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学び高め合う、地域に根差すものづくり(4)
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学び高め合う、地域に根差すものづくり(4)

古い木造建築の活用への目線

学び高め合う、地域に根差すものづくり(4)

話し手:山辺豊彦氏(山辺構造設計事務所)

学び高め合う、地域に根差すものづくり(4)

耐震改修の難しさ

山辺氏は重要文化財や古い建物の改修設計も多数手がけられています。ここで古い建物について構造からみた耐震改修の方向性について伺いました。


山辺:
“一番難しいのは、躯体を丸裸にしてもよいという工事費が出るのなら良いのですが、工費が大変だからと言って、部分解体のようなことをやってしまうと中途半端に陥りかねない。腐っている部材にしても「柱脚などのメイン躯体にあったら取り換えないと絶対にまずいのですが、間柱なら許せる」という風に主体構造なのかサブなのかを見極めることが大切なのです。耐震改修は、建物に対してこの部材がどういう役割を持っているのか見極められる人がいないと非常に難しいと思います。例えば重要文化財の場合、設計の前に、建物の調査に入るのですが、調査に入る人も木造建物をよく知っている人でないといけない。部材の断面、樹種はもちろん、一番重要なのはジョイントの位置など、野帳に書いてもらわないと既存建物の耐震化が難しいと思う。「正田醤油」の改修では柱と梁のみにしてジャッキアップして補強した。あのくらいしっかり補強しないといけない。”

正田醤油の本社屋改修現場にて。柱と梁のみとなり、建物の骨格が現れた様子は圧巻。

正田醤油の本社屋改修現場にて。柱と梁のみとなり、建物の骨格が現れた様子は圧巻。

正田醤油本社の改修工事の様子

正田醤油本社の改修工事の様子

構造の様子を確認しながら、柱と梁をジャッキアップして補強が進められた。

構造の様子を確認しながら、柱と梁をジャッキアップして補強が進められた。

大改修を終えてふたたび命を吹き込まれた正田醤油本社

大改修を終えてふたたび命を吹き込まれた正田醤油本社

竣工時の内観。木造と鉄の螺旋階段という素材のコントラストが美しい。

竣工時の内観。木造と鉄の螺旋階段という素材のコントラストが美しい。

完全な「耐震改修」となると構造躯体を丸裸にして、適切に調査したうえで改修し復興することはあり得るとのことですが、現実的には一般の建物ではそれほどの工事費と大規模な工事を行えないことがほとんどです。一般の建物に対する現実的な対処としては完璧にできなくても最も効果的なところだけ補強するという考えも、ひとつの補強の可能性といえるでしょう。それでは、どのように考えて改修設計を行えばよいでしょうか。チェックするのは2点。1地盤を調べる、2上部構造体の特徴を読み、その上でゾーニング、ゾーンごとの壁量を担保する、ねじれを防ぐ補強を行うのがセオリーだそうです。


山辺:
“まず地盤の状況が1種から3種のうちどの地盤にあたるのか。1種地盤(良質地盤)だと気分的に少し楽になります。次に例えば一部2階で平屋だとか上部構造体がどのような特徴があるのか。特徴を読んだ上でゾーニングします。木造はRCと違って床がやわらかいので、ゾーンごとに耐力壁が足りているようにする。2階建て部分はその範囲で耐力壁が足りているようにする。それが一番素直に考えるやり方です。邪魔にならない遠くの方で補強して、というわけにいかない。もし遠くの方で耐力壁を設けると、床をはぐって床も補強しないといけない。また、コストが厳しいときは最も不安なところだけ直すというやり方もある。意匠と構造と話し合って見極めることが非常に重要。今のまま放置したらIw=1に対して0.3だったのを0.5にするのもひとつの耐震補強といえます。説明して納得してもらえるように、お金との関係もあるわけだから。”

住宅の改修現場、軸組確認の様子

住宅の改修現場、軸組確認の様子

既存の軸組に対して補強の方向性をスケッチ

既存の軸組に対して補強の方向性をスケッチ

効果的に数字を扱い根拠をもつ

耐震診断においても他分野と同様、ソフトで簡単に診断できるが、山辺氏は注意喚起されます。


山辺:
“耐震診断でもソフトがあるが、当てずっぽうに入れてはだめ。力の流れをよく考えて、実体を反映するようにしなくてはいけない。ソフトを使うとそういう基本的なことが抜けてしまうから注意しないといけない。耐震診断こそよく考えなさい。まっ先に抑えるべきは建物のねじれ。地震発生時にきれいに揺れてれば何とか持ちこたえる可能性があるけどねじれたら倒れてしまうから。だから建物全体のねじれを抑えないといけない。そこだけ防ぐというのでもだいぶ違う。限られたお金であれば一番重要なところを抑えなきゃ。勘所を設計者がお客さまとお互い共有しないといけない。”

プログラムを用いたこれからの検証を探る

木造軸組構法住宅を対象とする数値解析ソフトウェア、wallstat(Ⅷ)が話題となっています。 wallstatの検証に山辺構造設計事務所は協力しており、今後、定期的にプログラムを使った検証を進めていく方針だそうです。実験は費用面でも手間の面でも毎度行うことは難しいがプログラムを用いた検証は行えます。しかし一方で、プログラムを使う際の注意点もあると山辺氏は指摘します。


山辺:
“プログラムは一見すると簡単そうですぐ使えると思ってしまうが、高度な知識がないと本当は扱えないものであることに注意しないといけないと思います。一つひとつの数値に意味があるから、理解して入力しないと。何となく当てずっぽうに入れると、できたが全然違うものになる、もちろん、パソコンはみな一緒だけども。その辺りは怖いよね、逆に。ヤング係数Eの意味もわからない、せん断剛性Gの意味もわからないとかね、そういう人がなんとなく「入れてしまえ」と理解しないで入れた値が実はとんでもない値なんだけれども、なんとなくできた気になってしまう。それ怖いよね、お客さんに対して一種の耐震偽装になりますので、ちゃんと入力時の数値を理解して入力しないといけないと思います。”


(つづく)

数値解析ソフトウェア「wallstat」の開発者である国土交通省の中川貴史氏による講演の様子。プログラム内で構造を建ち上げた上で、地震時のゆれに対して構造がどう変化するのかを動画でシミュレーションできる。

数値解析ソフトウェア「wallstat」の開発者である国土交通省の中川貴史氏による講演の様子。プログラム内で構造を建ち上げた上で、地震時のゆれに対して構造がどう変化するのかを動画でシミュレーションできる。

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[ 注  釈 ]

Ⅷ 近年の大地震による既存木造住宅の甚大な被害により、木造住宅の耐震性能があらためて注目されるようになりました。 研究分野においては、振動台を用いた実大実験や数値解析が数多く実施され、地震時の木造住宅の挙動に関する多くの知見が得られています。 建築研究所・国土技術政策総合研究所ではこれらの知見を活用し、木造軸組構法住宅の建物全体の大地震時の 損傷状況や倒壊過程をシミュレートする数値解析プログラムの開発を行いました。 木造住宅の倒壊挙動を再現するには、柱の折損・部材の飛散といった連続体がバラバラになっていく現象を考慮する必要があり、 従来の解析手法では困難とされて来ましたが、個別要素法という非連続体解析法(バラバラな物体の挙動を計算する手法)を基本理論とした オリジナルの解析手法により、それが可能となりました。解析対象の木造住宅が連続体である内は、従来の解析手法と同様に応答解析を行いますが、 建物が一部破壊し、さらに倒壊しても計算を続行することができるのが本解析手法の特徴です。 数多くの解析的検討と実験との比較からプログラムの改良を行い、実大の木造住宅の振動台実験における倒壊に至るまでの挙動に対して、 精度の高い解析を行うことができるようになりました。wallstatはその研究成果を、木質構造を専門とする研究者・技術者の方々が使えるように改良したソフトウェアです。 wallstatを使えば、パソコン上で木造住宅の数値解析モデルを作成し、振動台実験のように地震動を与え、 最先端の計算理論に基づいたシミュレーションを行うことで、変形の大きさ、損傷状況、倒壊の有無を視覚的に確認することが可能となります。 (http://www.nilim.go.jp/lab/idg/nakagawa/wallstat.html より抜粋)

取材日:2017年5月9日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩

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