オピニオン
文化としての豊かさをつくる(1)
中規模木造施設を地域の工務店へ
話し手:有限会社野沢正光建築工房 代表 野沢正光
今回インタビューさせていただいたのは、木造施設協議会顧問でもある野沢正光さん。環境共生建築の分野では住宅、施設を問わずに第一人者として活躍されてきました。
そんな野沢さんに、地域に根ざした職人や工務店が木造施設をつくることの意味や、そこから生まれる地域の循環についてお話を伺いました。
中規模木造施設を地域の工務店で
保育園や幼稚園、学校から地域密着型の老人施設など、いろいろな中小規模の木造施設があります。最近では、地域の中小規模施設の施工は、その地域に根ざした工務店にやってもらいたい、と考える建築家も増えてきているように思います。
規格材の組み合わせでダイナミックな空間をつくることは、まさに地域工務店だからこそできる技術ですし、今後そういった事例がたくさん増えていったら良いですね。
その土地の伝統的な大工技術
地域で建物をつくるときに、その地域の財産を活かそうという働きがありますよね。その財産というのは「木材」のことだけを指すのではなく、「伝統的な技術を継承している大工」がいるということがとても大事なんです。
大工の技量って、かっこよく言えば哲学というか、日本の木造をずっと洗練させてきた歴史みたいなものがありますよね。それが、金物工法が出てきたときに、需要が落ち込んだことがありました。なぜかというと、木材はコンクリートや鉄に比べると、きちんとした耐震シュミレーションをすることが相当難しいものだったからです。検証ができないから、筋交いを入れて金物でしっかりと固めるしかなかったんです。
その後、コンピューターによる解析能力が高くなってきて、今から20年前に竣工している「いわむらかずお絵本の丘美術館(栃木県)」で、稲山さん(東京大学大学院 木質材料学研究室 教授)が、地震の時の木材のめり込みを計算するということをはじめたんですよ。そこで、大工の技術の検証ができるようになったんです。これにより、大工がやってきたことが「これでいいんじゃないか」とか、「こう工夫すればいいんじゃないか」というように、みんなが改めて“大工が木造でつくること”について興味を持つようになりました。「いわむらかずお絵本の丘美術館」は、そんなひとつの歴史的な建物だと思います。
そのあとは、木造の構造計算もできるようになったり、いろんな人が木造に取り組めるようになりました。
文化としての豊かさ
大工ってアスリート兼伝統知識継承者のようなところがあると思うんです。大きな現場ほど俊敏じゃないと務まらなかったり、伝統的な合理や大工としての知識が充実している人。プレカットが流通しているなかで、そういう経験をしている大工がいるということはすごく大事です。
たとえば、500㎡や1,000㎡の木造で、伝統と相性の良い合理的にシュミレーションされた構造設計ができる人がいて、それが大工に手渡されれば、基本的には大昔から伝統としてずっとやってきたことの延長でありながら新しい挑戦ができる。これは大工として大変喜びながらできる仕事ですし、きちんと残っていくものになると思うんです。それがないと「プレカットや金物工法でいいじゃない」と、せっかく長い合理や美学を追求してきた技術がなくなってしまうのは、もったいないですよね。
もちろんプレカットがあったから残せた軸組工法もあります。文化としての豊かさを大切にしていくためには、両方なくてはならないことなんです。
取材日:2017年4月25日 聞き手:迎川 利夫・吉川 碧 撮影:伊藤 夕歩