インタビュー

WoodInterview
(4)子どもの耳と環境
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(4)子どもの耳と環境

声の音活動と建築的音対策

(4)子どもの耳と環境

話し手:埼玉大学名誉教授 志村洋子氏 / 建築家 袴田喜夫氏

(4)子どもの耳と環境

第4回では志村先生から音遊びと生声を中心としたわらべ歌の音活動のトレンドについて、袴田先生から音について建築的工夫と現状についてお話しいただきました。

音遊び、生声を中心としたやりとりを楽しむ

―音遊びと空間についてはどのようなものがありますか?


志村:
残響の長い保育室だったら「音のしっぽ探し」とか「音の蛍」を見てみようとかいろんな名前で「音」をきくことに集中する活動が実践されています。仏具のおりんを使ってチーンしたり、トライアングルをそっと鳴らしてみたり。最初から先生が静かにしようと小さな声で囁くと、どんなに騒いでいても子どもたちはふっと集中するんですね。小さい声でかつ小さい音を鳴らしてどこまで飛んでいったか、子どもたちがそれぞれ耳をすまして見つけようとする遊びです。他には、子どもに目を閉じさせたり、下を向いてもらい鳴らした音が聞こえなくなったら手を挙げるという遊び方もあります。ただ、面白いことに、子どもたちを見ていたら「音のしっぽ」はあっちの方(上)って指すんですよね。こっち(下)にいったとは言わない。不思議だなぁと思って見ているんですけれども、音は上に行くらしいんですよね。

先ほど言いましたように、保育の活動の際にはピアノの伴奏で歌うという固定観念がどうしてもありますが、それは少なくして、「歌声」を中心にした活動を、というという働きかけをずっとやっています。リカレント教育の場があったら言っています。どうしてかといいますと、子どもの聞こえの実際を知ると音の選択聴取が難しいので、声というシンプルな音をしっかり使って音楽のやり取りを楽しむことを優先したいからです。

赤ちゃんはピアノの音が鳴っていてもお母さんが歌い出すととっても喜びます。ピアノの音だけの時は全然微動だにしなくてお母さんの声が聴こえると突然にっこり笑うんです。どうしたのか、と思うくらいに赤ちゃんは声に反応するのでその様子の映像を見せるとみんなわかってくださいます。先日レッジョエミリア[i]に視察に行った人が「そういえばピアノがなかった」と言うのです。私はスウェーデンのストックホルムでいろんな保育園を見ましたが、遊戯室や多目的室には置いてありましたが、週に1回くらいしか使わないんですよ。楽器を使うとしてもギターですね。つまり子どもが先生の顔を見て歌えるようにする、それが主流でした。保育室においているピアノはグランドピアノではないですから、先生は前を向いて弾いて背中側に子どもがいますので、向き合えないですよね。自分が聞こえないから「はい!もう一回!」って大きい声で歌うことを要求するけれど、それはどうなのと思っていて。だから音遊び、音楽遊びっていうのはぜひ生声だけでお願いしたいです。


[i] http://www.aneverydaystory.com/beginners-guide-to-reggio-emilia/main-principles/

子どもを強く、有能で弾力があり、驚異と豊かな知識を持っていると評価した幼児教育への革新的なアプローチのこと。すべての子どもは大いなる好奇心と潜在力を持っているとして、生まれつきの好奇心はまわりの世界とその中での自分の場所を理解するために大切なものとして、興味を引き出します。プログレッシブで協同的な幼児教育への動きからイタリアのレッジョ・エミリアの町とその周辺地域に由来した、特有のもので、メソッドではなく、また訓練のための大学があるわけではありません。レッジョ以外の地域の学校や幼稚園はレッジョ・エミリアアプローチに触発されて、その地域社会のニーズにあったスタイルで実践している。(一部抜粋)

ピアノ伴奏から離れようが今のトレンド

―生声を中心とした活動はどのようなものがありますか?


志村:
今、保育活動にとり入れられているのは、わらべ歌です。どこの園でもわらべ歌を使って遊ぶようになりました。それも西洋のわらべ歌ではなくて日本古来のわらべ歌です。先生が「ネズミネズミ、ネズミネズミネズミネズミ♪」ってどんどん変えていっちゃう。あちらの園でもやっていたけれどこちらの園では全然違うネズミの歌になっていたりします。そういうふうにみんな勝手に言葉遊びを唱え歌にだんだんしていくんですよ。言葉遊びを唱えているうちにそれが関西弁なら関西弁、九州弁なら九州弁のイントネーションに寄り添った歌になっていく。それを日々聴いている年長児が、そばにいる赤ちゃんたちに「ネンネコネコネンネン♪」と先生のように歌いかけるんですよ。(歌いあげるように)「眠れよい子よー♪」とは歌わないんですよね、全然。ピアノからちょっと離れようというのが今のトレンドだと思っていただければ良いと思います。


袴田:
保育士を養成する学校ではピアノは必修と聞いています。


志村:
保育のプロだからピアノを弾けないといけないということはわかります。弾ける力を隠し持っていれば良いのです。いざ伴奏が必要だという時に弾いていただいて、「伴奏がつくとこんなきれいになるね」「こんな良いハーモニーがついていたんだ」「最後はこんなおしゃれなんだ、楽しいね!」」となれば音楽が生きてきてみんなで喜べるんですよね。活動場面によってはピアノを弾かないでCDをかけちゃったりするじゃないですか。子どもたちは一人ひとり、歌いやすい高さがそれぞれあるのですが、何しろCDは華やかに聞こえるように音程が高いので、子どもの声では音に届かなかったりして、調性の合わないとんでもないメロディになってしまいます。子どもにストレスをかけず遊ぶには唱え歌、唱え言葉が1番、トレンドはわらべ歌です。

保育の音と空間についての議論はこれから

―小さな部屋やアトリエ、子どものスケールを意識した設計をされていますが、空間のつくり方で音が変わってくると思います。空間と音についてどのように考えていますか?


袴田:
まだ僕の中では(音は)設計の手法にはなっていないです。音はまだ全然勉強できていないです。保育園の中では吸音材をどんなふうに入れていくのか、四角い部屋だとしたら6面あるうちの天井面、1/6強程度を吸音していればある程度、残響を長くできるという数字的なものがあります。しかし、そこから得られるものは天井だけ吸音材を貼れば良いだろうというくらいの話でしかなくて、建築の世界において音の話が、温度、空気環境のようにチューニングしていくような話になっているかというとほぼ100%なっていないと思います。それこそ音響設計という分野があるように、音楽ホールであれば空間と音のチューニングの世界がありますが、それ以外の空間での音のノウハウを持って建築の設計をしている人はほとんどいないでしょう。

今日は、志村先生から音楽について面白い話を伺いました。ピアノありきじゃないとか子どもたちがどういう唄から入っていくべきか、とか本当に興味深いのですが、保育内容と行われる建築の空間のスケール、小さい部屋がいいのか大きい部屋がいいのか、保育園の先生たちとすり合わせていきながらもっと議論をしていく必要があると思います。まだ答えは全然わからないです。

静かで小さい読書スペース

静かで小さい読書スペース

第一に天井の吸音対策

―保育環境にとって音の視点で重要な建築的対策は何ですか?


志村:

 どういう構造であろうとお願いですから残業時間を0.6秒程度に留めるような仕組みにしてくださいというしかないです。天井は綺麗という見た目だけでなく、吸音材であってほしいと思います。吸音材のメーカーさんに「安くしてください」「事務所みたいな穴あきのものだけではなくていろんなものを作ってください」「何色だって対応してください」「プリントでも柄でもつくってください」と今、お願いしています。吸音材が張ってあればどう設計、施工していただいても良いと思うぐらい天井が大切です。なぜなら床は絨毯やカーペットを敷いてはくれないからです。保育活動では床の汚れへの対応が難しいということはわかるので、保育士さんの負担になってはいけませんので、天井での吸音が望ましいです。「基本は吸音材を天井に張ってください」というのが私の強いお願いです。もう25年いろいろな所でお話していますが、なかなか改善されないのです。


袴田:
普通の公立の保育園では一般的に天井に吸音材が張ってあると思いますが、一番簡単です。


志村:
いいえ、そうはなっていません。そのような指示が設計の方から出ないのです。特に最近多くなったオープンスペースで長い廊下のような保育室で天井に吸音材をはっているところはみかけたことがないです。無垢の木がきれいにはまっていて北欧調だけれどと入ってみると、残念ながらとても賑やかです。


袴田:
天井吸音材は安いです。ここでも保育室には天井吸音材を張っていますが、普通の市販品です。でもできれば意匠的にもう一工夫したいと思っています。


志村:
吸音材にバリエーションが必要なんですよね。事務室のようなデザインだけだと使われなくなってしまいます。吸音対策には建築や建材に携わる方々の意識改革が必要では、と思います。


袴田:
よくわかりました。天井吸音材だけでは吸音性能として足りないでしょうか。


志村:
まずは直付けでも良いのでとにかく張ってくださるとありがたいです。ロックウールを入れて空気層をつくると良いのですが、それを入れても壁による反響がすごかったりするので壁にも本当は吸音材を張って欲しいです。壁の場合は、布の仕上げで吸音する素材など開発してくださいって随分あちこちで言っていますが、まだ成果に繋がっていません。

袴田:
今、世田谷で2つ保育園を設計しています(取材は2018年6月時点)。これまでの失敗を踏まえて、吸音に気をつけています。天井の中にはグラスウールを入れています[i]。 ただグラスウールだけ見えると見栄えが悪いのでその下に木のルーバーをつけて、それは音に影響せず上のグラスウールで吸音すると考えています。しかしその方法は実はいわゆる天井吸音材に比べてすごくコストがかかります。


志村:
くるんであるグラスウールですね?それはすごく良いと思います。


袴田:
グラスウールをガラスクロスで包んだもので、吸音性能が高いです。天井吸音材のジプトーンやソーラートーンはそれほど吸音性能が高くないですから、そういうところまでできると良いですよね。

[i]ホール・4,5歳児教室

吸音のための工夫がなされた木のルーバー天井(撮影場所:RISSHO KID’S きらり 代沢保育園)

吸音のための工夫がなされた木のルーバー天井(撮影場所:RISSHO KID’S きらり 代沢保育園)

取材日:2018年6月7日 聞き手:藤村 真喜 撮影:伊藤 夕歩
協 力:社会福祉法人 松栄福祉会 まつぼっくり保育園

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