オピニオン

WoodOpinion
先進的福祉サービスと建築の居心地でつながる効果(4)
WoodOpinion

オピニオン

先進的福祉サービスと建築の居心地でつながる効果(4)

先進的福祉サービスと建築の居心地でつながる効果(4)

施設名:トータスフォレスト(栃木県)
話し手:社会福祉法人幸知会 佐藤昌親氏 × 中山大輔建築設計事務所 中山大輔氏

先進的福祉サービスと建築の居心地でつながる効果(4)

今回の社会福祉法人と、施設を設計した建築家のお話の最終回、質疑になります。

Q.施設っぽくないとはおしゃれなイメージ?住宅のようなイメージ?

佐藤:重度の人は生活のようなイメージが必要で、軽度な人は家でできないことを求めている場合が多い。トータスフォレストの場合は利用者が軽度なのでおしゃれな場所のイメージが好まれると思う。

Q.トータスフォレストの複合用途の構想については誰に相談したか?

佐藤:新規事業、新規地域はコンサルに市場調査をかけてから事業を行っている。
新規事業である歩行特化型デイサービスにはコンサルが入っている。障がい児事業は宇都宮の事業所で始めた際にコンサルを入れた。具体的な建物になる段階では設計者とつめていく。

Q.設計者と法人の接点は?提案の強みは?

中山:事務長との接点は居酒屋での出会い。トータスには県内に1、2を争う組織設計事務所とゼネコンが入っていた。
大型デイサービスを見学して、従来は管理しやすさが第一のイメージだったが、デイサービスでも人間らしい場所をという思いで提案した。組織設計事務所の提案は倉庫のような施設っぽいイメージだった。

事業者と設計者で考え方は相通ずるものがあったのか?

中山:幸知会はフィロソフィー、アメーバ経営等先進的な経営があって尊敬していた。理念、方向性があうところがあった。

<事務局・藤村より近年の施設の傾向・事例>
生まれてから家以外に「施設」と呼ばれる様々な場所を利用する。ライフサイクルは施設とともにある。しかし、施設=管理、非日常が施設というイメージで掃除がしやすい、人がどこにいるか見渡せて管理ができる、単一の大きな空間に無機質な家具が置かれているような場所もたくさんある。その中で、「住まいが施設に近づいている/施設が住まいに近づいている、施設は管理されるものでなく、そこにいいることで人間らしく居られる場所に変わってきているのではないか。用途の複合化+地域に開く場所になってきているのではないかという提起をした。
木造施設は施設っぽくない施設として、住宅の延長のような建物として注目されている。
「地域をベースにした複合化」の事例では会員の大野建設施工の葬儀場×カフェ(きららテラス)、薬局×健康教室、寺×結婚式×ヨガ、「地域を表現する」ものとして消防署、防災航空センター、復興施設、商工会議所、「理念やサスティナビリティを表現する」ものとして上勝町ゼロウェイトセンター、戸越銀座駅、インドネシアゴム農園の残余材でつくった教会、「日本的なるものの見直し」として町家を改修したチョコレートショップやオフィス(木質化)、北欧家具展示場、「大きな空間をつくる」として海外事例アクセンチュアシドニーや埼玉工業大学などをご紹介しました。居心地の良さと利用する人、働く人という人が集まることの関係に加え、人が集まることで経済がまわり、また海外への発信から逆に日本国内でも木をつかうことが見直されている流れを整理しました。

北沢建築木材加工場

北沢建築木材加工場

戸越銀座駅

戸越銀座駅

Q.地元との関りは法人としてあるか?

佐藤:学校関係の慰問は法人本部に行くことが多い。トータスフォレストでカフェスペース、地域交流スペースをつくったのは将来的に子供食堂など地域貢献としてやっていきたいという話があがったため。ケアマネージャーの見学や、民生委員さんや地域の集まりなどの一般の方々は積極的に受け入れている。

共用部分 カフェスペース※

共用部分 カフェスペース※

カフェスペースでの地域交流

カフェスペースでの地域交流

Q.佐藤部長として木造に対する不安はあったか?

佐藤:リライフのときにデザイン性だけでなくスタッフの使い勝手を話し合って反映してもらったこともあって設計の中山さんと信頼関係があった。

Q.中庭、デッキ、カフェという共有部分を設計してよかったところは?

中山:専用の庭があって、なんとなくつながっていて守られている、居場所をつくってあげることが重要だと考えた。

交流を生む中庭※

交流を生む中庭※

Q.施工業者の選定においてどのように?

中山:県に相談にいくと施工者の規模を指摘される。社会福祉法人では木造が得意な工務店と組むというのが難しいのが現状。5社指名で入札できることもあるが担当者で判断分かれる。地域工務店とやりたいという思いと入札条件に従わないといけないという部分で良い方法がないか模索中。トータスフォレストの工事も栃木県内事業者を指定するのが条件にある。

Q.幸知会さんは利用者、スタッフの声がよく離職率が低いか?

佐藤:福祉業界は給与面の条件だけでなく、休憩時間や良い環境で働きたいというところがある。若い人は特に、スタッフ同士の交流ができるカフェがあったり、おしゃれであったりするところで働きたいというようなことを重視している。職員が辞めないので新規採用がない。過去2年くらい離職率ゼロで、県内だけでなく離職率が高い福祉業界全体でみてもかなり珍しい。

文責:木造施設協議会
建築写真※:藤本一貴

木造施設協議会について