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山から建築へつながる地域循環を(1)
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山から建築へつながる地域循環を(1)

地域の無垢材による地域のための建築

山から建築へつながる地域循環を(1)

話し手:株式会社山長商店 代表取締役会長 榎本長治

山から建築へつながる地域循環を(1)

今回インタビューさせていただいた山長商店さんは江戸末期育林事業からその歴史が始まり、山林経営から伐採・製材・乾燥・プレカット加工までを自社で手掛ける一貫事業体制で行われ、上質な紀州材を提供されています。

山の現状、具体的な施設事例から、木材や行政を巻き込んだ川上から川下までの協力体制、木の教育、山の仕事まで木にまつわる様々なお話しをしていただきました。無垢材で建築をつくることの山への貢献、行政と山・設計・建設が連携することによる地域の建築が実現するプロセス、そして先駆的な試みや難しい仕事がやりがいを生み出す手仕事の現場、という経済、建築、教育、働く環境という広い視野で木を捉える、今回は山からのアプローチです。

山長商店さんの植林からプレカット加工までの一貫事業体制

山長商店さんの植林からプレカット加工までの一貫事業体制

林業と設計、施工、行政とが力を携える

田辺市の南方熊楠顕彰館、熊野本宮館、新庄小学校について中規模施設の事例を紹介いただき無垢材で作り上げた建築のプロセスについて考えます。 南方熊楠顕彰館は当初、集成材で設計されていたところを山長さんからの提案で無垢材に変えてもらったと言います。設計者側が無垢材を使えるかどうかの理解が追い付いていないということも実情だそうです。またいずれも8m、樹齢80~90年の280φの丸太状の柱といった特殊な部材がある建築です。特殊な材料を使った無垢材の建築には発注の仕方、行政の理解も必要です。


榎本:
“特殊な材は1年、最低でも半年前には用意しとかないといけません。これは行政の理解も必要となってきますが、和歌山県の1/4の面積である田辺市は90%が山村地域になっていまして田辺市は林業振興に協力的です。”

植林された山

植林された山

新庄小学校

新庄小学校

榎本:
“熊野本宮館(ビジターセンタ―)は東大の香山名誉教授が設計者に選定され、設計コンペに応募したら通ってしまってと、設計段階から、紀州材でどこまで太いものまで可能かと私に問い合わせがあり、24cm角まででしたら可能ですと話しておきました。結局柱が3~8mの24㎝角(8寸角)を300本使うという事になりました。ちょうど高温減圧の乾燥機が入ったところだったので背割りなしの柱でやりましょうということになりました。僕が理事長になっている田辺木材協同組合が受けて森林組合や市場や林業家に声をかけて地域ぐるみで原木を集めました。主要構造材は分離発注で入札に先立って手当を始めました。杉の素材で6~8mで7万円/㎥と値段を決めて集めてもらうというような形にしたんです。各製材所で手分けして製材してうちでまとめて乾燥させて仕上げる、ということをやりました。全体の木材については分離発注で1年くらい前に手当を始めました。組合の方で私の先輩にあたる製材の方ですがね、この建築が紀州材の素晴らしい展示場になるからということで随分頑張って原木集めに汗をかいてもらいました。最初は市有林の木を使ってほしい、という話でしたが太さはあったのですが目粗な若木で材としては使えませんでした。どうせやるのであれば良い木を使わないと、ということでいろいろなところから原木を集めて一番多く集まったのが120年生を皆伐したところのもので綺麗な8寸角の8mの柱になりました。高樹齢の木はやっぱり木のもつ迫力があります。”

南方熊楠顕彰館内観。格子と丸太状の柱によるダイナミックな架構。

南方熊楠顕彰館内観。格子と丸太状の柱によるダイナミックな架構。

紀州産材による貫の格子壁

紀州産材による貫の格子壁

新庄小学校は市が発注元ですべて無垢材の製材品を使用しています。主要構造材が分離発注、羽柄材は入札価格込で、2月に完成しました。全体は3000㎡弱で間にRCの壁で区画して約1000㎡、1000㎡、1000㎡の構成です。

地域材を利用して建築をつくる、その材料調達について、組合、行政や設計者との連携の重要性を伺いました。施設建築では設計上、一部特殊な材が出ることがあり行政と組合が協力した体制での発注が実現には不可欠だということもわかってきました。逆にいうと連携していけば一部特殊な断面を含むダイナミックな木の力強さを魅せる空間を地域無垢材でつくることができるという方向性も見えました。設計段階からいかに無垢材で進めるか、材料調達について山側と協力できるかが鍵となってきます。


榎本:
“山から建築が有機的に繋がり、地域経済に反映してきますね。建築家の技量、現代的な木の提案があってできたものは素晴らしいものになります。”

木を学び木を使いこなす

無垢材を使いこなし、地域の山に還元するためには設計の面だけでなく発注の方法について設計者、行政の教育の重要性を指摘されました。


榎本:
“コスト、調達時間の点において市場流通材で考えるのが良いと一般的に言われています。市場流通材で考えるのもひとつの方向性ですし、一方で木の力を見せるという意味で施設建築のような規模の架構では8寸角のような特殊な材で考えるのもひとつの方向性です。それは建築家の考えによります。設計の面で建築家が無垢材の性質、どういうものか木を改めて勉強する必要があると思うんですね。それと同じことが行政でも言えます。中規模の建築は行政といっても県の発注は数棟/年、市町村の発注が多いです。行政の営繕が設計できて積算できて材を提供する必要があるので、行政の営繕部も木の勉強をしないといけません。集成材の建築は特許がついた金物によるシステム構法のような形ですから、公共建築で集成材の建築を選ぶと遠方で作られた集成材製品が運ばれて来て組み立てられることになり、地域の工務店さんの仕事にならない、地域にお金が返ってこない。そこまで含めて考えて発注者が意思決定する必要があると思いますよね。しかし市町村の場合、議会を通さないとはいけないし木の分離発注は手間がかかるので抵抗感があるんです。入札をかける段階では主要構造材は変更が少ないですが、羽柄材は後に変更があるので正確に把握するのが難しいです。後で修正しないといけないから予算も変わって手間がかかるというので嫌がるんです。”

地域材の活用と地域工務店の役割

一昨年のJBN(全国工務店協会)の調査によると国産材は地域工務店の利用率が一番高いという結果がでて、地域工務店の仕事が林業の地域振興に与える影響の大きさをおっしゃいました。


榎本:
“大手ビルダーが主体になっている日本木造住宅産業協会の統計ではスギの無垢材は3%程度の利用しかない、国産の集成材を含めても5%くらいだったと思います。一昨年のJBN、木青連、日本林業経営者協会が共同で行なった、全国工務店アンケート調査ではスギの横架材利用が30%で利用率が高いんです。つまり日本の林業で一番重要な鍵を握っているのが地域工務店のあり方だということがはっきりしたということなんです。日本の木を使いこなす技術というのは日本の森を守っていくひとつの生命線なわけですね。集成材の工場は全国でもかなり寡占化していますが、製材所は全国に何千もある。工務店さんが全国各地の林業に寄与しています。工務店さんが仕事をとって地域の製材、木材加工業に材料を発注することで、そのお金が山に帰り、非常に大きな役割を果たしています。”

“木材の品質はピンからキリまでであるわけですよね。材料を提供する側からすると良いものを使った良い建築をつくりたい、良い材料を納めたいと思います。

木の建築には歴史がある

榎本:
“木の魅力はやっぱり体感してもらうしかないでしょうね。体感してもらったらやっぱり素敵だと、これは設計の力ではあるのだけども、我々はそれに対してどのようにお手伝いできるかということです。日本のスギやヒノキによる日本の建築にはものすごく歴史がある、木を表に出して使っていることで木の経年変化までちゃんと評価に入ってくるわけですよ。例えばベイマツのピーラーはヤニもあるし最初はピンク色できれいなのですが数年するとこげ茶に変色して艶がなくなるのです。でもスギやヒノキは年と共に豊かな色に変化してくるということがあって、そういう美しさがあって建築のひとつの魅力に繋がってくるんです。それをどう引き出すかは、これは建築家の問題なのだけど、経年変化までベテランの方は分かって使っていらっしゃると思います。”

長く愛される地域の木造の建築の例。カトリック新発田教会内観。1966年竣工。アントニン・レーモンドの設計による。煉瓦の組積造の基壇に杉丸太の小屋組が載せられている。現在も屋根材以外当時のオリジナルのまま現役の教会として愛されている。

長く愛される地域の木造の建築の例。カトリック新発田教会内観。1966年竣工。アントニン・レーモンドの設計による。煉瓦の組積造の基壇に杉丸太の小屋組が載せられている。現在も屋根材以外当時のオリジナルのまま現役の教会として愛されている。

カトリック新発田教会外観。ガラスに貼られた和紙のパターンの張替えも型紙をとってオリジナルを踏襲している。

カトリック新発田教会外観。ガラスに貼られた和紙のパターンの張替えも型紙をとってオリジナルを踏襲している。

取材日:2017年3月24日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩

木造施設協議会について