オピニオン
学び高め合う、地域に根差すものづくり(1)
地域で協力してつくる、難しくて楽しい木造
話し手:山辺豊彦氏(山辺構造設計事務所)
今回は構造設計家、山辺豊彦氏のインタビューです。1993年から丹呉明恭氏と木構造の勉強会を行い、伝統的な木造の構法を力学的解析により再検証することを取り組まれています。大工さんたちが用いている継手、仕口、耐力壁、水平構面などの構造実験を行い、その特性を解明したうえで実際の設計法に反映して耐震性を評価する研究を続けられておられます。素材としての木を知り、伝統的な大工技術を工学的に見直し、ものづくりを実践している数少ないベテラン構造家のお一人です。
地域で協力してつくる、難しくて楽しい木造
木造施設協議会では地域工務店のネットワークをつくり、資源共有や情報交換、将来的には職人さんの融通できるようなネットワークづくり、そして林業者との連携を目指しています。地域のつながりの中でできる地域のための木造施設について、ほかの構造と比較したときの木造の位置づけについて難しさと面白さを語ってくださいました。
山辺:
“木造は(地域への関連を持たないといけないという意味で)山側への配慮も持たないといけない、地域への配慮を持たないといけない。木造って、難しいのはそういうところだよね。コンクリートや鉄骨は全国一律の基準で良いですが、木造もそれに倣って全国一律の基準ができちゃった……。ところが木材は生物材料で地域性があるわけです。気候も、材料もそう。地域によっても、うちはヒノキがとれる、スギがとれる、カラマツがとれる、とバラバラでしょ。そうなると設計者をはじめとしたつくり手は、木の性質をよく知らないといけない。木を伐りだす時期、乾燥の問題など、それらをよく理解していなければならない。地域性を分かった上で設計できる人となるとなお少なくなる。一方でそういう地域性を配慮してつくっていくことが木造の楽しみでもあり、難しいところなんだ。地域の人達と協力しあわなくちゃいいものはできないと思います。”
地域に根差しているからできる設計
住宅を建てようとするとき、お客さまからすると「誰に頼むか」という判断が難しく、良い設計者に頼めても良い工務店に頼めるとは限らない。また、その逆もある。仕方ないからできあいのハウスメーカーの住宅を買おう……という発想になるのではないか、と山辺氏は指摘します。一般の人々にとって、「安全・安心」というイメージは、ハウスメーカーに対して地域工務店は弱いと感じる人も少なからずいます。ハウスメーカーに対して、地域工務店や地域の設計者が勝てるものは何なのでしょうか。山辺氏にお聞きしました。
山辺:
“木造の軸組というのは設計者の個性がでてくるものだから、しっかり軸組計画をたてて、メーカーとは違う個性豊かなものができあがるところが差別化する最も良いことなんじゃないかと思います。それに合致したアイデアが木造ドミノ住宅。軸組構造の質を落とさずにコストをおさえる方法がドミノでは実現できている。
構造の大切な部分は全然落としていない、きれいな軸組を組めているんですよ。それでいて比較的コストが抑えられているというのは、つくり方や生産性の部分で配慮されているからなんです。“
合理的に整理された軸組と、建設段階を考えた計画により、質を保ちつつコストを抑えることに成功した木造ドミノ住宅。そして木造ドミノ構法は、八王子の大学セミナーハウスの食堂棟の建設時にも採用されました。山の傾斜地での建設で基礎工事が大変だったけれども、上部構造は整理された木造軸組により、大工さんが住宅建築の延長上でできたといわれます。
構造にも仕上げにもなる木、こんな優れた材料はない
無垢材の架構によるダイナミックな空間を設計すれば、木は構造にも仕上げにもなりこんなに良い材料はないと言われます。
山辺:
“木造でつくった学校や幼稚園を見学した人が「ダイナミックな架構で良いな」と感じてくれる。木という素材の一番良いところは、木材をそのまま見せても許容してもらえるところ。コンクリートや鉄骨だと邪魔に思われる。木が有利なのは、仕上げ材であり構造材でもあるということです。こんな材料は他にはない。見せることによって感激してもらえるんだもん、その差は大きい。”
(つづく)
取材日:2017年5月9日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩