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自分らしく、居心地のよい子供の時間と空間(4)
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自分らしく、居心地のよい子供の時間と空間(4)

保育環境オンラインセミナー設計編より

自分らしく、居心地のよい子供の時間と空間(4)

施設名:きらり岡本保育園(東京都世田谷区)
話し手:袴田喜夫建築設計室代表 袴田喜夫

自分らしく、居心地のよい子供の時間と空間(4)

2020年9月17日に開催いたしました「自分らしくいつまでも居たくなる空間」をテーマに保育環境オンラインセミナー設計編の収録です。
第4回はインタビュー形式でさらに保育園の設計にこめられた考えを深堀します。
岡本の保育園園長のインタビューも併せてご覧ください。
http://mokuzoushisetsu.or.jp/opinion/opinion-3463/

花が咲く、実がなる木

藤村: 外観には蛇篭をよく使われますか?ブラックベリーがなっていますが樹種の選定についてお考えをお聞かせください。

袴田: 幼稚園保育園の先生とお話をすると四季折々の花が咲く木や、実がなる木を随所に植えてほしいと言われます。ブラックベリーや金柑は僕はよく使いますね。金柑はすぐ食べられて割と良い位置に実がなるので。コロナの話やノロの話があると先生方もすごく注意されてそのまま食べるのはまずいんじゃないかと心配される先生もいらっしゃるんですが、早くおさまってほしいです。

築山がつなぐ景観

藤村: 隣の公園とはレベル差があるようです。見通しを作りながら高低差を生かしているという印象ですけれども、レベルをどの程度で設定するかについて先生とご相談されたことを教えてください。

袴田: 最初にご説明したように世田谷区としては目玉の事業だと思います。大変広い4000㎡近い敷地でその半分を公園にして半分を保育園にしようという、大変幸運なプロジェクトですので公園側もすごく協力的に動いてくださいました。実はこの築山は敷地をまたいで山になっているんです。つまり、築山から公園側に降りていくと公園の敷地のレベルまで降りないで山の途中にフェンスがあります。フェイスを作るのは仕方がないのですが1つの景観にしようということを僕たちの方からご提案したところ、すでに世田谷区の公園計画が決まっていたにも関わらず、公園課の方がすごく協力的にしてくださって大きな景観を作ることができました。

年齢に合わせて勾配を変えた築山

この庭に関しては、ランドスケープデザイナーが入っていますが、変化をしていくことを大前提としています。坂本園長は子供たちはどんどん踏んでしまうから常時植え替えが必要かもしれないし、雑草はいいからとにかく築山の上に水栓を1つ埋めておいてほしいということくらいで大変ラフなつくりをしています。ただ築山の勾配には注意をしていて、手前側に幼児、そして奥側に0歳児、1歳児がいるので築山の手前側の勾配は急にして、0歳児1歳児側はすごく緩勾配にしています。0歳児の赤ちゃんでも這って登れるようにしようと勾配を決めています。

通過のためだけではない溜りのある廊下

藤村: 外廊下を挟んですぐ外に出られたり、廊下にテープを貼って線路に見立てて遊んでいたりするというような様子です。あまり廊下や外廊下、室名が用途を限定することがないように空間構成されていると思いますがそのあたりについてお話いただけますか。

袴田: 古い保育園のプロトタイプというのがあります。昔の保育園は設計期間も短かったということもありますが、最初に僕が保育園をつくった頃の保育園は皆、長方形で南側に保育室が並んでいて一方に玄関があり、中廊下を挟んで北側に事務室、トイレ、厨房、休憩室と並んでいるというのがほんとに保育園のプロトタイプなんですね。今でもまだ残っているかも知れませんけれども、20年位前までは当たり前でした。当時のプロトタイプに疑問を感じましたし、その頃に保育園の先生が「廊下って無駄なスペースなのでつくるのをやめようよ。部屋と部屋をつなげばいいじゃないか、何かしら目的があるような廊下をきちんとつくってほしい。」というようなことを言われました。以来、廊下があることがあっても、コーナーに何かスペースをつくったり、さきほどの外廊下の場合はわざと曲げて少し幅を広くして、子供たちも少し椅子を置いたりだとかテーブルを置いたりしても動線の妨げにならないようにするといったことをしています。通過するだけの廊下だと結局、子供たちが走っちゃうということもおきますし、あまり楽しくないかなぁと思います。

藤村: 見通しが良いとかえって子供たちが終点のドアめがけて走るということを聞いたことがあります。あえて動きに緩急をつくるという、たまることができるスペースを設計されているのですね。

安全性と楽しさ、レベル差による仕掛け

藤村: 高さをいくつか使い分けておられますが、子供たちの安全性を指摘されることがあると思います。絵本コーナーの堀込や調理さんの目線の高さが合うように調理室の床が低くなっていたりしています。レベル差をつくることについて安全性を含めてお話いただけますか。

袴田:保育園の場合に床のレベル差をつくるのは、保育園の先生とうまく合意が作れないとなかなか難しい部分があると思います。それこそレベル差が原因で転んでおでこを切ったというような恐ろしい電話がかかってくるんじゃないかと結構心配しています。それでも僕たち大人が心配するほど、子供たちは転ばなくて、先日木造施設協議会でも紹介してくださったまつぼっくり保育園でもホールの中にレベル差をつくった時に、先生方からすごく反論が起きました。実際始まってみると先生たちの心配は全くの杞憂で、子供たちは何の苦もなく歩いていてよかったね、となりました。それで力を得たと言いますか、坂本園長も子供たちは(レベル差があっても)本当に大丈夫なんだよ、とお考えになっていますので、割と今回は高い低いところをつくっています。そうなると建築基準法としてはうまく整理がつかない難しい部分もあるんですね。それでもやる価値はあるかなと思います。高さをどういう寸法にするのかについてはいつも悩みます。なかなか正解がないので、先生といつも相談しながらやっています。

藤村:ありがとうございます。子供たちは机の下やロフトのようなところが大好きで目線が変わる面白さが大人以上にドラマチックに世界が変わるように感じるのかなと思います。

場所を選んで楽しく食べる

藤村: 子供たちが楽しく食べてくれるということが1つ子育てのテーマだと思います。好きなところを選んで食べることについて園長先生と話された事はありますか?

袴田: 僕たちもそうですけれども、会社で昼飯を食べる時にみんなで行きたい時もあれば、ちょっと今日は気持ちがブルーだから1人で行きたいなということがあるじゃないですか。子供も絶対あるんですよ。最初の頃の保育園でもその話はありました。実際保育園のお昼ご飯時に見に行くと、1人で食べるカウンターが意外に人気なんですね。必ず何人かいるんです。あと2人だけで食べているのだとか。2人で食べると4人のテーブルを占領できないじゃないですか。大人も子供も一緒で、みんなで食べようというのが良いのか、自由に場所を選んで食べるようにした方が良いのか、僕には結論は出せませんけれども、何かこうやって子供たちが1人2人で楽しそうに食べているのを見るとこういうスペースもあっていいんじゃないかなといつも思います。

文責:木造施設協議会
聞き手:藤村 真喜

木造施設協議会について