オピニオン
自分らしく、居心地のよい子供の時間と空間(2)
保育環境オンラインセミナー設計編より
施設名:きらり岡本保育園(東京都世田谷区)
話し手:袴田喜夫建築設計室代表 袴田喜夫
2020年9月17日に開催いたしました「自分らしくいつまでも居たくなる空間」をテーマに保育環境オンラインセミナー設計編の収録です。
第2回では岡本の保育園の事業コンペから配置計画、子供だけのスペースについてお話いただいています。
岡本の保育園園長のインタビューも併せてご覧ください。
http://mokuzoushisetsu.or.jp/opinion/opinion-3463/
事業コンペから園長と一緒につくった岡本の保育園
いよいよ本題の保育園、「きらり岡本」です。多摩川の北側で敷地の近くには静嘉堂文庫美術館がある、世田谷の中でも標高が高い大変良い場所です。敷地には、もともと海上保安庁の官舎がありましたが世田谷区が国から借り受けて半分を公園に、もう半分を保育園にしようというプロジェクトでした。公園のほうは粛々と進みましたけれども、保育園の方は事業コンペになりました。世田谷区は実は日本一待機児童が多い地域で保育園の誘致にすごく熱心なのですが、その世田谷区の中でも環境の良い、面積も大きい良い敷地だということで大変話題になりました。理想の保育園はどこで作るんだと悩んでいた坂本園長と僕とで、この世田谷区の事業コンペに応募してとったということです。
北半分が公園になります。東側の道路に面したところにバスの送迎用の車よせがあって南側に園舎がある。大きな園庭と端っこのところに乳児の0歳児と1歳児用の園庭がある。こんな全体の配置計画です。
特色あるレイアウト
先ほど先生が迷路のような複雑なプランだとおっしゃっていましたけれども、この園はプランニングに特色があります。まずエントランスを入ると事務室です。今までつくった保育園はほとんどそうですが、なるべくオープンな事務室にしています。子供たちが入ってくると先生がいて「おはよう」と声をかける、そんなような事務室です。このまままっすぐ廊下を入っていきますと外廊下になります。先ほど坂本園長が動画の中で話をされていたのがここの場所ですね。わざと曲げてちょっとした溜りがあってそのまま奥に入っていくというレイアウトになっています。一番奥に0歳児室、迎え合わせるようにして1歳児室があり、テラスがあって顔を合わせることができるような関係がつくられています。
各年齢の保育室をどこにつくるのかというのは、どこの保育園の計画でも、もちろん一番大切なことかと思います。たいていは0歳、1歳、2歳と3歳、4歳、5歳という組み合わせで分かれることが多くて、今までつくった保育園でもそういう園が多いです。ただ今回の保育園では2歳児室をどこに置くかということが課題になり大変悩みました。というのも坂本園長は2歳児がとても大切だと考えられているからです。当初は手前に0歳児室、1歳児室を置いて、奥に2歳児室、3歳児室、4歳児室を配置する計画もあったんですけれども、最終的には逆になりました。
トンネルでつながる2歳と3、4歳
乳児というと保育園では0歳を指しますが、0、1歳児から2歳になって3、4、5歳になっていくその2歳児の段階がすごく大切だと坂本園長は考えていらっしゃいます。その2歳児のお部屋は3、4歳児を見て育つようなところにおきたいということでこのレイアウトになっています。2歳児と3、4歳児が共有して使う外部のスペース、テラスを経由して2歳児が3、4歳児と常に顔を合わせる、遊びを見られます。2歳児の部屋から3、4歳児の部屋に行く室内のルートはトンネルのようになっています。坂本園長が「よく勇気を持っていく」という表現をされますが、このトンネルを潜っていくとお兄ちゃんお姉ちゃんのところに2歳児が遊びに行けるという関係になっています。
掘り込んだ絵本コーナーと子供だけのスペース
3、4歳児の部屋の間には絵本コーナーがあります。これは比較的大きなコーナーで掘り込んでレベルを下げていますけれども絵本を読むことに限らず、例えばここで先生が子供たちを集めて何かお話をすることもできます。上は天井高が大変低いスペースで子供たちが寝転がって遊べるようなスペースです。
落ち着いて着替えができるロッカースペース
各保育室は着替えのためのロッカースペースがあります。
ロッカースペースは、子供たちが落ち着いて着替えることができるスペースにしようと考えていてさきほどのむくどり風の丘保育園の頃からやっています。まさに子供たちが朝来てまだ不安を感じている時に急かされることなく、不安を感じることなく、家具の影に隠れて着替えることができるような、そういうスペースをつくりたいなということで、それぞれの保育室の中に家具に囲まれたコーナーをつくるようにしています。
実は3、4歳児のロッカースペースは少し特殊で3、4歳児の保育室から外れたところにあります。3、4歳児が5歳児の動き、2歳、小さな赤ちゃんの様子、保育園全体の動きを見る時間をつくれるように工夫しています。
憧れの存在として見上げられる5歳保育室
実はこの保育園は5歳児だけ特別なところと考えて、2階に部屋があります。私がつくってきた保育園の中で5歳児だけが別というのは初めてです。これは今回の保育園の中で1つ大きなテーマになっています。5歳児は保育園の子供たち全体の中の憧れの存在、スターのようなものだと先生がおっしゃっています。階段を上っていくと5歳児の部屋があり、吹き抜けを囲むような少し特殊な形になっています。少し囲われた、落ち着けるような着替えのためのロッカースペースがあります。階段の吹き抜けを大きなガラス窓が取り囲んでいて、下から小さな子供たちが見上げると5歳たちが遊んでいるのが見えるようになっています。
吸音対策をした天井
部屋の中に家具を置いて、いろんなコーナーを臨機応変に作っていくような考えでできているのですが、家具をおかないでも少し落ち着けるスペースを作ろうということで右側にあるところが少し囲われたスペースです。天井面で白くない右側の天井は吸音のために作っている天井です。保育園ではよく岩綿吸音板を使うんですけれども、あまり吸音性能が高くない割には使うと「施設」のようになってしまうんです。住宅では岩綿吸音板を使わないので、学校のようになると言いますか、子供たちが生活する保育園は住宅のようであってほしいのでなるべく僕は岩綿吸音板を使わないようにしています。それで吸音しようとするとなかなか難しいのですが、ここでは青森ヒバを加工して内側にグラスウールを張り込んだ特殊なパネルをはめ込んでいます。
文責:木造施設協議会