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木でつくる子供の環境(3)
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木でつくる子供の環境(3)

地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin東京 でのご講演より

木でつくる子供の環境(3)

話し手:袴田喜夫建築設計室代表 袴田喜夫

木でつくる子供の環境(3)

第3回では第2回に引き続き、事例紹介をしていただきながら、地域の文脈の中で配置計画やプランニングだけでなく、薪ストーブ、太陽熱を利用するOMソーラーシステム、蓄熱の試みなど熱のコントロールについてもお話いただきました。

暖房に太陽熱を活かし、お庭に生き物を呼び込む

ここからはこれまでに手がけた木造保育園の事例紹介をしたいと思います。相模原・風の丘保育園です。OMソーラーシステム、薪ストーブを装備した最初の保育園です。相模原の古い団地の一角です。最近は団地がブームで、団地の豊かな緑がいいんじゃないかという話がだいぶ出てきました。南側が道路で北に団地を背負っている保育園です。南側に道路があって北側に団地があったら北側に園舎を並べるのが普通で、それを南側に園舎を並べるとはと見学に来られた先生に言われました。でも、落ち着く環境をつくるにはそうではないと思いました。

園庭はこんな感じです。とにかく園庭で子供たちが落ち着いて1人遊び、2人遊び、3人遊び、グループ遊びができるような園庭を考えました。これは竣工当時がこんな感じですけれども今はもっと自然のビオトープのような感じで面白い園庭になっています。

南側道路に寄せて配置した園舎

南側道路に寄せて配置した園舎

園庭

園庭

玄関に入って事務室、カーペットのエントランスホールがあって厨房があって食堂があってここの保育園は演劇をやるので三方が舞台になったホールがあります。幼児の部屋、乳児の部屋です。東と南の太陽をうける勾配のきつい集熱屋根があります。エントランスホールです。薪ストーブを最初に装備しました。

平面図

平面図

OMソーラーの集熱屋根です。軒先から外気が入り、屋根の下の通気層の隙間を上がっていき、ガラスの部分でぐっと温度が上がって、その熱い外気をファンで床下に吹き込むという仕組みです。ファンは太陽電池パネルで動かすのでこのシステムは電気を使わない、太陽が出ていればエネルギー0で暖房ができているということになります。

集熱屋根 手前の太陽電池による発電により太陽熱集熱システムを自立運転

集熱屋根 手前の太陽電池による発電により太陽熱集熱システムを自立運転

玄関ホールにある薪ストーブ

玄関ホールにある薪ストーブ

庭を見るとこんな感じですね。最近はビオトープのようなものがいつの間にかできていて楽しい場所になっています。子供たちがご飯を食べるランチルームです。テラスがあって緑があって東から西に風が抜ける場所です。

ランチルーム

ランチルーム

テラスから庭を見る

テラスから庭を見る

熱を蓄える試み

風の丘保育園をご覧になった先生から設計を依頼された川越の下田保育園小ヶ谷の里です。

同じようにOMソーラーシステムを入れて薪ストーブ、コンクリートブロック蓄熱をやってみました。木は割とポーラスな材料ですから木造は蓄熱量が少ない点が弱点です。鉄筋コンクリートでは十分な蓄熱ができますが、木造でも蓄熱できるようにできないか考えましてコンクリートブロックの壁をつくりました。木造軸組の外側にコンクリートブロックを立てて外断熱で包んで蓄熱量を増やそうという試みです。

蓄熱のためのコンクリートブロックの壁

蓄熱のためのコンクリートブロックの壁

敷地は東武東上線で池袋から川越駅を過ぎて入間川の鉄橋を渡る手前にあります。田んぼを宅地に変えて作りました。ここは土手を園庭に使わせてもらうような素敵な環境です。事務室があってホールがあり、ストーブのスペースがあって、和室があって縁側があってお母さんが迎えに来るのを子供たちが待つという感じですね。園庭を2つに分けて0歳児の庭ができたのが良かったと思います。

土手と園庭を使える環境

土手と園庭を使える環境

外観 土手から見下ろす

外観 土手から見下ろす

まつぼっくり保育園です。今日見ていただきましたがプランはこんな感じです。0歳〜2歳児の保育室は床下の暖房冷房です。ホールはOMソーラーと天井内のエアコンが入っていて、幼児の保育室は床置きエアコンと壁掛けエアコンというふうに考え方を変えて作りました。

エントランスホール

エントランスホール

OMソーラーの立下りダクト

OMソーラーの立下りダクト

ランチルーム

ランチルーム

大きな木を見上げる小さな増築

これは最後になります、むくどり第二保育園の増築です。適材適所で鉄筋コンクリート造の方が良い場合もあるという話をしましたが、これは鉄筋コンクリート造と鉄骨造と木造を3つ使ってつくった小さな延長保育室の増築です。ここではシンプルな床下利用空調換気を工夫しました。35年ほど経った本園舎は僕の設計ではありませんが内装改修の設計は半分ぐらい僕がやらせてもらいました。

子供たちを最後に預かる延長保育室は本園舎の中にありましたが、子供たちが区切りがつかないということで門の近くに延長保育室を作ってくれないかということです。ですから子供たちが(延長保育室に)入ってしまうとあとは帰るだけという仕組みです。ここで1つポイントはものすごく立派なケヤキの木が門の近くにあります。駐車場があって、ケヤキがあるのでここに作るしかないんです。

ここでケヤキとの関係が設計者に与えられたテーマだなと思いました。

このようなものを作りました。本当にシンプルな小さな保育室です。ケヤキの木があってその真下に小さな保育室があり、新しくつくった門でここから子供たちが向こうに登園していくという形です。断面はこんな形です。先ほど混構造と言いましたけれども、道路と園庭にレベル差がついていますから、この辺(レベルを解消するあたり)まではコンクリートで作らなければいけない。また増築する延長保育室は門の横にできる建物ですから保育園の顔にならなければいけないと考えました。
立ち上がりはコンクリートで、大きな窓は鉄骨で支えて屋根の構造は木造です。ケヤキの木を下から見上げるトップライトをつくりました。小さな部屋ですけれども子供にはそこそこ大きな空間です。子供たちがよりどころとするような柱があって、それが支えるトップライトがあるという計画です。

ケヤキの下の下の延長保育室

ケヤキの下の下の延長保育室

内観(撮影:susumu KOSHIMIZU)

内観(撮影:susumu KOSHIMIZU)

園庭に面しているので、この窓は思い切り開けたかった。ここに屋根を支える木の柱やコンクリートがあると邪魔なので細い鉄骨の柱で、後は全部ガラスの窓にしています。巨大なケヤキを見上げるトップライトは夜はこんな感じで光の泡のようになります。

内部です。空調は床置きのエアコンを使っています。実は二台置いてありまして、暖房用と冷房用に分けて使います。これが暖房用の床置きエアコンです。手前には冷房用がもう一台があります。全く同じエアコンですが何が違うかというと、暖房用のものは床下のレベルに置いていて床下空間に吹き込み、冷房用は上に吹き出すという違いです。とにかく小さい建物で、常時使うわけではないのでなるべく簡潔な冷暖房したほうがいいというふうに考えました。

夜の様子

夜の様子

ケヤキを見上げるトップライト(撮影:susumu KOSHIMIZU)

ケヤキを見上げるトップライト(撮影:susumu KOSHIMIZU)

これが保育園の顔に考えた外壁です。

コンクリート壁の外側を網で囲んで石を入れました。土木で使うようなフトンカゴという工法に似た考え方です。ハツユキカズラという春になると白とピンクの葉っぱが出てくるすごくきれいなカズラを植えて、広がって緑の壁になります。ちょっと変わった感じで好評をいただいています。門の周りです。お母さんが出入りをする部分に鉄板の庇をかけました。

以上です。ありがとうございました。

フトンカゴを使った外壁(撮影:susumu KOSHIMIZU)

フトンカゴを使った外壁(撮影:susumu KOSHIMIZU)

会場・協力:まつぼっくり保育園(運営:社会福祉法人 松栄福祉会)

写真:袴田喜夫建築設計室提供

文責:木造施設協議会事務局

木造施設協議会について