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木でつくる子供の環境(4)
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木でつくる子供の環境(4)

地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin東京 での 質疑部分

木でつくる子供の環境(4)

話し手:袴田喜夫建築設計室代表 袴田喜夫、常葉大学保育学部 講師 村上 博文、まつぼっくり保育園 橋本美佐子園長、袴田喜夫建築設計室 元所員 龍治優吾

木でつくる子供の環境(4)

<質疑部分>
第4回はセミナー最後の質疑部分の収録です。樹種の選定、環境、木造施設における地域工務店さんの入札の難しさ、研究者とのコラボレーションの可能性といった多岐にわたる内容となっています。ぜひご一読ください。

Q:まつぼっくり保育園で使われている材料や樹種について教えてください。

A(袴田):腰板は青森ヒバを使っています。特殊な木で日本の中で唯一国有林にしかない樹種です。青森の営林署が計画伐採をして、成長より少ない量の伐採量に抑えながら管理をしている木です。おおざっぱな特徴を言うととても油分が多く、ヒノキチオールの含有量が一番多い樹種でとても良い匂いがします。
木目は優しくて色も綺麗で柔らかいけれどもとても良い木だと僕は思います。青森ヒバの材木屋さんと30年来の付き合いがあり、ずっと使っています。
腰板の他に0歳児室の床板にもよく使います。柔らかいのでもちろんデメリットもありますが、それを上回るメリットがあってとても喜ばれています。嘘か本当かわからないけれども、インフルエンザの罹患数が圧倒的に減るとか。「うちの園ではインフルエンザがないんだよ。」と園長先生から直接聞いたことがあります。もともと結構あばれる木なので建築材料としては敬遠されるのですが、大径木がとれるので青森ではお寺にもよく使います。東京の地下鉄の枕木が最初は青森ヒバだったそうですね。それぐらい腐らない。
他は埼玉の木を使っています。あとは外材も部分的に使っています。まつぼっくり保育園は施工は相羽建設です。防蟻にはホウ酸を使っています。

腰板は青森ヒバ

腰板は青森ヒバ

Q:木の床で、子供たちの様子や雰囲気について、また傷など使う側で心配なことはありますか?

A(まつぼっくり保育園橋本園長):0~5歳までみんな裸足です。こんな寒い時期でもね。
冷たいということもありませんね。家具を運ぶ時も最初は床の傷に気を遣っていたんですが、3年目になるとそんなことも言っていられないので気にせず使っています。木は傷がついてもだんだん味になっていく、そんな感じです。

A(袴田):メラミン化粧板でできている床材というのがあるんです。表面がメラミン化粧板で凸凹がつくってあって木に見せているんですけれども、ぱっと見わからないんです。でもね、触ると冷たいんです。ほんとに売れているってメーカーの営業マンが言うんですけれども使いたくありません。
柔らかい青森ヒバを床に使うと場所によっては結構傷みます。一度、ホールに使ってしまったことがあってその時はだめでした。ここの0歳児の床は青森ヒバですが、良いと思います。年齢に応じて材料を使い分けをして先生とご相談しながら樹種の選定をしています。また明るい色が嫌で茶色い木が良いと言われる先生もいらっしゃいます。その場合は。塗料で塗ると剥がれてしまうので、木の種類を選んで、色の濃い木やだんだん色が濃くなってくる木を選択しています。

2016年11月撮影 裸足の子どもたち

2016年11月撮影 裸足の子どもたち

Q:子供さんが前のコンクリートの園舎と現在の木造の園舎との違いで動きが変わったかということを教えてください。

A(まつぼっくり保育園橋本園長):子供たちは木があたたかくて快適に過ごしてるとクラスの先生たちも感じますし、私も見て感じます。ただ快適なのに慣れてしまうので、反応が良いのはたまに訪れる保護者の方や、地域の方です。初めてここを訪れた親子連れのお母さん方から「わーあったかいですねー。」とか「木はいいですねぇ。」とかよく言われます。先程も地域の施設というお話がありました。まさしくそんな感じでベビーマッサージをして地域の親御さんをお呼びした時や、育児相談や一時保育で不定期に利用される保護者さんが居心地良いということを感じられるようです。

Q: 木造の難しさを教えてください。

A(袴田):木造は難しくて面白いです。鉄筋コンクリートの方が簡単です。作りたい形の図面を書けばそのまま出来ますから。木造の方が力の流れの理解が難しくて、逆にそれが面白い。日本には大工さんという世界に誇れる技術集団がいて、その優れた大工技術が普通に使えます。木造は大工さんと協力してやることが楽しいし、面白いし、僕たちが知らないことを大工さんが知っていて勉強にもなります。
発注で難しいことがあります。木造住宅では問題になりませんが、例えば、保育園、幼稚園、病院を木造で作るにはつくり手を選ぶことがとても大事です。保育園の場合補助金が入るので入札をしなければならないのです。入札は公共事業に準じて行いますから当然建設会社はある一定の規模以上である必要がある、その基準は経審という建設会社の経営状態だけを表す数字が〇〇点以上という判断をする。そうすると本当に良い大工さんを抱えている建設会社はそういう基準を越えられない。どういうことが起きるかというと例えばゼネコンが受注するわけですけれども、もともとゼネコンは職人を抱えておらず全部外注ですから、建設会社の下には〇〇土木や〇〇木工事や〇〇タイルとか全部下請けが入ります。大工さんも下請けになるんです。要するに、木工事のできる建設会社っていうのは少し小さな建設会社で、そういうところに保育園のような準公共工事を直接頼める仕組みは今のところ無いのです。そこが木造保育園をつくるときに難しいところで、今回の主催をしている木造施設協議会に期待をしています。木造のできる中小工務店、いわゆる工務店と言われるレベルのようなところが木造施設を受注できるように変えて行きたいと思います。

ランチルーム小上がりの框 大工さんが提案し施工した継手

ランチルーム小上がりの框 大工さんが提案し施工した継手

Q:タイムスケジュールを教えていただけますか。OMソーラーを採用しようと思ったタイミングも教えてください。

A(龍治):まつぼっくり保育園はもともと市立保育園を民間で引き継いだというところから始まっています。当初は鉄筋コンクリートの園舎で保育をされていたんですけれども、民営に変わる際に3年以内に建て替えることが市からの条件でした。それで先生方が設計事務所を探されていて、ある勉強会で袴田が講演をしまして、園長先生から声掛けをいただいて建て替えのお話をいただきました。スケジュールとしては2カ年計画の事業としては25年度、26年度で実施しています。単年度事業だと非常に厳しいスケジュールで設計期間はほとんどない、工事期間もほとんどないということで補正予算を組んでいただいて、2ヵ年事業で進めました。設計期間としては基本設計3ヶ月、実施設計4ヶ月かかっていると思います。工事としては解体もあり、仮設園舎もつくったので9ヶ月かかりました。
OMソーラーには袴田の話を聞いていただいた時から興味をお持ちでした。敷地も南向きで東西に長いので好条件です。先生と最初からほぼ思いを共有できていました。

Q:空調の違いは感じますか?

A(まつぼっくり保育園橋本園長):お日様があるときは20何度で快適で、朝入ってきたときにあたたかい感じです。
乳児棟はOMソーラーシステムのダクトに近い、2歳児の部屋はあたたかいです。本当は0歳児室がホワッとあたたかいのが良いですがなかなかできなくて、外気と室内の温度差はなくて子供にいいのかなと思ったりしつつ、それでも子供たちは元気に過ごしていて今年、とても寒かったですが0歳児クラスはインフルエンザがでませんでした。寒いときは立ち上がり時にエネルギーがかかるのでエアコンはつけっぱなしがよいと袴田先生に教えていただいて、幼児棟の一番端の3歳児の部屋をつけたままにしています。ドアがないので通路でつながり、朝のひやっとした感じがなく、寒くはないです。夜は20時過ぎまで会議でいますが寒くもなく、暑くもないです。温度にストレスを感じたことはないです。
今はOMソーラーのタッチパネルでは室内25℃、外気14℃、取り入れ30℃です。2時間前は屋根の棟温度が50℃でした。冬は最高で棟温度が60℃になります。曇り、雪の日はエアコンを活用しています。(2018年2月24日 16:00現在)

OMソーラーで集熱した暖かい空気を体感するセミナー参加者

OMソーラーで集熱した暖かい空気を体感するセミナー参加者

Q(袴田):保育の研究者と設計事務所のコラボの難しさについて、その可能性や研究者側の思いを聞かせてください。

A(村上):(子供と環境の)可能性があって子ども環境学会というものがつくられたと思うんですね。設立当初は保育関係、教育関係の方も入っていますが、だんだん建築関係の方が多くなって、投稿されるものも建築関係が多くなっています。学会の論文を読んでも数字が多く、専門的すぎて僕たちもわからないようなところがあります。

あとは実際、(保育と建築のコラボは)あるようでないですね。僕が誘っていただいて子供環境づくり辞典(https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787233653/)というのを日本建築学会でつくりました。その中で保育研究は僕だけですね。早稲田の佐藤将之さんが中心でほかの方は建築関係ですね。(保育研究と建築で)コラボする機会をつくっていかないといけないし、保育研究者も学んでいかないといけないと思います。エビデンスがないので。絵本の読み聞かせコーナーがあったとして何色の壁が良いのだろうか、午睡のお部屋にしても、何色の壁にするとより子供にとってよいのだろうか、文化や条件によって違うはずですが、データが全くありません。その次元です。もしかすると実験になってしまうかもしれませんが、新しい園をつくる、またはその前段で何色がよいのだろうか、試行錯誤して保育現場の方の実感でお昼寝の部屋は淡いピンク系がよいのかな、前と比べてみたら確かに変わってきたというようことをひとつひとつ積み重ねていかないといけないのですが、実際はできていません。これはすごく良い会だと思います。僕も学ぶことがすごく多いです。これからですね。

地域の人が使う施設を顔の見える地域の人の手でつくること、社員大工の育成

相羽:みなさまお疲れ様でした。最後のご挨拶ということで、今回の主催である木造施設協議会の代表理事をさせていただいております相羽です。

さきほど見ていただいたように木造施設協議会は地域がつかう施設を地域の人が地域の材と工夫で建てましょうというのが会の大きな理念です。袴田先生のお話でも地域の最小の公共施設だという内容がありましたけれどもその通りだと思います。だんだんゼネコンさんだとかもっと言いますと東北の大震災でも大きなゼネコンや大きなメーカーさんが入られて、地域の人ではなくどちらかというと資本集約をされたような大資本が建てていったというような気がします。そんなことを建築業者も愚痴めいて話すこともあるんですが、ケースバイケースであるともちろん僕も思います。ただ、幼稚園、保育園、高齢者施設といった小中規模の施設に関しては使う方も地域の人だと思うんですね。何千平米の施設になりますと、地域の方だけでなく今どきのことですとインバウンドを含めて海外の方が利用されることもあるかもしれません。しかし1000㎡、500㎡では地域の人が使う施設です。だからこそ地域の人が建てて、お父さんが建てたんだとか、おじさんが建てたんだとか、ここも西川材で奥多摩から持ってきたんですが、おじいちゃんが手塩にかけた木材を使っているなど何か物語があったりだとか、職人さんたちの工夫がありながら設計者が工夫しながら建てるということが本来の地域施設の在り方なのではないかという気がしています。一方で先ほどの入札の話も含めてなかなか現実は難しいところであります。

余談になりますが、僕たちは最近社員大工さんを自分のところで抱えて自分のところで育てるということをしていますが、工業高校を出た子たちを先生からお預かりして就職してもらうんですが、昔は直接親方のところに弟子入りをしていたんですね。ですが今は学校の先生が出せないと言われてしまうんですね。みなさんにとっては弟子入りかもしれませんが、親御さんや学校にとっては就職なんですと。最低賃金も就業時間も守ってもらわないと就業規則がないところには出せない、と言われてしまうんですね。だからどうすれば良いかということで僕たちは会社員として採用して、親方に預かってもらって親方と一緒に育てていくという道を歩んでいます。そのことはいろんな困難があるんですが、一方でうちは去年まで5人入っていますが、今のところ5人頑張ってやってくれていて、実はここでも社員の大工が何人か入って施工しています。

相羽建設の若手の社員大工。普段は現場の親方のもとで修行し、手仕事体験イベントでは参加する子ども達にものづくりの楽しさを伝えている。

相羽建設の若手の社員大工。普段は現場の親方のもとで修行し、手仕事体験イベントでは参加する子ども達にものづくりの楽しさを伝えている。

施設は作り手の誇り、地域への愛着につながる。地域で応援し応援される関係へ。

ここですごく印象的だったのが大工さんたち、その若いのも含めてすごく誇らしげにしていて、二十何年やってもらっている大工さんの奥さんが「相羽さんのところで仕事させてもらってありがとう、家で仕事の話をほとんどしてもらったことがなかった。ただ最近は保育園や施設をやらせてもらっているのであれ俺がやったんだよね、と帰ってから話すんだよね。」と。そういう仕事をやらせてもらってありがとうね、と年末餅つきをやるときに話してもらって、そういうことがすごく大事だな、地域への愛情や誇りにつながっていくんだなと思ってこの協議会をつくらせていただきました。小さい会ですが一生懸命頑張っていきたいと思いますし、僕なんかは応援したり、されたりするような関係が地域にあるというのはすごく素敵なことだなと思っていて、僕らも会社で応援される会社になろうね、そのためにまず地域の人を応援できる会社になろうね、という話をしています。応援し、応援される関係で地域でやっていければいいなと思っています。おかげ様で地域で30数園、保育園幼稚園に関わらせていただいています。建てたところだけではなくて改修などでその後関わらせていただいているものもあります。関わった園の先生や園児さんの親御さんが住宅を建てていただくということがでてきて、非常につながっている感じがあっていいなと思っています。僕らも日々勉強していきたいと思います。この木造施設協議会は工務店だけでも設計者だけでもなくて、事業者さん、地域の方いろんな方に入っていただいて切磋琢磨していけるような関係になっていければいいなというふうに考えています。またこういったイベントの機会がありましたら、ご参加いただき応援いただけたらありがたいと思います。本日は先生方、ご参加いただきました皆様、土曜日、お忙しい中ご参加いただきましてありがとうございました。最後の挨拶にさせていただきたいと思います。ありがとうございます。

会場・協力:まつぼっくり保育園(運営:社会福祉法人 松栄福祉会)

文責・写真:木造施設協議会事務局

木造施設協議会について