オピニオン
木でつくる子供の環境(1)
地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナーin東京 でのご講演より
話し手:袴田喜夫建築設計室代表 袴田喜夫
2018年2月24日、羽村市まつぼっくり保育園で「地域の木材を活用した保育・福祉施設と健康を考えるセミナー」を開催いたしました。まつぼっくり保育園の設計者であり、木造施設協議会の顧問である袴田喜夫さんから意匠設計者として保育施設についてお話いただきました。第1部では保育施設を木でつくる意味についてお話いただきました。
はじめに
木でつくる子供の環境というお話をします。こちらのまつぼっくり保育園の玄関の写真です。上棟式では餅投げをして園児に集まってもらいました。こんなことも楽しめるのが木造の良いところかと思います。
私の設計事務所を簡単に自己紹介します。東京の渋谷区千駄ヶ谷にあります。スタッフは男性2人、女性2人、私を入れて5人です。保育園だけを手がけているわけではなく幼稚園、学校、図書館、集合住宅、住宅なども設計します。文化財建造物の改修も手がけています。保育園を設計するようになったきっかけはこの住宅です。
1998年に竣工した小さな木造住宅です。近くの保育園の先生が偶然見学に来てくださいまして、こんな面白いものを作れるならうちの保育園をやってみないか?ということで依頼されて、それ以来その先生からのつながりで今は保育園の仕事がかなり多くなっています。
保育園を木でつくったほうが良い3つの視点
私が考える保育園を木造でつくる意味を三つにまとめてみました。先ほども申し上げましたが、設計しているものは木造ばかりではなく鉄筋コンクリートや鉄骨も設計します。その(設計活動の)中で保育園は木でつくったほうがいいと思っています。とはいえ、鉄筋コンクリートの保育園もつくっていて、状況に応じて判断しなければならない時もあります。
第一に、地球環境を守っていくという視点です。地球温暖化ガス、CO2を少しでも減らしていかなくてはてはいけない。その点で建築が果たすべき役割があり、木造は他の工法と比較して優れています。
第二に子供の空間、大人の空間。先ほどの村上先生の発表の中にもありましたけれども子供のスケールはどんなものだろうと考えると、私は身長が180cmありますが、身長100cm前後の子供のスケールと同じはずはないです。大人と子供にそれぞれのスケールに応じた空間をきめ細やかに作ろうと考えたときに木造はつくりやすくてメリットがあると思っています。
第三は、1番小さな地域の公共施設という視点です。これからの保育園にとって、とても大切なことだと思います。学校や区役所とかいろいろな公共施設がある中で、保育園は補助金を受けてつくる施設ですし、地域の人にとって1番身近にある施設です。またこれから子供が減っていけば老人の施設に変わっていかないといけないかもしれません。いま保育園は多目的トイレを設けて地域の人に開放することを前提としてつくる部分もあります。
そういう意味で地域の公共施設であるという認識は園も設計者も持たないといけないと思っています。地域に親しまれる施設、嫌われる施設ではいけないと考えたときに、木造ならなんといっても工事の規模が小さくてご近所への負荷が少ないです。鉄筋コンクリートをポンプでガンガンガンガン回してダンダン打って作っていく、もしくは巨大なクレーンが来て鉄骨の柱をあげて建てる鉄骨工事に比べたら、木造の工事の規模は小さいです。基礎も音も小さいです。そういう点で木造はほかの構法に比べて建設時にも迷惑施設ではないということは意味があると思っています。
CO2排出削減の視点
先程のCO2の排出の問題です。これは少し古い資料ですが建築関係のCO2排出シェアについてグラフがあったので持ってきました。
少し古い数字ですが日本全体の排出量は3.2億t-C[1]、これだけのCO2が出ています。その中で、住宅ビル運用まで建築関係で全体の36%もある。それをぐっと小さくすることがとても大切なことなのです。
長寿命、省エネルギー、エコロジカルマテリアル
CO2削減のために建築がしなければいけないことは、長寿命であること、省エネルギーであること、エコロジカルマテリアルを使うということです。長寿命は当たり前です。10年で壊すものを30年もたせる、30年で壊すものを50年もたせる、当然建てるときのエネルギーは同じですから建物の一生でみるとCO2の排出量が減る。それから省エネルギー、建物を使うときにできるだけエネルギーを使わないようにする。ここで使っているOMソーラーシステムのように再生可能エネルギーを使うということが大切です。あとエコロジカルマテリアル。木造にしましょうということです。
更新や管理のしやすさと長寿命
長寿命のためには何をしなければいけないかと言うと、ひとつは綿密、合理的で、余裕のある配置計画。例えば敷地境界ぎりぎりに建てた建物はダメです。メンテナンスができなくなりますから。次に日常の維持管理が容易な設計にすること。壊れるものを必ずメンテナンスできるように、部材が替えられるようにするということも大切です。3つ目は変化に対応できる計画であること。保育園は、将来半分は老人のための施設に変えるという時代にも対応できるような設計にしなければいけない。4つ目は寿命の異なる部位ごとの更新が可能な設計ということです。よく法隆寺は1000年保っていると言いますが、昔の大工さんがすごく優秀だったから保っているわけではありません。腐った部材を替えているからなのです。そういう意味では木造は長寿命に適しているというふうに考えます。これはStewart Brandという人が書いた『How Buildings Learn』 という本で、僕たち建築を学ぶ人間がよく読む本ですが、建物はこういう階層でできていると言うことを書いています。
地面の上に構造(structure)があって、構造の外側に外皮(skin)があって、その内側に内装、家具(services)があってその中に生活があるという図です。建築は層でできているので、その層はきちんと分離してメンテナンスできるようにしなければならないということです。
性能と自然エネルギー、高効率な設備による省エネ
省エネルギーにするためにはまずは建築の性能、気密断熱性能をあげければいけない。次は自然エネルギー利用、日射利用と遮蔽、換気通風、高効率な設備機器を使うことも大切です。10年前の冷蔵庫は今の冷蔵庫の何倍も電気を使います。エアコンもそうです。エアコンには効率を示すCOPやAPFという数字が書いてあります。COPがどういう数字かと言うとCOPが6のエアコンでは、1の電気エネルギーを加えた時に6の熱エネルギーがでるということです。皆さんエネルギー保存の法則をご存知ですよね、1のエネルギーに対して6のエネルギーが出ると言うのはとてもおかしなことなんですけれども、エアコンはヒートポンプという仕組みを採用していて、エネルギーを新たに作っているのではなくて、コンプレッサーを回転することによって家の外の熱を家の内側に持ってくるという仕事をしています。1のモーター回転のエネルギーだけで6倍の熱エネルギーを運ぶことができるというのがCOPの数字が示す意味です。
断熱性、気密性、換気性能、通風もとても大切だよ、夏の日差しは防ぎましょう、熱容量も大切ですと。熱容量とは内部に取り込んだ熱を少しでも貯め込むような建築にしなければいけないということです。
エネルギー、CO2の視点からエコロジカルな木材
エコロジカルマテリアル、木造建築は都市の森だといいます。木は成長するときにCO2を吸収します。ですから木をそのまま使うということは、吸収したCO2をそのまま固定するということです。
次に適材適所、過不足のない材料選定をするということです。何回も言っていますけれども条件によっては鉄筋コンクリート造も設計しています。でも、保育園は木造の方がよいと思っています。また、地産地消ということ。これは結構大切で、木はとてもエコロジカルなマテリアルですが、外国から持ってくると輸送エネルギーを使うから、なるべく里山の木を使おうということです。
各建築材料の製造時のエネルギーをグラフにしました。1㎥の材料を製造する際に、どれだけのエネルギーを使うかという事です。
自然乾燥木、人工乾燥木、合板、ボード、鉄材、アルミニウムで、製造時にこれくらいのエネルギーを使います。自然乾燥木は当然エネルギーをあまり使いません。人工乾燥木、合板、ボード、鉄材、アルミニウムにはこんなに使う。建材としての使い方が違いますから立米で換算するというのはちょっと違和感がありますが、自然乾燥木、人工乾燥木、合板、ボードは木質系建材で製造時のエネルギーがとても少ないということです。原油で換算すると人工乾燥木で36リットル、鉄は7000リットル、アルミニウムでは原油28000リットルということです。
続いてウッドマイル、つまり木材の輸送過程での消費エネルギー、白が製造時のエネルギーを1立米あたり原油換算した図です。
北米材でもロシア材でも欧州材でもチリ材でも国産材でも製造時のエネルギーは同じです。木を伐るときのエネルギーですから同じようなものです。それが日本に輸送してくるとどれだけエネルギーを使うかというと、これだけエネルギーを使います。僕も欧州材やロシア材を使うこともあります。だけど外国の材料を船で運んでくるということがこれだけエネルギーを使うことに対して国産材は6.5リットルしか輸送時に使わないということです。だからできるだけ国産材を使いたいと思っています。
———
[1] 二酸化炭素はCO2という化学式で表され、炭素1原子と酸素2原子からなる分子量約44の気体です。温室効果ガスインベントリでは、CO2の重量を炭素と酸素を含めた重量で表現します。一方、地球の炭素循環を研究する自然科学分野では、大気中の二酸化炭素が陸上植物や土壌有機物に変わりながら循環することを表現するため、二酸化炭素の重さでは誤解を招きます。そのため、炭素だけの重量で表現します。(国立環境研究所)つまりt-Cは炭素としての重量であり、二酸化炭素に換算するときは、44/12を乗算します。
会場・協力:まつぼっくり保育園(運営:社会福祉法人 松栄福祉会)
図、写真:袴田喜夫建築設計室提供
文責・セミナー写真:木造施設協議会事務局