場合があります。人が廊下を通るたびに、子どもたちはそちらに視線を向けてしまい、落ち着かないことがあります。したがって、廊下から保育室が見えないようにするために、ちょっとした工夫が必要になります。

さらに「隔てる」についてです。通常の園では、登園後、子どもはすぐに保育室に入っていきます。それは当たり前のことですが、朝、嫌なことがあって、保育室にすぐに入りたくない子どももいます。そうした子どもにとって、朝、気持ちよく友だちと会うためには、気持ちを立て直したり、落ち着いたりするまで過ごす空間が必要になります。ちょっとした配慮ですが、子どもにとって案外、重要な空間です。

廊下から見えないようにする

廊下から見えないようにする

適度に視界を隔てる

適度に視界を隔てる

「本物」、「つづき」、「約束」

保育環境における「落ち着く」空間の重要性について述べてきましたが、それ以外に保育環境として大切にしていくことは「本物」、遊びが続けられる工夫やルールなどです。現在、子どもたちは疑似的なものやバーチャルなものに囲まれて生活をしています。それゆえに、園の中には積極的に「本物」を置くことが重要になります。また午前中の遊びを午後、翌日も続けられるように「つづき札」を作っている園もあります。
さらにおもちゃ棚におもちゃの写真を貼っておくことによって、保育者が指示をしなくても、子どもは自分で遊んだおもちゃを自分で片付けられるようになります。これは、子どもにもわかりやすいように「約束」を見える化する工夫です。

遊びをつづけるための「つづき札」

遊びをつづけるための「つづき札」

子どもが自分で片付ける道具やつづき札

子どもが自分で片付ける道具やつづき札

「明るい」「暗い」感覚遊びや安心できる隠れ家

最近、イタリアのレッジョ・エミリアの教育の影響を受けて、光などの感覚遊びに注目が集まっています。保育室に光遊びのコーナーをつくる園も出てきました。光遊びをするには、明るい場所だけでなく暗い場所も必要になり、光の明暗を意識した園舎づくりが、これからは求められるようになるでしょう。
例えば、静岡市内にあるこども園では、押し入れのドアを開けて光遊びコーナーをつくっていました。光の空間を保育室につくることは、裏を返すと光のない暗闇の空間をいかにつくるのかにつながります。さらに光から話を発展させるならば、直接照明だけでなく、間接照明によって子どもたちが光を楽しむことができる環境づくりも大切です。
暗闇といえば、隠れ家的な空間もまた保育室には、できれば欲しいものです。集団で生活することから、子どもたちは気づかないうちに様々なストレスを抱えています。それを発散する意味でも、また一人でいたいときにいられる意味でも、隠れ家的な空間は必要です。しかし、隠れ家は保育者からすれば、自らの視界から子どもが消えてしまう可能性もあり、その点において十分な配慮が求められます。保育者が安心できる、また子どもにとって落ち着くことができる隠れ家的空間をいかに実現するかは、保育者と建築家の協力が必要になります。
それ以外にも、最近では保育室に廃材がたくさん用意されていたり、廃材等が置かれ制作等ができるアトリエという部屋がある園も増えています。

光遊びの空間

光遊びの空間

隠れる空間

隠れる空間

会場・協力:まつぼっくり保育園(運営:社会福祉法人 松栄福祉会)

写真:村上 博文先生提供

文責:木造施設協議会事務局

木造施設協議会について