インタビュー
だだ商店 | 中村好文氏 太田久人氏 柴修一郎氏による三者対談
地域風土に根付く建築が持続可能であるために
施設名:だだ商店・だだ食堂(茨城県つくば市)
話し手:建築家 中村好文氏・ヴィナイオータ 太田久人氏・株式会社柴木材店 柴修一郎氏
設 計:LEMMING HOUSE
施 工:株式会社 柴 木材店
「日常の中に小さなスペシャルを」をモットーにナチュラルワインを中心に造り手の顔が見えるプロダクトを紹介するだだ商店が住宅地の中にそっとオープンしました。設計を手掛けられたのは建築家中村好文氏。地域に馴染み、時間と共に育っていく数多くの建築を設計してこられた中村氏とインポーターとして「唯一無二の美しさを表現する」ナチュラルワインを紹介する太田氏、施工を手掛けた地域工務店の柴木材店柴氏のインタビュー記事になります。ものづくり、地域、日常の豊かさ、自然との向き合い方、サスティナブルであること、コロナ禍にあって改めてライフスタイルに目を向けた我々に様々なメッセージを投げかけていただいています。
地域に根付く建築を地域の人と材で建てる
太田さん:建物ができた後で小さな不具合が起きた時にすぐ相談したら対応してくださる地域工務店の存在はすごく大事です。これだけ大きな箱をつくるには大工さんの仕事もあれば左官屋さんの仕事、給排水関係の仕事、いろいろあって当然一個人が全部に対して見識を持つことなんて難しいです。工務店さんというのはディレクターみたいものですよね。ひととおりのパイプがあってこちらが困ったときに対応してくださるということはすごく助かりますよね。
中村さん:地域工務店はかかりつけの医者みたいなものですよね。大病院に行くんじゃなくて、かかりつけの医者に行くみたいに付き合える関係。
柴さん:そう言われるとありがたいです。我々地域工務店は地域に根差す企業なのでやはり地域守りをするというところが使命だと思っているんですよね。私で3代目になるので先代、先々代が建ててきた家について家守り、地域守りをしっかりすることに加えて店舗も家と一緒で自分たちが建てさせてもらった建物に対して建てた後にケアしていくことに使命感を感じています。どんなに完璧につくったと思っても何かしら使ってみてから違和感があったり、不具合があったりということがどうしてもつきものです。そこに対していかに迅速にしっかりケアできるかということに役割を感じています。建物はつくりっぱなしで成立するものではなくて、良いものでも手を加えていかないとだめにしてしまうということがあります。そういった意味でクライアントの太田さんから先ほどの言葉をいただけた、評価いただけていることはすごく嬉しいです。
太田さん:僕自身、スクラップアンドビルドされるような建物ではなく、やはり時間とともに味みたいなものがでる建物を理想としています。つまり数年後に壊れてもいいやっていう建物ではないわけですから、建築後にメンテナンスもお願いしやすい関係性があるということは当然大事です。自然素材でつくった建物は、時間とともに見せる表情に味が出るのが魅力だという話を中村さんがされていて、その部分に惹かれて設計をお願いしたというのがあります。一方でそういった建物であればあるほど手入れが必須になります。その意味で、竣工後のメンテナンスも含めて施工を地域で信頼のおける工務店さんにお願いするということが大事なことだなと思います。
木の利用と技術の継承の今
太田さん:自然に対してできるだけ恐怖心を感じないようにするために、僕たち人間は技術革新を進めていた気がするんですよね。自然を恐れなくて済むためにいろいろな開発、例えば防波堤のようなものなどをつくっているわけですけれども、それこそ10年前の震災で残念ながら自然の力、猛威は人間の遥か上を行くものだということを痛感しましたよね。僕からしてみると自然に抗おうとしても全然勝てる相手じゃないです。家ってセーフハウスと言われたりしますけれども、雨宿りできたり、昔だったら野生動物から身を守るためのものであったり、ほんの少ししかない熱を逃がさないものとして人は家をつくったと思うんですよね。皆さん家に求めるものは安心、安全がありますが、僕が最初に建てた家では多くの人にとっては絶対あってはいけないということが事件のように起こるんです。それこそ梁と梁の間から横風とともに台風の雨水が浸水してくることがあります。その時にすごい不便だなぁと思う反面、生かされているんだなぁということに気づかされます。あくまで人は自然のメンバーの一員であって自然から離れたところにいられるわけではない、自然の循環の中のひとつのパートを担っているに過ぎないということを僕は感じています。つまり謙虚であることを知るということです。人間が全能ではないということを教えてくれるのはやはり自然だと思います。自然の風景の中に溶け込むということ、自然と同化できる精神を持つという事はすごく大切なことのような気がしています。中村さんが建物自体は「普通に良いのが良い」というようにおっしゃっていましたけれどもほんとにそこだと思うんですよね。良い意味で我のない建物であったり、自然や環境と調和、同化するということであったりすることだと思います。そこで過ごす人たちの居心地の良さについて考えた時に、日本の風土でなぜ木造かというと高温多湿だからある程度吸湿性のある素材でつくるなどの理由があったから根付いているのだと思います。
中村さん:自然素材はどれも風合いが良いですが、1番量を多く使うのは木材だと思いますね。皮だって土だって自然素材はみんな良いかもしれないけれどもそんなには使わないですからね。建築素材としては一番量が多いですよね。この現場だって天井を貼る前はすごかった。木造としての架構が。担当の古澤くんとこの架構が見えなくなるのはおしいねと話したくらい、多くの人に見せたい位のすごい材木の量でした。木造らしい木造ができたなぁという気がしました。それともう一つは職人の問題がありますよね。職人が良くないとダメ。いくら良い地場材があったとしてもそれを生かせる大工技術というのが廃れていくと意味がないと思いますね。建築は大工さんたちがいないと成立しないので。
太田さん:一つ一つのものづくりの仕事を評価できる社会がないと。建築をつくる上でひとつのパートが抜けても成立しないしなくなるわけですよね。
中村さん:そういう技術の継承の部分には危機感を感じています。積極的に大工になろうという若い人が少ないですよね。ここも木の枠がたくさんありますが、建具屋さんも大工さんもいなければできない仕事だったから、まずつくれるかっていうところを見るんですよね。それが先々までできるか。今、付き合ってる東京の工務店は良い大工さんだなぁと思っても、もう年齢が上がってきたり、建具屋さんが80歳近くになってきて引退せざるをえなかったり、次の代がいないからすごく困っちゃいます。僕が柴さんや工務店さんに求めるのは職人の育成に力を入れてやっていってほしいということです。
柴さん:うちの仕事に興味があって、何かたたかせてもらえないかと逆に大工さんからオファーをいただくことが増えてきているんですよね。
中村さん:それはいいことですね。とくに若い世代からそういう声が上がって欲しいなと思います。若い職人たちに木造建築の面白さ、つくることの面白さ、出来上がったときの達成感をちゃんと味わってもらわないとダメだなぁとつくづく思っています。
太田さん:お仕事としての意義もですが、僕はその意義だけじゃなくていろんな意味で、報いみたいなことをそういう方々が感じられるような社会になればいいなと思いますよね。
中村さん:それがね、山登りと一緒で最初は辛い登りをしないと良い眺めの場所にたどり着けないんだよね。努力したり、苦労したりしないと結果が得られないというあたり前のことを分かってもらいたいと思うな。
太田さん:一度その景色を見てしまったらやめられないかもしれませんよね。違う山はもっと違う風景かもしれないと。
柴さん:一旦見た、見てみたいと思っている大工さんたちがうちの仕事に興味をもってオファーしてくれて面白いと感じてもらえていることは嬉しく思います。15年位前から中村先生とお付き合いさせていただいていますが、随分いろいろな経験を積ませていただいて培われたものも反映されているかなと感じます。ただ逆に腕を生かせる仕事が世の中的にだいぶ減ってきているという事の現れかもしれないですけれどもね。
中村さん:減っていますよね、明らかに。だからこそこういう仕事をきちんとしていかなきゃいけないと思いますね。
取材・編集:木造施設協議会
写真:奥山 晴日(一部人物と詳細撮影は木造施設協議会)